29-泥の上で
素肌を求めて乱暴に動いていた手が、
「キャーー!!」
生暖かく、ぬるっと麗叶に触れた。
「中野さん、お願い!止めっ」
「違う!仕方ないんだ!俺は悪くない!」
思うように手が洋服の下に入らず、中野が泥にまみれたシャツを強引に引っ張ると、ねじれた布が麗叶の素肌を摩擦で赤くしていく。
「この、この、この!!」
「嫌ぁーーー!!」
ピカッドン!!!!
地震のような雷が、中野の動きを止めた。
地面を背にした麗叶に、天から大粒の雨がぶつかってくる。
ザーザーと、顔に付いた泥を流していく。
「全部無くなったんだぞ。。俺は悪くないのに」
中野は天を仰ぎ、雨を浴びながら髪をかき上げた。
その仕草が、麗叶にはひどく芝居がかって見えた。
「俺は悪くない…俺の、俺の気持ち、あいつらが踏みにじって…ウッウッウ。」
中野が…
(泣いて、、る?)
「あいつらの、ウッウッウ…せいで」
(なんであんたが泣いてんの?!)
震えが強くなる。
麗叶の中で、恐怖と一緒に怒りが湧いてきた。
「俺は悪くない!悪くない!俺じゃない、あいつらが悪いんだー!」
「いいかげんにしなさい!!!」
ザーザーザー
ザーザーザー
「…はぇ…?」
濡れそぼった中野が、だらしなく口をダランと開けている。
「な、に…?」
「ふざけんじゃない!甘えるのもいいかげんにして!」
麗叶の激情が、中野の体を縛る。
「俺は」
「どうしてあなたが泣いてるの?!今まさに私の気持ちを踏みにじってんのは誰?!」
「俺だってこんなことしたくてしてるわけじゃ」
「大体こんなことして何になんの?!本当に仕返ししたいなら、仕事で見返してみなさい!」
「う、う、うるせーーー!!」
バシっ!!バシバシ!
「お前に何が分かんだ!」
叩かれた頬は痛くなかった。ただ、ひどく冷たかった。
「分かんない!分かりたくもない!いいわ、レ、レ、レイプでも何でもしたら?!」
唇が震えてうまく話せない。
それでも、麗叶はまっすぐ中野を見据える。
「言っとくけど、私は泣き寝入りはしないわよ!必ず訴える。絶対に許さない。負けない!あんたなんかには、絶対に負けないんだから!」
「黙れ黙れ黙れ!!!!」
中野は、麗叶から視線を外すように頭を振り回しながらブラウスを引き裂いた。
麗叶は抵抗を止めた。じ………っと中野から目を逸らさない。
震える唇を噛みしめて。
中野がひるんだその一瞬、
ザザッ!!
「カッコイ~!!」
草むらから黒い物体。
それは、叫ぶと同時に中野を蹴り飛ばす。中野は吹っ飛んで、泥水に顔を突っ込んだ。
麗叶は急いで身体を起こす。
見知らぬ男が立っていた。
男は中野を水溜まりから引きずり出すと、その背中にドッカリと腰を下ろした。
「あなた、ほんとスゴイわ!!」
息を整えながらニカッと笑った。
そこへ、
ずぶ濡れで息を切らした、もうひとつの影が…
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