↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瞳孔を冷やして。  作者: 橘樹 杏果


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/59

24-ルゥには…

最年少のルゥが、メンバーの中で一番大人びて見える。

切れ長の大きな目で「こいつは敵か味方か」、見極めようとする。


いがみ合いのない世界なんて無い。

諦めて生きていた。


姉が勝手に送った履歴書がきっかけで、流されるままデビューが決まった頃、

ルゥは自分の中にある「優しさ」に全く気付いていなかった。



デビューして間もなくの、まだ太陽が傾いていない真昼間(まっぴるま)、

ルゥが電車を降りたのは気まぐれだった。


(都内でも、こんなに綺麗な紫陽花が咲いているんだな…)

ルゥは吸い寄せられるように、改札を出ていた。


閑静な住宅街でぼんやりと紫陽花を眺めていると

視線を感じた。


後方にいる数人の女子高生たちが、こちらにスマホを向けている。

カシャカシャと撮影音も聞こえる。


「はぁ」

短くため息をつき、その場を離れる。


隣駅まで歩こうと決め、住宅街の小道を進んだ。

遠巻きに付いてくる高校生から隠れようと、角を曲がった、その時


ドサっ!!と何かが倒れる音


ブオオオっ!!

重なってバイクのエンジン音(おん)


「!!?!」

ルゥの視線の先 ー

一本道の遥か向こうに、誰かが倒れている。


「あぁ、ぁあ、、あ」

突然に鞄を奪われた老婦人が

助けを呼ぼうとしているが言葉になっていない。



ブォオオオオオーーーン!!


キャー!と

たまたま居合わせた通行人達が

素早く道の両端に分かれ、壁に背中をつけた。


黒いヘルメットをかぶった男が

奪った鞄を片手に持ったまま狭い道路で一気にスピード上げ

こちらに向かって突進してくる


「バ、バ、バッグ、返して、、」

倒れた婦人の頭が赤く染まっていく


ルゥの頭に

カッと血が上(のぼ)った。


「・・・」

怒りがこみ上げてくる。



この間(かん)わずか数秒。



ルゥは素早く振り返り

背後に誰もいないことを確かめると

左手の紙製ショップバッグを強く握りしめた。



ブ、ブ、ブッォオオオオーーー!



バイクが猛然と近づく。


ギアを変え スピードを上げ

「テメー!!どけ!!」



「ぶつかる!!!」

「キャー!!」

女子高生達が叫び声をあげた時


タっ!!


ルゥは軽々と身をかわし

横の壁を蹴って、跳んだ。


その勢いのまま


グガッ、シュ!!!!!!!


走るバイクの男の顔に紙袋を押し付けた。


ガシャーーーンっ!


驚いた犯人がハンドルから手を放すと

バイクは横倒しになり火花を散らしながら彼方まで滑っていった。


男は激痛で悶えている。


ルゥは、投げ飛ばされた婦人のバッグを拾うと

老婦人の元へ駆け寄りながら

「救急車、電話して」

と高校生に声をかけた。


「頭、痛みますか?俺の声、聞こえますか?」

そう言いながら、婦人の鞄を手に握らせる。

「救急車来るまで動かない方がいいです。このまま寝ててください」


「逃げちゃう!ルゥ!!あいつ、逃げちゃうよ!!」

女子高生達がひったくり犯を指さしていたが、

ルゥは知らん顔で、自分の上着を老婦人の頭の下に

そっと敷いていた。



その後、救急車やパトカーが狭い路地を埋め尽くした時

ルゥは姿を消していた。


後日、犯人逮捕と被害者救済に貢献したとして

警察から表彰状を授与したいとの申し出があった。


ルゥは頑な(かたく)に拒否したのに、

当時マネージャーだった中野は良い宣伝になるからと強引に事を進めた、その結果


「来栖さんと連絡が取れません!!」


表彰式当日、新聞記者が待ち構える会場に、ルゥは最後まで姿を見せなかった。


ルゥにとってはしごく当然の行動なのに、

商売の道具にされ宣伝されるなんて

反吐が出るほど嫌だった。


他人に期待しない

されたくもない


そもそもルゥは、メンバー3人にも心を開く気なんて、さらさらなかった。


でも…3人は不思議なくらいルゥを可愛がった。

特に、人見知りのはずの芯が、一番ルゥを気にかけた。

甘やかしたり、頼ったり、ワガママをぶつけてきたり。

個性的な彼らの優しさは、いつも、さりげない。


そんな中、ルゥの優しさも開花していった。


ーーーーー


「また、つまずいた…」

高2の夏、何となく目についた新米のセンセイ。

なんでか放っておけない。

気がつけば目で追うようになっていた。


「手伝う?」

「いいの?ありがと~」


他の先生が、芸能人のルゥを色眼鏡で見る中、このセンセイだけは違う。

いつも普通に接してくれるのが、嬉しい。


「え?!来栖くんって芸能人だったの?それって有名?」

ただ単に知らなかっただけだと知って、ルゥは大笑いした。

しかし、その後も、センセイの態度が変わることはなかった。


「大丈夫?」

「あ!来栖くん!また変な所見られちゃった」

「よくつまずいてるね?」

「私、ちょっとだけ歩行があやしいの」

「?」

「歩くのが下手っていうか」

センセイが眉を下げ、困ったように笑った。


「…どういう意味?」

「やだ!同情とかしないでね。ちょっとだけよ。」

ルゥは、ますますセンセイを目で追うようになった。

これが同情なのか、なんなのか。


ルゥには分からない…


「お前ってほんと、勉強、好っきだなぁ~」

どんなに忙しくても学校へ通うルゥに、アキラは感心していた。


たまに会う。


たまに話す。


よく助ける。


よく教室から眺める。



半年後、センセイは退職していった。

寿退社。

彼女の最後の出勤日、ルゥは学校を休んだ。



あれは過去の話ーー

そう思っていた1年前、

ルゥは『センセイ』に再会した。


彼女は


靴を履いていなかった。




もし楽しんでいただけましたら、

ブックマークや評価(★)、感想やリアクションなどで応援いただけると

執筆の大きな励みになります。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。