22-氷の欠片
勢いで入ったまではいいが、しばらく棒立ちのまま、動けない。
こちらに背中を向けて眠っている麗叶に
「…と、ぁの…。。。お邪魔します」
小声で一応、挨拶してみる。
「というか、…してます…」
室内には、麗叶の香水が、ふんわり漂っていた。
「ん…」
麗叶が動いた。
薄闇の中で、寝返りをうつ。
「…ぅ…」
麗叶は、熱にうなされ、夢と現実の間にいた。
「だれ?」
「…。」
芯は、緊張している自分が恥ずかしくなった。
静かにお盆を置いて、麗叶に近づく。
「芯?」
麗叶は夢だと思っていた。
(夢…これが私の望んでる事…?)
芯の大きな手が、おでこに触れてきた。
「熱いな」
「お水。。。」
「ん?」
「水、ちょうだい…」
熱い息遣い、かすれた麗叶の声が…
「起き上がれるか?」
「…ダメ…。」
芯をゾクゾクと刺激する。
我慢ばかりしている麗叶のわがままが、愛しい。
芯はコップに入った氷を
ひとつ、すくった。
氷の欠片を、麗叶の唇にそっと置くが、つるつると頬を滑って、逃げてしまう。
芯はコップを見つめた。。。
カラン…
氷が溶ける…
芯は、もう一度コップに指を入れ、氷を、自分の口の中へ…
舌の上で溶け出す水を、
ゴクリと飲み込んだ。
「……」
枕の両端が揺れ、闇が一段暗くなったので、
麗叶は、うっすらと目を開けた。
芯の腕の長さの分だけ、保たれていた二人の距離。
少しずつ、布団が沈む。
月の光をバックに、芯の吐息が麗叶に触れた。
遠慮がちに、しかし、
「…ぁっ」
すぐに強く押し付けられた唇。
麗叶の唇は、芯に開かれ、
(氷?)
冷たいカケラが、麗叶を潤した。
(美味しい…)
急に暑さを感じた麗叶は、
身をよじって布団から肩を出した。
麗叶の身体に、汗で張り付いた布切れ。
着やせする麗叶の盛り上がった胸の間、
ツツツ…と汗が流れる。
「!!!」
芯は、急いでベッドから身体を離した。
必死に息を整え、意味もなく自分のTシャツの裾を伸ばす。
「俺…看病…できっかなぁ~」
(よし!)
考えた末、
(いったん、外に出よう!)
廊下に出た芯は、深呼吸を5回した。
「頑張れ、俺!」
ーーーーーーーーーーーーー
どれくらい眠ったか、分からない。
「目、覚めた?」
「!?…芯!なんで?」
「気分は?」
麗叶は戸惑った。
しかし、すぐに汗まみれの自分が恥ずかしくなって、シーツで顔を隠す。
「大丈夫か?寒い?」
「ううん。」
「なんか食えそう?薬飲まないとな」
「うん。ぁの、、その前に、、、着替えていい?」
「ぁ、じゃ、出てる」
時計の針は6時を指している。
白い光がカーテンを通り抜け、床に広がっていた。
「芯、いつから居てくれてるんだろ?」
麗叶はベッドに座って、周りを見回した。
濡れたタオル。
冷めたお粥。
水滴だらけの、、コップ。
昨日の夢を、ぼんやり思い出す。
…冷たい氷
…温かい、、、、唇?
麗叶は、
薬指で、唇に触れた。
コンコン。
「あ!ちょっと待って。シャワー浴びる!」
麗叶はシャワー室に駆け込んだ。
シャワーを済ませ、部屋の扉を開けると、お盆を持った芯がポツンと廊下に立っていた。
「新しいお粥、チンしてきた」
「ありがとう!ごめんね」
麗叶はお盆に手をかける。
「もう私、全然大丈夫だから。ありがとう!
芯だって病み上がりなんだから、もう休んで!」
「うん。分かった」
芯はお構いなしに部屋へ入り、ベッドの上に腰掛けた。
ぽふぽふ、と布団を叩く。
(そ、そんな優しい顔しないで…)
真っ赤になってうつむく麗叶の耳を、芯の声がくすぐる。
「おいで。」
逆らえず、おずおずと麗叶はベッドに座る。
「お粥。はい。あ~ん」
「や、じ、じ、自分でっ」
芯の隣で麗叶が慌てている。
(。。。。。まーな。人間そうそう、変わんないか)
芯は真面目な表情になった。
「お詫びなんだから、気にすんなって」
「そんな!お詫びなんて…」
「ふぅ~ふぅ~。はい。あ~ん。。。ああああああぁぁぁぁーーーん!!」
「ぁ、ぁ。……ぁ~ん」
「うまい?」
「ん。…」
「だろ?」
嬉しげにスプーンでおかゆをすくっている子供みたいな芯の表情に
麗叶の壁面が
ポロリ と剥がれた。
「水…」
「?」
「お水、ちょうだい」
芯の頭に、昨夜の氷がよぎる。
(カラン…)
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