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瞳孔を冷やして。  作者: 橘樹 杏果


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21-俺がいく

目覚めると、麗叶は車の中にいた。


「むっちゃん?」


マーミヤの付き人のむっちゃんが、運転しながらニッコリと微笑んだ。


「…ごめんなさい。迷惑をかけちゃって」

と、麗叶は口元をわずかに動かす。


「芯くんに、風邪うつされたんですって?

さっきまで大変でしたよぉ~!

自分が病院連れてくって、間宮先生と大喧嘩してました。

あんなに慌てた芯くん、初めて見ましたよ」

むっちゃんは、明るく笑ってくれた。


病院で点滴を受けて合宿所に戻ると、

マーミヤが一人、ダイニングの椅子に脚を組んで座っていた。


麗叶は深々と頭を下げる。

「ご迷惑おかけして、申し訳ございませんでした」


マーミヤはタバコをふかしながら、麗叶を一瞥(いちべつ)した。


「無理をすればイイってもんじゃないのよ。

アナタが倒れたのを見て、あの子達のモチベーションがますます下がったわ。

レッスンなんか、出来たもんじゃない!

倒れるなら、自分のお部屋で倒れなさい」


「はい…」


「熱、まだあるんでしょ?今日はもういいわ」


「本当に…申し訳ございませんでした」

麗叶は壁を頼るようにして出て行った。


一人残ったマーミヤは、長さを残したタバコをもみ消し、新しい1本に火をつけた。

「でもね~。わたし、頑張る子って好きよ」


麗叶の仕事への姿勢には、好感を持っている。

だが、麗叶が倒れた後の彼らの反発は、想像以上に激しかったのだ。



『レッスン、ぜってー多いって!こんなハードにする必要、どこにあんだよ?!』

『麗ちゃん、可哀想…。アキラの言う通り、僕達だってかなり無理してるよ。このままじゃ、みんな倒れちゃう』

『……。』

『ルゥ!!どこ行くの?!まだレッスンは終わってないわよ、戻ってらっしゃい!!』

『くそっ』

麗叶を乗せた車を窓から見送っていた芯は、力任せに壁を殴りつけた。



『そろそろ、いいんじゃない?』

レッスン時間が終わるとすぐに、マーミヤは社長に電話をかけていた。

『アジアツアーの話、あの子達に教えてあげましょうよ!

やすおちゃんは機が熟すのを待ってるんでしょうけどね、

もう熟れすぎて、腐りそうよ!』



「っふぅ~」

マーミヤは、ダイニングを見回し、たばこを消した。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


麗叶の部屋の前、芯は一人、佇(たたず)んでいた。


緊張している。


麗叶の様子が気になる。でも、ノックする勇気がない。

室内からの音は聞こえない。

(変に防音きいてんだよな、この家…)


そしてまた、リビングルームに戻ってソファに沈んだ。

随分前から、行ったり来たりを繰り返している。


「はぁ~…」


天井を見上げ、ため息をつく。

「はあぁぁぁぁっ……、~っ…ふぅ~。。。」



カタっ

「ぅわっ!!!」


「くっくっく。ビビリ過ぎだろ」

戸口に立ったルゥが、笑いをこらえている。


「ルゥかよ。お化けかと思った」

「こんな真っ暗な部屋で、何やってんの?」


パチ


ルゥが電気を付けると、芯は目を細め、光をゆっくり受け入れた。

「別に…」


「…ふ~ん…」


パタパタパタパタ…


軽やかな足音に、二人は顔を見合わせた。

「ん?」


廊下に出ると、ノリがお盆を手に階段を上っていた。


「あいつ!!」

芯はノリの後を追って駆け上がり、お盆を覗き込んだ。

「麗叶んとこ、行く気?」


「うん。看病しようと思ってさ」

ノリはニコニコと無邪気な笑顔で芯を見上げた。


「なっ…!」

(何でお前が行くんだよ!)


「あ~。うん。 俺、行くわ…」

芯が、ノリが手にしているお盆をガシッと掴む。


「なんで芯が?!」

「だから、俺が行くって」

「僕が用意したんだよ?!」

「あぁ。」

「これもこれもこれも、ぜーーーんぶ!!」

「うん、サンキューな」

「だから僕が行く!!」

「俺がうつしたんだから、俺が行くっつってんだろ?!」

「ヤダヤダヤダ!」


お盆の皿が、ガタガタ鳴っている。


ルゥに、子供の喧嘩を止める気はない。

ニヤニヤしながら、階下から見上げている。


「いいか?ノリ。あいつの病気はもともと俺が作った。作ったようなもんだ。

てことは俺には免疫あり。お前にはなし!

俺の作った菌だぞ?うつったらお前なら確実に死ぬ」


(あほか。)

ルゥは口元を押さえ、込み上げる笑いをこらえた。


「うつんないもん!死なないもん!」

「オッケーオッケー。」

ノリから無理矢理お盆をむしり取ると、芯はあっという間に麗叶の部屋へ消えた。


ふてくされているノリの元へ、ルゥが階段を上って近づく。

「あいつ、自分がうつしたってかなり凹んでんだよ。今回は譲っとけって」


「…へ~…い…」


唇をとがらせ、ノリは帰っていった。


ルゥは振り返ることもなく、自分の部屋へ向かった。



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