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瞳孔を冷やして。  作者: 橘樹 杏果


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17/59

17-5人協定

その朝、ノリは寝ぼけた顔のまま、遅れて車に乗り込んできた。

珍しく無言。

レコーディングの打合せ中も

「…オイ!」

コクリコクリと居眠りしているノリを、アキラが肘で突っつく。


麗叶は、昨夜、偶然に目撃した情景を思い出していた。月夜に照らされた小柄な体。車は、暗闇の中に消えて行った。

(この子達が外泊禁止を守るなんて思ってなかったけど、最初がノリだったなんて、意外だったな。

さて、どうしよう。社長からは守ってあげたいけど…)

どんよりとした空気。

疲れが全員を侵食していく。。。。

ーーーーーーーーーーーー


「疲れてるところ、すみません」

「なに? 麗叶さん。改まって」

「麗さん、俺もう眠ぃから、ちゃっちゃか終わらせて」

ダイニングの明かりが、いつもより暗く感じる。

咳払いをひとつして、麗叶が切り出した。

「昨夜、ノリが合宿所を抜け出すのを見ました」

ノリの肩がビクッと動いた。

「外泊…ですよね?」

麗叶の敬語が、冷たくノリに突き刺さる。

「…あ、あのね。。。予定が、、、、ずっと前から約束してたから。。。」

バツが悪そうに身を縮めるノリの傍らで、アキラもルゥも、ウンザリした顔をしていた。

(うっせーなぁ~。外泊したぐれぇーで…)

アキラは、その言葉をグッと飲み込んだ。

「ルールは、守ってもらわないと困ります」

「…ごめんなさい。もう、しません」

ノリがますます小さくなっていく。


シーーンと静まり返るダイニング。


芯がため息をつきながら椅子から立ち上がろうとした時

「ただね。」

麗叶が、急に明るい声を出した。

「どうせ、キミ達、守る気ないでしょ?」


「っブッ!!」

勢いよく、アキラは吹き出した。

は…

あははははは!!

アキラに続き、芯とルゥも笑い出した。

ノリだけが戸惑っている。


「失敬だよ、麗さん」

「うふふ。でも当たってるでしょ?アキラ。キミ達にこんな軟禁生活をさせるのは、酷だって私は思ってる。でもね、やっぱり社長の目が厳しいのは、確かなの。…残念ながら」

空気が冷えた。

「だからね、交換条件。のまない?」

何を言い出すんだろう…。

麗叶に視線が集まる。


「外泊、していいわ」

「え?!」

全員の声がそろう。

「その代わり、外泊したい時は私には言う。出来るだけ行き先も。そして、私が送り迎えする」

4人とも、あっけに取られている。

「もーおーひーとーつ!次の日の仕事は、特に気合を入れること!」

ノリをわざと睨みながら

「居眠りしたら、ぶっ飛ばします!」

わざと怖い顔を作ってみせた。


半信半疑の顔。顔。顔…


「できればプライバシーに踏み込みたくないけど、協力して欲しい。もちろん秘密は守る。事務所にも絶対言わない」

全員が、麗叶の真意を推し量るように凝視している。

「信用してくれれば、の…話に、、なっちゃう、け、ど…」

4人の無言の圧力に押され、麗叶の声が徐々に小さくなっていった。


居心地の悪い沈黙を、芯が破った。「オーケイ。」

それを合図にルゥが、立ち上がる。

「今夜、送って。地元の友達と遊ぶ」


安堵が麗叶を包んだ…が、ハッと気づいてルゥを指さした。

「ほら~。やっぱりルールを守る気なかったんじゃない!ノリを突破口にして、後に続くつもりだったのね!」

意味ありげに、ルゥと芯が目を合わせた。


「でも、信用してくれて、すっごく嬉しい!」

麗叶のキラキラ輝く笑顔に居たたまれなくなったルゥが、急いで目をそらし、ノリにぼやく。

「だいたい、どうやったら見つかんだよ?」

「っんとだよ!俺達の成功率、下げやがって。ノリのアンポンタン」

「あんな懇切丁寧に、やり方、教えてやったのにな」


「…ぇ?えっ?ええー!?…もしかしてみんな、今までも外泊、してた…?」


「お休み、麗叶」

「じゃ。」

「お休みなさいませ~。麗さぁ~ん」

ノリの頭をバシバシ叩きながら、3人は部屋を出て行った。


上目遣いのノリと、目が合う。

「ごめんね、麗ちゃん。お休みっ!」

「えーーー?!! いつから??」


その後ーー

芯は激しく後悔することになる。


(あの時、俺がオーケイと言わなければ…)


ーーーーーーーーーーーーー


「山内部長、中野さんとは連絡とれましたか?」

「まだだ」

「Seven C'sの件、マスコミにリークするでしょうか?」

「分からんな。ただな、こっちも奴の弱みを握ってる。奴も分かってるから早々には動かんだろう」

「…そうですか」

事務所が握った弱みが何なのか、麗叶は知らない。知りたくもない。だが、えげつない内容なのは確かだ。

(やだな。こういうの)

分かっている。綺麗ごとでは動かない世界に足を踏み入れている自覚もある。それでも、嫌悪感が顔を出してしまう。


「青木、どうした?」電話口で山内が問う。

「いえ。」

「いい加減、腹をくくれ! 甘い顔をすれば、足元をすくわれるぞ!」

「…はい、分かってます」

小言を言いながらも、山内は内心で麗叶を評価している。

(青木がこういう奴だからこそ、タレントは信頼し、安心して仕事ができる。結果、イキイキと輝きだす)

だが、それだけでうまくいくほど、この世界は甘くない。

(一流の芸能人は育てられないんだ)

マネージャーとして汚れて欲しいような、汚れて欲しくないような。。。

山内は複雑な思いを抱えていた。

「ところで、アジアワールドツアーの件、まだあいつらには感づかれてないだろうな?」

「はい。ですが、限界に来ています。かなりハードなスケジュールですし、実は合宿がツアーに向けた準備だと明かせば、彼らのモチベーションも上がると思います」

「決めるのは社長だ」


通話を終えた麗叶の頭に、中野の顔がよぎる。

麗叶自身、あの視線が苦手だった。

事務所で、廊下で、現場。どこで会っても、中野のネットリとした視線は決まって麗叶の胸元で止まった。

粘着質でプライドの塊のような男。彼の評判は決して良くない。

そんな男を、麗叶はひっぱたいてしまったのだ…

中野と連絡が取れない…

本当に、問題ないんだろうか。


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