17-5人協定
その朝、ノリは寝ぼけた顔のまま、遅れて車に乗り込んできた。
珍しく無言。
レコーディングの打合せ中も
「…オイ!」
コクリコクリと居眠りしているノリを、アキラが肘で突っつく。
麗叶は、昨夜、偶然に目撃した情景を思い出していた。月夜に照らされた小柄な体。車は、暗闇の中に消えて行った。
(この子達が外泊禁止を守るなんて思ってなかったけど、最初がノリだったなんて、意外だったな。
さて、どうしよう。社長からは守ってあげたいけど…)
どんよりとした空気。
疲れが全員を侵食していく。。。。
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「疲れてるところ、すみません」
「なに? 麗叶さん。改まって」
「麗さん、俺もう眠ぃから、ちゃっちゃか終わらせて」
ダイニングの明かりが、いつもより暗く感じる。
咳払いをひとつして、麗叶が切り出した。
「昨夜、ノリが合宿所を抜け出すのを見ました」
ノリの肩がビクッと動いた。
「外泊…ですよね?」
麗叶の敬語が、冷たくノリに突き刺さる。
「…あ、あのね。。。予定が、、、、ずっと前から約束してたから。。。」
バツが悪そうに身を縮めるノリの傍らで、アキラもルゥも、ウンザリした顔をしていた。
(うっせーなぁ~。外泊したぐれぇーで…)
アキラは、その言葉をグッと飲み込んだ。
「ルールは、守ってもらわないと困ります」
「…ごめんなさい。もう、しません」
ノリがますます小さくなっていく。
シーーンと静まり返るダイニング。
芯がため息をつきながら椅子から立ち上がろうとした時
「ただね。」
麗叶が、急に明るい声を出した。
「どうせ、キミ達、守る気ないでしょ?」
「っブッ!!」
勢いよく、アキラは吹き出した。
は…
あははははは!!
アキラに続き、芯とルゥも笑い出した。
ノリだけが戸惑っている。
「失敬だよ、麗さん」
「うふふ。でも当たってるでしょ?アキラ。キミ達にこんな軟禁生活をさせるのは、酷だって私は思ってる。でもね、やっぱり社長の目が厳しいのは、確かなの。…残念ながら」
空気が冷えた。
「だからね、交換条件。のまない?」
何を言い出すんだろう…。
麗叶に視線が集まる。
「外泊、していいわ」
「え?!」
全員の声がそろう。
「その代わり、外泊したい時は私には言う。出来るだけ行き先も。そして、私が送り迎えする」
4人とも、あっけに取られている。
「もーおーひーとーつ!次の日の仕事は、特に気合を入れること!」
ノリをわざと睨みながら
「居眠りしたら、ぶっ飛ばします!」
わざと怖い顔を作ってみせた。
半信半疑の顔。顔。顔…
「できればプライバシーに踏み込みたくないけど、協力して欲しい。もちろん秘密は守る。事務所にも絶対言わない」
全員が、麗叶の真意を推し量るように凝視している。
「信用してくれれば、の…話に、、なっちゃう、け、ど…」
4人の無言の圧力に押され、麗叶の声が徐々に小さくなっていった。
居心地の悪い沈黙を、芯が破った。「オーケイ。」
それを合図にルゥが、立ち上がる。
「今夜、送って。地元の友達と遊ぶ」
安堵が麗叶を包んだ…が、ハッと気づいてルゥを指さした。
「ほら~。やっぱりルールを守る気なかったんじゃない!ノリを突破口にして、後に続くつもりだったのね!」
意味ありげに、ルゥと芯が目を合わせた。
「でも、信用してくれて、すっごく嬉しい!」
麗叶のキラキラ輝く笑顔に居たたまれなくなったルゥが、急いで目をそらし、ノリにぼやく。
「だいたい、どうやったら見つかんだよ?」
「っんとだよ!俺達の成功率、下げやがって。ノリのアンポンタン」
「あんな懇切丁寧に、やり方、教えてやったのにな」
「…ぇ?えっ?ええー!?…もしかしてみんな、今までも外泊、してた…?」
「お休み、麗叶」
「じゃ。」
「お休みなさいませ~。麗さぁ~ん」
ノリの頭をバシバシ叩きながら、3人は部屋を出て行った。
上目遣いのノリと、目が合う。
「ごめんね、麗ちゃん。お休みっ!」
「えーーー?!! いつから??」
その後ーー
芯は激しく後悔することになる。
(あの時、俺がオーケイと言わなければ…)
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「山内部長、中野さんとは連絡とれましたか?」
「まだだ」
「Seven C'sの件、マスコミにリークするでしょうか?」
「分からんな。ただな、こっちも奴の弱みを握ってる。奴も分かってるから早々には動かんだろう」
「…そうですか」
事務所が握った弱みが何なのか、麗叶は知らない。知りたくもない。だが、えげつない内容なのは確かだ。
(やだな。こういうの)
分かっている。綺麗ごとでは動かない世界に足を踏み入れている自覚もある。それでも、嫌悪感が顔を出してしまう。
「青木、どうした?」電話口で山内が問う。
「いえ。」
「いい加減、腹をくくれ! 甘い顔をすれば、足元をすくわれるぞ!」
「…はい、分かってます」
小言を言いながらも、山内は内心で麗叶を評価している。
(青木がこういう奴だからこそ、タレントは信頼し、安心して仕事ができる。結果、イキイキと輝きだす)
だが、それだけでうまくいくほど、この世界は甘くない。
(一流の芸能人は育てられないんだ)
マネージャーとして汚れて欲しいような、汚れて欲しくないような。。。
山内は複雑な思いを抱えていた。
「ところで、アジアワールドツアーの件、まだあいつらには感づかれてないだろうな?」
「はい。ですが、限界に来ています。かなりハードなスケジュールですし、実は合宿がツアーに向けた準備だと明かせば、彼らのモチベーションも上がると思います」
「決めるのは社長だ」
通話を終えた麗叶の頭に、中野の顔がよぎる。
麗叶自身、あの視線が苦手だった。
事務所で、廊下で、現場。どこで会っても、中野のネットリとした視線は決まって麗叶の胸元で止まった。
粘着質でプライドの塊のような男。彼の評判は決して良くない。
そんな男を、麗叶はひっぱたいてしまったのだ…
中野と連絡が取れない…
本当に、問題ないんだろうか。




