15-震える睫毛
フッと、意識が覚醒した。
瞼を閉じたまま、麗叶は耳に届くヒソヒソ声をぼんやり聞き流す。
「はぁ~。さてと、後はお前だけか。ノリ、自力で戻れよ」
「…戻れない」
「あ?! 甘えてんじゃねぇ」
「僕も芯におんぶしてもらう」
「ばぁか。あいつらは爆睡だったからだろ?」
「んじゃあ、僕も寝るもん」
「子供か。歩いて帰れ」
「やだぁ~!!」
バシっ!
「ぃった~ぃ」
「声がでかい! 麗叶が起きんだろ」
「この後、芯はどうすんの?」
「こいつが起きるまで、ここにいる」
「部屋に連れてかないの?」
「勝手に入られたくねぇだろ」
「部屋の入口まで連れてってあげたらいいんじゃない?」
「たぶん、部屋の鍵、かけてんじゃねーか」
「なんで?」
麗叶の意識は既にハッキリしているが、瞼を固く閉じたまま。動けない。体のどこに力を入れたらいいか、さっぱり分からない。
「鍵なんてかける?」
「こいつ以外は野郎ばっかだし、かけるだろ、普通」
理由は違うが、確かに施錠している。合宿所には日中の数時間のみ、プロのお手伝いさんが入っている。そんな環境に慣れていない麗叶は、部屋の鍵を掛ける習慣ができてしまった。
「ハックション!!っか~。寒くなってきちゃった」
「お前、クシャミだけはオッサンみたいだよな」
声を殺して笑う芯を無視して
「僕、寒いの、だ~~~~いっ嫌い。お休み~」
ノリはさっさとリビングルームを後にした。
「ったく」
苦笑いの芯が、麗叶の頭をポンポンとつつく。
「おい」
「……」
「おい、たぬき」
「ぅっ!」
「瞼ピクピクで、化かしきれてねぇけど?」
うっすらと目を開けると、片目を細めて芯が笑っている。
「起きるに起きれなくて。すみませんでした」
「……」
慌てて体を起こしたものの、立ち上がればまた倒れてしまいそうで、寝ていたソファに浅く腰掛けた。
「ご迷惑おかけしました。もう大丈夫ですから、芹沢さんもお部屋に」
「し、ん。」
「?」
「芯、だろ?」
「…ぁ」
「敬語もなし」
「はい。あ。うん」
「よし。あとは名前」
麗叶は、思わず息を止めた。
「…ん。」
芯がソファの前にしゃがみ込み、麗叶と目線を合わせた。
「呼んでみ」
優しく妖艶に微笑む芯に、思わず見とれてしまう。
「ほら…」
低く透明な声がくすぐったい。
「言ってみろよ…麗叶」
「!」
咄嗟に目を伏せる。
『麗叶』と呼ばれて、こんなにドキドキすることなんてなかった。それに
(呼び捨てすれば良いだけ。なんでこんなに難しいの?!)
自分の睫毛が震えているのが分かる。
「あ、あの…」
ふぅ~っと芯のため息が聞こえた。麗叶は、なぜか安堵より焦りを覚えた。
芯が諦めてしまったと思ったのに、不意に長い指が自分の顎をクイッと持ち上げた。
「そうはいかねぇな」
芯との
「逃がさねぇよ、もう」
唇までの距離が
「酒の力借りずに」
わずかしかなくて
「麗叶、俺を呼べよ」
麗叶は目をギュッと瞑った。
「し、芯…」
かすれ声しか出せない。
「…」
芯の息が、触れる。
(ダメ!!)
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