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瞳孔を冷やして。  作者: 橘樹 杏果


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15/59

15-震える睫毛

フッと、意識が覚醒した。

瞼(まぶた)を閉じたまま、麗叶は耳に届くヒソヒソ声をぼんやり聞き流す。


「はぁ~。さてと、後はお前だけか。ノリ、自力で戻れよ」

「…戻れない」

「あ?! 甘えてんじゃねぇ」

「僕も芯におんぶしてもらう」

「ばぁか。あいつらは爆睡だったからだろ?」

「んじゃあ、僕も寝るもん」

「子供か。歩いて帰れ」

「やだぁ~!!」

バシっ!

「ぃった~ぃ」

「声がでかい! 麗叶が起きんだろ」

「この後、芯はどうすんの?」

「こいつが起きるまで、ここにいる」

「部屋に連れてかないの?」

「勝手に入られたくねぇだろ」

「部屋の入口まで連れてってあげたらいいんじゃない?」

「たぶん、部屋の鍵、かけてんじゃねーか」

「なんで?」


麗叶の意識は既にハッキリしているが、瞼を固く閉じたまま。動けない。体のどこに力を入れたらいいか、さっぱり分からない。


「鍵なんてかける?」

「こいつ以外は野郎ばっかだし、かけるだろ、普通」


理由は違うが、確かに施錠している。合宿所には日中の数時間のみ、プロのお手伝いさんが入っている。そんな環境に慣れていない麗叶は、部屋の鍵を掛ける習慣ができてしまった。


「ハックション!!っか~。寒くなってきちゃった」

「お前、クシャミだけはオッサンみたいだよな」

声を殺して笑う芯を無視して

「僕、寒いの、だ~~~~いっ嫌い。お休み~」

ノリはさっさとリビングルームを後にした。

「ったく」

苦笑いの芯が、麗叶の頭をポンポンとつつく。

「おい」

「……」

「おい、たぬき」

「ぅっ!」

「瞼ピクピクで、化かしきれてねぇけど?」

うっすらと目を開けると、片目を細めて芯が笑っている。

「起きるに起きれなくて。すみませんでした」

「……」

慌てて体を起こしたものの、立ち上がればまた倒れてしまいそうで、寝ていたソファに浅く腰掛けた。

「ご迷惑おかけしました。もう大丈夫ですから、芹沢さんもお部屋に」

「し、ん。」

「?」

「芯、だろ?」

「…ぁ」

「敬語もなし」

「はい。あ。うん」

「よし。あとは名前」

麗叶は、思わず息を止めた。


「…ん。」

芯がソファの前にしゃがみ込み、麗叶と目線を合わせた。

「呼んでみ」

優しく妖艶に微笑む芯に、思わず見とれてしまう。

「ほら…」

低く透明な声がくすぐったい。

「言ってみろよ…麗叶」

「!」

咄嗟に目を伏せる。

『麗叶』と呼ばれて、こんなにドキドキすることなんてなかった。それに

(呼び捨てすれば良いだけ。なんでこんなに難しいの?!)

自分の睫毛(まつげ)が震えているのが分かる。

「あ、あの…」

ふぅ~っと芯のため息が聞こえた。麗叶は、なぜか安堵より焦りを覚えた。

芯が諦めてしまったと思ったのに、不意に長い指が自分の顎をクイッと持ち上げた。


「そうはいかねぇな」

芯との

「逃がさねぇよ、もう」

唇までの距離が

「酒の力借りずに」

わずかしかなくて

「麗叶、俺を呼べよ」

麗叶は目をギュッと瞑った。

「し、芯…」

かすれ声しか出せない。

「…」

芯の息が、触れる。


(ダメ!!)



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