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瞳孔を冷やして。  作者: 橘樹 杏果


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13/59

13-気持ちを握りしめて

その夜、アキラはほとんど寝れなかった。

合宿所に到着したのが、深夜1時だったからではない。どう謝ったら良いのか、考えれば考えるほど、こんがらがって、全くまとまらない。

別便で送られてきた私物の詰まったダンボールの間を、一晩中、ウロウロと歩き回っていた。

ヴーヴーヴー

目覚ましのスマホのバイブを、深いため息とともに止める。

社長の別荘であるこの「合宿所」には、ゲストルームが5室。各部屋にはシャワールームとトイレが備えられている。

あてがわれた部屋で一人、アキラは顔を洗った。洗面台でバシャバシャと水を撒き散らしながら。

「っがーーー!!」

バシャバシャバシャバシャ!!!

そして、ジーーーッと鏡の中にうつる男を威嚇し、気合を入れる。

「よっしゃ!!」


1階のダイニングルームへ下りると、麗叶がニッコリと微笑んで迎えてくれた。

「おはようございます。眠れましたか?」


テーブルに顔をピッタリとくっつけたノリが、すーすーと寝息をたてている。

アキラがミルクをがぶ飲みしていると、眠そうな顔で部屋に入って来たルゥが、チラっとアキラを一瞥(いちべつ)し、無言で席についた。

「グレープフルーツジュースでいいですよね?」

麗叶が置いたコップに少しだけ口をつけ、ルゥもテーブルに顔をうずめる。

最後に入って来た芯は、アキラには目もくれずテーブルを通り過ぎた。そして隣のリビングルームのソファに座った。

「今日も水でいいですか?」

そう言いながら、麗叶がローテーブルにコップを置いてやる。


灰色の朝日が、コップの水に溶けていく。

カチカチカチ…

いつもは埋もれている掛け時計の秒針音が、大きく響き始めた。

カチカチカチ…

「それでは皆さん、そろそろ出発しましょうか?」


ガタン!!

転がった椅子。

「あのっ!」

アキラは顔を赤らめ、大きな声を発する。

「あの、さ!!」


眠っていたノリもルゥも顔を上げた。そして、アキラの言葉を、待つ。


倒れた椅子の余韻が

「あの…、あの…」

カラ、、カラン、、

まだ、残っている。


「あの。。」

アキラは、芯の横顔に強い拒絶を感じ、くじけそうになった。

ごくりと唾を飲み込み、気持ちを必死に握り締める。

「あの…」

「……」

「ごめん!!!」

勢いよく頭を下げ、反動をつけてガッと体を起こした。

「オレ、オレさ、すぐカッとなるっつーか、思い込み激しいっつーか、まさか、軟禁生活になるなんて思ってなくって。俺が芯を殴んなきゃ、こんな大事件になんなかったわけだし。みんなにすんげー迷惑かけて、ホント、オレ、なんつったらいいか…」


「…」

「。。。」

「……。」

「ホント、ごめんっ!!!」と、思いっきり頭を下げる。

顔が熱い。

アキラは、自分の心臓の音が、みんなに聞こえてんじゃないかと思った。

(頼む。なんか言ってくれ!)


「ま、それはイイとして、一番言いたいことは?芯とは後で話をすんの?」

「え?!」

アキラは目を見開いた。ルゥの言葉の意味、十分に分かってる。


流れる汗を腕でぬぐい

「いや。今、言う。」

アキラは耳まで真っ赤になっている。

「芯。その…殴ったこと、変な言いがかりつけて…特に俺、妹の事になると、すぐ頭に血がのぼるっつーか」

芯は、ゆっくりと顎をあげた。

「いや、ちげーな。俺、やっぱ芯の事、信用してなかったんだと思う」

アキラは静かに、自分と向き合った。


空が、灰色から青に、変わろうとしている。


「けど!! そんなん違う! やっぱ、ちげーって思った! お前がそんな奴じゃねぇって、女を弄(もてあそ)ぶ奴じゃないって、ほんとは知ってんのに!!俺、お前のこと、ちゃんと知ってんのによ!!」


白いカーテンが、フワリと揺れる…


「俺…最低だよ…」

「……」

「芯、、、。マジ、マジで、ごめん…」

視線が集まる。芯はなんて言うんだろう?

「…」

沈黙が長い、

「……」

長く、感じる。


ブルルルルル!

「っ!!」

スマホの振動に、アキラが飛び上がった。

「失礼しました」

アラームを止め、立ち上がった麗叶は、言いにくそうに

「皆さん…出発の」

お時間です、と言いかけて飲み込む。

「準備をしてまいります。車を玄関まで回しておきます」


窓の向こうに広がる薄い空を、まっすぐ睨み続ける芯の横顔。それを見て、麗叶は確信した。

(この人に任せて

…うん。大丈夫。)

麗叶は静かに、リビングルームの扉を閉めた。


沈黙が再び始まりかけた時、芯がスッと立ち上がった。

心配そうにノリが腰を浮かす。

芯はスマホを後ろのポケットに押し込み、

カッカッカッ

閉じられた扉へ向かった。その先の廊下は、玄関へと続いている。

うつむくアキラのこめかみに、汗が伝っている。


カツン。

扉の手前で歩みを止めた芯が、振り返る。

「時間だ。行くぞ」

ノリとルゥは、顔を見合わせた。

アキラは、唇を噛み締めている。

ルゥは、ため息をついて立ち上がった。

ノリも、困った顔のまま、諦めて自分の鞄を手にした。


「早くしろよ」

「……」

「オイ!シスコンバカアキラ!てめぇも早く動け!」

バッと、3人は顔をあげた。

「芯?」


視線を正面に戻した芯が、モゴモゴと声を出す。

「ルゥ、ノリ」

「?」

「??」

「その、、悪かったな…」

驚きの視線が、芯の背中に集中した。

「し、芯が…」

あの負けず嫌いな芯が謝ってる…。皆、ア然とした。

「俺らのせいでこんな、くだらねぇ合宿、お前らまで巻き込んで…今回の件は、このクソバカアキラと、、、俺が、悪い。特に、この阿保アキラが悪い、圧倒的に悪い、100対1ぐらいで悪い!」

ルゥが、クククっと笑い出した。

「もう分かったから」

「でも、こいつのシスコンは病気って事で、俺の短気も病気ってことで、ここは、俺に免じて許してやってくれ」

「なに?それぇ~」アハハハと、ノリは楽しげに手を叩いている。

「諦めてるから、大丈夫」

と、ルゥは優しい目をして答えた。

気恥ずかしさを隠そうと、芯はこめかみをポリポリと掻いた。

「し、芯!!わりぃ!マジごめんな!」

芯が大袈裟に眉間に皺を作り、わざとアキラを睨む。

「シスコ~ン君、いつまでもウルサイです」

「俺さ、マジ反省して…って、今なんつった?」

「いつまでも、ゴチャゴチャとウルサイ、です」

「そっちじゃなく」

「シスコ~ン君」

「それだよ!それ!」

「キミの新しいニックネームだけど」

「出た!! 芯の、勝手にネーミング!」

ノリが芯を指さす。


「俺のニックネーム?! 芯、お前…バッカじゃねーの?!」

「アハハハ! 芯ってさ、クルーも ルゥて呼び出したよね?」

「芯の馬鹿が『クを言うのもめんどくさい』って。くるすだからクルーは分かるけど、なんだよ、ルゥって。カレーみたいだってルゥは嫌がってんのによぉ、超無視こいてやがって」

「そういうお前もルゥって呼んでんだろ」

「俺はもぅ慣れたよ、シスコ~ン♪」

「ルゥ! 止めろ!!」

「そのうち慣れるよ、シスコ~ン」

「ノリまで調子乗ってんじゃねぇぞ!」


「では新メンバーを加え、リニューアルしたSeven C'sで、頑張るか」

「バカ芯! 俺は、旧メンバー、アキラだ!!」

「…」

「…」

「…」

ダッハッハッ!!

3人は身体をよじって笑った。

「旧って何だよ…旧って」


笑い声が充満する部屋に、麗叶が入って来た。

「お車の用意は出来ました。玄関へどうぞ」

扉近くに立つ芯の横で、麗叶が微笑んだ。


とっさに麗叶から顔をそらす芯を見て、ルゥがニヤニヤ笑う。

「芯が謝る姿が見れるなんてね。軟禁生活も悪くない」

芯の真横で歩みを止め、ルゥは顔を近づけてきた

「で、なんで芯は、顔が真っ赤なわけ?」

「わぁ~まっかっかだぁ~」

ルゥとノリは笑いながら玄関へ向かった。

「お前ら、マジうぜぇ!!」

「芯、変なあだ名で呼びやがったら、無視すっからな! 永・久・にっ!!」

アキラはわざと芯に肩をぶつけ、大股で歩いていった。

急いで追いかけた芯が、アキラのお尻にパスっと蹴りをいれる。

「おい。シスコ~ン」

「いってーな! シスコン、シスコンって意味わかんね!」

「あ?」

「意味不明すぎなんだよ!」

「お前シスコンの意味知らない? じゃ、なんで拒否ったの?」

「音的に嫌だ」

「あははは!本気でアホだな?お前」

「だから、意味教えろって!」

「…じゃぁ」

真っ赤になった芯が口ごもる。

「教えてやる代わりに……伝えとけ」

「あ!?」

「ごめん、、て…」

アキラが立ち止まる。

「妹に。」

「芯…」


「ちゃんと伝えとけよ!!タコ!ボケ!あほ!!」

耳まで真っ赤になった芯が、玄関を開ける。


アキラはクルッと振り返り、麗叶にニカっと笑って見せた。


ーーーーー


エレベーターで5階まであがる。

スマホをそっと耳に当てた。

「開けて」

カチャ。

そっと抱き合う二人。

舌を絡め合いながら、低くつぶやく。

「大丈夫?」

「…」

「何時に帰ってくるって?」

「今日は、出張だって」

「ふ~ん」

「だから朝まで大丈夫」

「1時に、出るから」

「え?」

驚く視線を避け、

「朝から撮影。」

「…そう…」


寂しそうな横顔に気づかないふりをして彼女の耳たぶを舐めると

熱い吐息が漏れた。

右手をスカートの中に滑り込ませた。

湿気を帯びた音を、わざと響かせる。


もし楽しんでいただけましたら、

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これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!

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