10-まだ死ねない
重い扉を横へずらすと
真っ暗だった闇に、光の筋が伸びる。
埃がを舞っている。
「お~~い」
カツン、カツン。
空っぽだと思っていた倉庫の中は、鉄骨で組まれた棚が天井近くまでそびえ、重そうな木材や機材が、所狭しと詰め込まれている。
「くせ~」
埃っぽくて、クシャミが出そうだ。
しばらく使ってないのだろう。
「お~~い!!!中野~!いんの?これ、撮影倉庫じゃねぇぞ~!」
カツンカツン
鉄骨の間をグルグル回りながら、無茶苦茶に歩いて探すが
「いねぇなぁ~。俺の見間違いだったんか?」
ガッシャン!!
一瞬にして、全身が真っ暗闇に包まれた。
「な、な、なんだよ?」
突然 光を奪われ、目を見開いているはずなのに何も映ってこない。
映らない光。
聞こえない音。
ニオイは…、、
「っ!!」
する!
ニオイがする!
目で見ないでも分かる、この臭い。これはっ
「火?!火事?!!」
バーベキューの時に嗅いだ、木が燃える臭いだ!!
「やべ!出口!!どっちだよ!?」
真っ暗だから火が見えてもいいはずなのに、見渡しても暗闇が広がっていて
どこだ?!
恐怖が一気に湧き上がる。
どこなんだ?!
火元は?!
出口は?!
鼻の付け根が焦げ臭い。
「ゴホっ」
何かが目にまとわり付いて
「つっ!」
痛くて開けられなくなってきた。
アキラは必死で何かに触ろうと、力任せに手を動かすと、ガツンと鉄骨に当たった。
一瞬安心したのも束の間、右の方向からオレンジ色と黒が混じった揺らめきが…
さっきまで暗闇だったのにオレンジの光が見る間に大きくなっていく。
開かない瞼をゴシゴシこすり、必死に目を凝らす。
「ちょ、マジかよ!!!ゴホゴホ!!」
パニックになったアキラは前へ進もうとするが、ガシャンガシャンと鉄骨にぶつかる。
「やべ、やべ、…俺、…」
痛さも感じず、無茶苦茶に体を動かす。
ガシャン、ガッシャン!!
「ゴホ、ゴホホホホっ!!!」
涙と鼻水が顔を伝っているのが分かるが、拭う余裕なんてない。
とにかくここから出ないと、俺は
「俺っ!!
死ぬ!!!!!」
ガシャンガシャン
痛みがじんわり脳に伝わってきた。
死んでたまるか。まだやりたいことあんだよ!
まだまだ、やりたいこと、すんげーあんのに!!!
「…っぃって…」
ガッシャン!!
「あ!!」
足がもつれてよろけ、前のめりに倒れ込みそうになり、コンクリートに両手をついた。
ジャリジャリとした砂粒が手の平に食い込む。
「…ハァハァハァ…」
冷たい、、、まだ。地面は冷たくて硬い。
下の方は空気が吸える。
でも、、、きっと、、、もうすぐ…
「やべーよ…」
ゴホゴホッゴホッゴホ!!
苦しい。
どこが苦しいかすら、分かんねぇ
死にたくねぇよ、俺。
やり残したこと、いっぱいあんのに。
俺、俺
やっとかないと
いけねぇことが、、、、、、、、、、
「俺…死ぬわけには…」
男として、やり残すわけには…
「まだ、、、俺、
芯に謝ってねぇんだよ!!!!!」
ガ、…シャン!!
左からの光線がアキラの頬に突き刺さる。
充満した煙で視界を奪われてるが、あのシルエットは
確かに
「アキラーーーーー!!!」
芯だ。
「ぁ…し、」
走り出す芯の体を、スタッフが必死に抑えている。
3人がかりで押さえ込まれていた芯が
「はなせっ!!!」
スタッフ全員を力ずくで振り払い、アキラに向かって駆けて来る。
「…芯………」
あぁ、、これでもう大丈夫。
あいつが来てくれたんなら、もう俺、大丈夫だ…
安堵感で手を伸ばそうとした時
ギギギギっ
音の方を振り返ると鉄骨が自分の背中の上に
ゆっくりゆっくりと
降って…
「!!」
「アキラーーーーーー!!!!」
鉄骨の向こう、煙で輪郭をぼやかしながら、中野が笑っているように
見えた。




