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武将 蒲生氏郷 第99話 北ノ庄陥落の報

山道の整理がひと段落したころ、

遠くから馬の蹄の音が近づいてきた。

その速さは、ただの伝令ではない。

何か大きな報を運んでいる音だった。

「伝令――! 伝令――!」

若い使者が泥を跳ね上げながら駆け込み、

氏郷の前で馬を止めた。

息を切らしながら叫ぶ。

「北ノ庄――陥落!

 柴田勝家、討死とのこと!」

その声が山に響き、

兵たちが一斉にざわめいた。

山風が吹き抜け、

木々の葉がざわりと揺れた。

左馬允が短く息を吸い、

氏郷に向き直る。

「殿。

 これで戦の趨勢は決しました。

 柴田方は総崩れとなりましょう」

氏郷は静かにうなずき、

山の向こうを見つめた。

北ノ庄の方向には、

まだ薄い煙が立ち上っているように見えた。

「……これで、終わったのか」

そのつぶやきに、

左馬允が淡々と答える。

「はい。

 しかし、ここからが秀吉軍の“仕事”にございます。

 殿の隊も帰陣し、

 戦後処理に加わらねばなりません」

氏郷は兵たちに声をかけた。

「列を整えよ。

 山を下りる。

 負傷者を前へ。

 捕虜は縄を緩めるな」

兵たちが動き、

山道をゆっくりと下り始めた。

斜面には折れた槍、

落ちた草鞋、

血に濡れた土が残っていた。

それらを一つひとつ避けながら、

氏郷隊は山を下った。

山裾に戻ると、

すでに秀吉軍の本隊が動き始めていた。

荷駄隊が列を組み直し、

各隊の指揮官が本陣へ集まっていく。

戦場の空気は、

戦いの熱から、

次の段取りへと静かに移り変わっていた。

左馬允が地図を広げ、

氏郷に報告する。

「殿。

 秀吉殿はすでに軍の再編に入られています。

 北陸方面の掃討、

 越前の治安、

 そして京への帰還。

 殿の隊は、

 そのいずれにも動ける位置に置かれるでしょう」

氏郷は本陣のほうを見た。

秀吉が馬上で指示を飛ばし、

周囲の将たちが次々と動いていく。

その姿は、

戦の最中と変わらぬ速さだった。

「……流れが止まらぬな」

氏郷の言葉に、

左馬允が静かにうなずく。

「はい。

 信長様の死から始まった流れを、

 秀吉殿はそのまま“形”にしようとしておられます。

 殿も、その流れの中にございます」

氏郷は馬の手綱を握り直し、

兵たちの列を見渡した。

疲れた顔、

泥にまみれた鎧、

しかし誰もが前を向いていた。

「帰陣する。

 戦後の務めを果たすぞ」

氏郷隊は本隊の列に合流し、

北ノ庄陥落の報を受けた秀吉軍の一部として、

次の動きへ備えた。

賤ヶ岳の戦は終わった。

だが、

その先に続く“天下の流れ”は、

すでに次の形を求めて動き始めていた。


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