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武将 蒲生氏郷 第100話 秀吉軍の編成

(1584年・大坂城下)

天正十二年、春。

大坂城下の空気が、朝のうちからざわついていた。

諸将の陣が並ぶ一帯では、

馬のいななきと、荷駄の軋む音が絶えなかった。

氏郷の陣も、夜明け前から動き始めていた。

兵たちが槍を点検し、

弓の弦を張り替え、

鎧の紐を締め直していく。

左馬允は、兵数と武具の確認を終えると、

馬の脚を一頭ずつ確かめて回った。

「殿。

 兵、三百二十。馬、百十二。

 いずれも出陣に耐えます」

氏郷はうなずき、

陣幕の外へ出た。

大坂城の石垣が朝日に照らされ、

城下の道には、すでに諸将の列が伸びていた。

やがて、軍議の合図が響いた。

氏郷と左馬允は、

本陣へ向かう将たちの列に加わった。

大坂城の広間では、

秀吉がすでに着座していた。

その前に、諸将がずらりと並ぶ。

地図が広げられ、

尾張・三河の地形が一望できた。

秀吉が扇を開き、

諸将の配置を読み上げていく。

「池田恒興、先鋒。

 森長可、これに続く。

 中川清秀、右翼。

 羽柴秀次、本隊。

 ――蒲生氏郷、先鋒の一角に加わる」

その言葉に、

広間の視線が一瞬だけ氏郷へ向いた。

氏郷は静かに頭を下げ、

列に戻った。

軍議が終わると、

左馬允がすぐに地図を広げた。

小牧山、犬山、長久手――

尾張の丘陵と街道が、

細かく描かれている。

「殿。

 先鋒の位置はここ。

 小牧山の北側を通り、

 犬山方面へ進む道が最短です」

氏郷は地図に指を置き、

進軍路を確認した。

街道の幅、

川の渡し場、

丘陵の角度。

兵が動く順番を、

一つずつ並べていく。

「隊列は三段。

 槍、鉄砲、弓の順。

 荷駄は後方に置く。

 伝令は左右に二人ずつ」

左馬允が記録を取り、

兵たちへ指示を伝えに走った。

陣へ戻ると、

すでに兵が整列していた。

槍の穂先が朝日に光り、

馬の鼻息が白く揺れた。

氏郷は列の前に立ち、

進軍路を短く告げた。

「尾張へ向かう。

 小牧山を越え、

 家康方の動きを追う。

 遅れるな」

兵たちが一斉にうなずき、

槍を握り直した。

左馬允が馬を引き寄せ、

氏郷に手綱を渡す。

「殿。

 進軍の準備、整いました」

氏郷は馬に乗り、

隊列の先頭へ進んだ。

大坂城の石垣が遠ざかり、

街道の先に春の霞が広がっていた。

秀吉軍の旗が風を受け、

列がゆっくりと動き出す。

小牧・長久手へ向かう戦が、

ここから始まった。


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