武将 蒲生氏郷 第86話 秀吉の反撃準備
佐久間盛政の攻勢と、前田利家の離脱によって、
柴田軍の布陣は大きく歪んでいた。
前線は南へ伸び、中央は薄く、
木之本の本陣との連携は難しくなっていた。
この状況を、秀吉は見逃さなかった。
長浜では、湖上輸送を使った増援が続々と集まっていた。
琵琶湖を渡る船は、陸路よりも速く、
兵も兵糧も短時間で前線へ届けられた。
秀吉はこの利点を最大限に生かし、
賤ヶ岳方面へ兵を送り込む速度をさらに上げた。
長浜から賤ヶ岳南麓までは距離が短く、
増援は次々と戦場へ到着した。
増援が揃うと、秀吉はすぐに再配置を始めた。
まず、賤ヶ岳山頂を奪取するための部隊を選び、
山麓から山頂へ向かう道筋に配置した。
堀秀政の隊と、七本槍の若手武将たちが中心となり、
山頂へ向けて進む準備を整えた。
山頂を押さえれば、
大岩山・余呉湖・木之本の全体を見渡せる。
戦場の主導権を握るためには、
この高所の確保が不可欠だった。
同時に、秀吉は大岩山方面への反撃隊も編成した。
盛政の部隊は中川隊を押し崩して南へ進んでいたが、
その前線は細長く伸び、
側面も背後も手薄になっていた。
秀吉はこの弱点を突くため、
複数の部隊を大岩山へ向けて動かし、
盛政隊を包囲する形を作ろうとした。
反撃隊は、
山麓から大岩山の側面へ回り込む部隊と、
正面から押し返す部隊に分けられた。
湖上輸送で届いた増援が、
この再配置を可能にしていた。
秀吉軍は短時間で戦線を立て直し、
攻勢へ転じる体勢を整えた。
盛政の突出、利家の離脱。
柴田軍の布陣に生じた二つの歪みを、
秀吉は確実に捉えていた。
その歪みを突くための準備が、
静かに、しかし迅速に進んでいた。




