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武将 蒲生氏郷 第85話 前田利家の離脱
佐久間盛政の攻勢が続く中、
柴田軍のもう一つの前線で動きが起きた。
余呉湖周辺に布陣していた前田利家が、
戦線から離れ、木之本方面へ退いたのである。
利家の陣は、
盛政の右側面を支える位置にあった。
大岩山から南へ伸びる盛政の前線と、
木之本から南下する勝家本隊のあいだをつなぐ、
柴田軍の中央を構成する重要な場所だった。
しかし、利家は突如として陣を引き払い、
余呉湖の北側へ退いた。
戦場から完全に離脱し、
木之本方面へ戻る形となった。
この動きは、
盛政の攻勢とは対照的に、
柴田軍の中央を大きく空白にした。
利家の退却によって、
盛政の右側面は支えを失い、
大岩山から南へ伸びた前線は、
一本の細い線のように孤立した。
盛政の部隊は前へ出すぎ、
利家の部隊は後ろへ下がり、
そのあいだに広い空白地帯が生まれた。
この空白は、
柴田軍の布陣を縦に裂く形となった。
北の木之本本陣と、
南へ突出した盛政隊のあいだの連絡は、
急速に難しくなった。
補給も援軍も届きにくくなり、
盛政の前線は、
戦場の中央で孤立する危険を抱えることになった。
利家の離脱は、
盛政の突出と重なって、
柴田軍の布陣全体に大きな歪みを生んだ。
前線は伸び、中央は薄くなり、
後方との連携は断たれつつあった。
この瞬間、
賤ヶ岳の戦場は、
秀吉軍にとって反撃の機会を生む形へと変わり始めていた。




