武将 蒲生氏郷 第63話 観音寺城跡
山道を抜け、木々の影が途切れた瞬間、
観音寺城跡が姿を現した。
崩れた石垣が斜面に沿って連なり、
草に覆われた曲輪がいくつも影を落としている。
焼けた木材の黒い痕が、土の奥からまだ顔を覗かせていた。
風が草を揺らし、石垣の隙間から乾いた音がした。
その音が、かつての喧騒の名残のように耳に残った。
左馬允が前に立ち、斜面を指した。
「殿。
あれが本丸跡にございます」
氏郷はうなずき、視線を上へ向けた。
石垣はところどころ崩れ、
積み直されることもなく、ただ風雨に晒されていた。
その荒れた姿が、滅びの時間をそのまま刻んでいた。
左馬允はゆっくり歩きながら、
かつての戦の“線”を指でなぞるように示した。
「この道は、六角の兵が退いた道にございます。
幅が狭く、兵が詰まりました。
押し合いになり、ここで多くが倒れました」
氏郷は足元を見た。
踏み固められた跡が、まだ土の奥に残っている。
その上に草が薄く生えているだけだった。
左馬允はさらに奥を指した。
「殿。
あの曲輪の端で、指揮が乱れました。
敵が横から回り込み、
六角の兵は二つに割れました」
氏郷はその場所へ歩み寄り、
崩れた土塁の角度を確かめた。
斜面は急で、逃げ場がない。
ここで兵が押し返されれば、
一気に崩れるのは目に見えていた。
左馬允は、かつての記憶をたぐるように言った。
「この先の谷が、最後の踏ん張りどころにございました。
しかし……退き場が狭すぎました。
兵が折り重なり、動けなくなりました」
氏郷は谷の縁に立ち、下を覗き込んだ。
深い。
狭い。
そして、どこにも抜け道がない。
草の下に、
兵が折り重なった跡を思わせる窪みが残っていた。
風が吹き抜け、草が揺れた。
その揺れが、当時の叫びを吸い込んだまま
静かに震えているように見えた。
左馬允は、さらに一歩踏み出し、
かつて自分が立っていた位置を指した。
「殿。
私は、あの場所で退きを指示いたしました。
しかし……遅うございました」
その声は淡々としていたが、
その淡さの奥に、深い影があった。
氏郷はその横顔を見つめ、
崩れた石垣と、草に覆われた曲輪と、
谷の影を、ひとつひとつ目に刻んだ。
(……ここで、六角は滅んだのか)
勝つ戦では見えなかった線が、
この滅びの地には確かに残っていた。
風が吹き、
滅びの匂いが、かすかに土の奥から立ち上った。




