武将 蒲生氏郷 第115話城の明け渡し交渉への随行
(四国・城下/1585年)
街道を進むと、
前方に城下の屋根が見えた。
田畑の向こうに土塁が続き、
その奥に小高い丘と城の石垣が重なっていた。
秀吉方の使者が馬を進め、
氏郷はその横についた。
後方には槍隊と鉄砲隊が列を整え、
荷駄隊がゆっくりと続いた。
「城門前で配置を整える」
氏郷が短く告げ、
左馬允が前へ出た。
城下の入口には、
長宗我部方の兵が数名立っていたが、
武具を下ろし、
抵抗の気配はなかった。
使者が名乗りを上げ、
城方の者が門へ走った。
しばらくして、
城門が軋む音を立てて開いた。
氏郷は槍隊へ合図を送った。
「左右に散開。
門前を押さえよ」
槍隊が門の左右へ走り、
槍の穂先を外へ向けて構えた。
鉄砲隊は門から少し離れた位置に膝をつき、
火縄を布で包んだまま待機した。
荷駄隊は街道の中央で止まり、
馬の手綱を締め直した。
城門の内側には、
長宗我部方の家臣が並んでいた。
鎧は着ていたが、
兜は外し、
槍も地面に立てかけていた。
使者が前へ進み、
明け渡しの条件を確認した。
氏郷は左馬允とともに門をくぐり、
城内へ入った。
土塀の影、
櫓の位置、
兵の数を目で追い、
左馬允が記録帳に書き込んだ。
「兵、五十ほど。
武具は槍三十、鉄砲十。
倉は奥の建物です」
氏郷はうなずき、
倉へ向かった。
倉の扉が開かれ、
中には米俵、
干し魚、
矢束、
火薬袋が並んでいた。
左馬允が一つずつ数え、
記録帳に数字を書き込んだ。
「米百二十俵。
矢束四十。
火薬袋二十。
不足なし」
氏郷は倉の奥まで歩き、
棚の裏や壁の影を確認した。
隠し倉や武具の持ち出しがないかを確かめ、
左馬允がその動きを記録した。
次に兵舎へ向かった。
長宗我部方の兵が整列し、
武具を前に置いていた。
槍の穂先、
鉄砲の銃身、
刀の鞘が並び、
左馬允が一本ずつ確認した。
「槍、二十八。
鉄砲、九。
刀、十五。
記録通りです」
氏郷は兵舎の裏手へ回り、
井戸の位置、
塀の高さ、
裏門の有無を確認した。
裏門は閉ざされ、
縄で固く縛られていた。
左馬允が縄の状態を見て、
記録帳に書き込んだ。
「裏門、封鎖済み。
逃走の形跡なし」
使者が本丸から戻り、
明け渡しの手続きが完了したことを告げた。
城主はすでに城を離れ、
家臣が残って引き渡しを行ったという。
氏郷は門前へ戻り、
槍隊へ合図を送った。
「城内、異常なし。
配置を解け」
槍隊が槍を下ろし、
鉄砲隊が火縄をしまい、
荷駄隊が列を整えた。
城門が再び開かれ、
氏郷隊が城外へ出た。
左馬允が記録帳を閉じ、
短く報告した。
「兵数、武具、倉の内容、
すべて確認済み。
明け渡し、完了です」
氏郷はうなずき、
街道の先を見た。
次の城、
次の街道が待っていた。




