武将 蒲生氏郷 第114話機動戦での追撃
(四国山間部 → 平地・1585年)
山道の奥で、
長宗我部方の残兵が一斉に動いた。
斜面を離れ、
谷筋の出口へ向かって走り出す。
山道の影が揺れ、
足音が重なり、
敵が平地へ逃れようとしていた。
斥候が駆け戻り、
短く告げた。
「敵、下へ退きます。
谷を抜けて平地へ」
氏郷はすぐに判断した。
「追う。
騎馬、前へ」
騎馬隊が列を抜け、
馬の首を前へ向けた。
手綱が締まり、
蹄が土を蹴った。
山道の狭い区間を抜けると、
馬は一気に速度を上げた。
谷筋を抜けた先は、
幅の広い平地だった。
田畑の跡が続き、
低い土塁が点々と並ぶ。
敵はその間を縫うように走り、
街道へ向かって逃げていた。
氏郷は馬を進め、
地図を広げた左馬允へ声をかけた。
「分岐はどこだ」
左馬允は街道の線を指でなぞり、
平地の形と照らし合わせた。
「前方の分岐、
右へ行けば谷へ戻る道。
左が本街道。
敵は左へ逃げます」
氏郷は騎馬隊へ合図を送った。
「左へ寄れ。
街道で捕らえる」
騎馬隊が角度を変え、
平地を横切るように走った。
土が跳ね、
馬の影が長く伸びた。
敵との距離が縮まり、
逃げる背中がはっきりと見えた。
敵は十数名。
軽装で、
荷物を捨てて走っていた。
街道へ出れば、
さらに奥へ逃げ込める。
その前に捕らえる必要があった。
左馬允が後方から声を上げた。
「殿、
街道の先に小さな林。
そこへ入られると厄介です。
林の手前で押さえるべきです」
氏郷は手を上げ、
騎馬隊へ指示を出した。
「林の前で挟む。
右から二騎、
左から三騎。
中央はそのまま追え」
騎馬隊が左右へ散開し、
敵の進路を挟む形で走った。
馬の蹄が土を叩き、
風が耳を切った。
敵は振り返り、
進路を変えようとしたが、
左右から迫る騎馬に阻まれた。
中央の騎馬が距離を詰め、
槍を突き出した。
敵が転び、
後続がぶつかって倒れた。
残った者が林へ逃げ込もうとしたが、
左側の騎馬が先回りし、
進路を塞いだ。
短い乱戦が起こり、
敵は数名を残して散り散りに逃げた。
槍隊が後方から追いつき、
倒れた敵を押さえ、
武具を回収した。
左馬允が林の手前で足を止め、
周囲を確認した。
敵の落とした袋、
矢束、
短刀が地面に散らばっていた。
それらを拾い上げ、
記録帳に書き込んだ。
「敵の装備、
軽装ばかり。
偵察か、
遅れた小隊でしょう」
氏郷は街道の先を見渡し、
追撃の終わりを確認した。
騎馬隊が列を整え、
槍隊が後方で待機し、
鉄砲隊が山道から降りてきた。
「追撃、ここまで。
街道を押さえ、
次の進路を決める」
左馬允が地図を広げ、
街道の分岐と地形を照らし合わせた。
「この先、
丘を越えれば城下へ続きます。
進軍は問題ありません」
氏郷はうなずき、
隊へ指示を出した。
「列を整えよ。
街道へ入る」
四国の平地に、
氏郷隊の影が伸びた。
追撃は終わり、
次の進軍が始まった。




