武将 蒲生氏郷 第112話上陸地点の確保
(四国沿岸・1585年)
船団が浜へ近づくと、
波の音が大きくなり、
船底が砂をかすめる感触が伝わった。
船頭が合図を上げ、
船がゆっくりと速度を落とした。
周囲の船も同じ動きを見せ、
列を乱さぬように並んでいく。
「槍隊、準備」
氏郷の声に、
槍隊が立ち上がり、
穂先を布で拭き、
足元を固めた。
船が完全に止まると、
板が浜へ渡され、
槍隊が次々と降りていった。
砂地は柔らかく、
足が沈む。
槍隊は間隔を取り、
左右へ散開し、
浜の両端を押さえた。
前方の草むら、
背後の丘、
街道へ続く谷筋を警戒しながら、
槍の柄を握り直した。
続いて鉄砲隊が降りた。
火縄を布で包んだまま、
砂地に膝をつき、
射撃位置を作り始めた。
砂を掘り、
足場を固め、
銃床が滑らぬように板を敷く。
火薬袋は湿気を避けて胸元に抱え、
射撃方向を浜の奥へ向けた。
左馬允は浜へ降りると、
すぐに地図を広げた。
浜から街道までの距離を測り、
谷筋の角度を確認し、
丘の高さを目で追った。
砂地を歩きながら、
足元の硬さ、
水場の位置、
荷駄が通れる幅を確かめた。
「殿。
街道までは二町ほど。
谷筋は狭いが、
荷駄も通れます。
この道を使うのが最短」
氏郷がうなずき、
槍隊へ合図を送った。
「前へ。
谷筋の入口を押さえよ」
槍隊が浜を離れ、
谷へ向かって進んだ。
砂地から土の道へ変わり、
足音が軽くなる。
左右の斜面には低木が生え、
風が枝を揺らしていた。
鉄砲隊は浜に残り、
射撃位置を整え続けた。
火縄を乾かし、
銃口を布で拭き、
砂が入らぬように注意した。
射撃角度を調整し、
谷筋の入口へ向けて銃を並べた。
荷駄隊が船から荷を降ろし、
縄を締め直し、
馬の脚を確認した。
荷車の車輪を砂地から引き上げ、
固い地面へ移動させた。
水桶が揺れ、
縄が軋む音が浜に響いた。
左馬允は谷筋の入口まで歩き、
槍隊の配置を確認した。
前方に二列、
左右に散開、
後方に予備。
谷の幅に合わせた自然な布陣だった。
「この位置でよい。
敵が来れば、
ここで止められる」
氏郷が浜から谷筋を見渡し、
全体の動きを確かめた。
船団の後続が次々と浜へ到着し、
他隊の兵も降り始めていた。
浜には槍の穂先が並び、
鉄砲の銃身が光り、
荷駄の列が伸びていく。
風が海から吹き、
帆が揺れ、
船が波に押されて軋んだ。
浜の砂が舞い、
兵の足元に薄く積もった。
左馬允が戻り、
短く告げた。
「進路、確定。
街道までの道、問題なし。
荷駄も通れます」
氏郷はうなずき、
浜の全体を見渡した。
槍隊が前方を押さえ、
鉄砲隊が射撃位置を固め、
荷駄隊が列を整え、
船団が次々と上陸していく。
四国の地へ、
氏郷隊は確実に足を踏み入れた。




