武将 蒲生氏郷 第111話船団の移動
(瀬戸内海・1585年)
船団が港を離れたのは、
潮が静かに満ち始めた刻だった。
帆が風を受け、
船体がゆっくりと前へ押し出される。
大坂湾の水面が揺れ、
船団は列を作って瀬戸内海へ向かった。
氏郷は船の縁に立ち、
航路を示した地図を広げた。
海岸線の曲がり、
島々の位置、
潮の流れを確かめ、
船頭と短く言葉を交わした。
「風は南西。
このまま進める」
船頭がうなずき、
舵を握り直した。
船は風を受けて速度を上げ、
周囲の船と歩調を合わせた。
左馬允は船内を歩き、
兵の配置を確認していた。
槍隊は前方に座り、
鉄砲隊は火薬袋を抱えて中央に集まり、
荷駄隊は後方で荷の固定を確かめていた。
船が揺れるたび、
桶の水がわずかに波立った。
「前方、もう少し詰めよ。
揺れで槍が倒れるぞ」
左馬允の声に、
兵たちが槍の柄を押さえ、
足元の縄を締め直した。
鉄砲隊は火縄を布で包み、
湿気を避けるために箱を重ねた。
船団は瀬戸内海の中央へ進み、
左右には島々が連なった。
海面は穏やかで、
船の影が水に揺れていた。
遠くでは、
黒田隊の船が帆を高く張り、
蜂須賀隊の船が列を整えていた。
氏郷は再び地図を広げ、
上陸予定地点までの距離を測った。
指で海岸線をなぞり、
島の影を確認し、
船頭へ告げた。
「この島を越えたら、
南へ寄れ。
潮が変わる」
船頭が舵を切り、
船がゆっくりと角度を変えた。
風向きがわずかに変わり、
帆が鳴った。
船団全体が同じ方向へ動き、
列が乱れないように調整された。
左馬允が氏郷のもとへ戻り、
短く報告した。
「兵の配置、問題なし。
荷も固定済み。
上陸まで持ちます」
氏郷はうなずき、
海岸線の影を見つめた。
遠くに見える陸地はまだ霞んでいたが、
船団は確実に近づいていた。
船は島影に入ると揺れが弱まり、
兵たちは水を飲み、
腰の紐を締め直した。
鉄砲隊は火縄の状態を確認し、
槍隊は穂先を布で拭いた。
荷駄隊は荷の縄をもう一度締め直し、
馬の様子を見に別の船へ合図を送った。
やがて、
船団の先頭から太鼓の音が響いた。
上陸地点が近い合図だった。
船頭が声を上げ、
兵たちが立ち上がった。
「間もなく浜へ入る。
準備せよ」
氏郷は地図を閉じ、
左馬允とともに船首へ移動した。
海岸線がはっきりと見え、
浜の形、
背後の丘、
街道へ続く谷筋が目に入った。
風が帆を叩き、
船は浜へ向けて速度を落とした。
周囲の船も同じ動きを見せ、
船団全体が一つの流れとなって進んだ。
瀬戸内海の水面が光り、
船の影が揺れた。
上陸の刻が近づいていた。




