武将 蒲生氏郷 第108話秀吉からの賞詞
(1584年・尾張国/長久手 → 秀吉本陣)
長久手周辺での戦闘がひと段落したころ、
秀吉本陣から伝令が駆けてきた。
馬の蹄が街道を叩き、
砂埃が舞い上がった。
「蒲生殿!
秀吉様より召し出し!
本陣へ参れとのこと!」
氏郷は馬を返し、
左馬允とともに本陣へ向かった。
街道には諸隊の兵が行き交い、
荷駄隊が列を組み直し、
戦場の空気がまだ残っていた。
本陣に近づくと、
秀吉の旗が高く掲げられ、
周囲には諸将が集まっていた。
氏郷は馬を降り、
左馬允とともに秀吉の前へ進んだ。
秀吉は地図の前に立ち、
周囲の将たちへ指示を飛ばしていた。
その手が止まり、
氏郷へ視線が向けられた。
「氏郷。
長久手での働き、聞き及んでおるぞ」
氏郷は膝をつき、
戦功の報告を行った。
「敵の退路を断ち、
一部を包囲いたしました。
槍十五、刀八、旗指物三、
馬五頭を回収。
捕虜八名を後方へ送りました」
左馬允が記録帳を開き、
地形と敵動向の記録を差し出した。
「これが本日の戦況の記録にございます。
敵の進路、退路、伏兵の位置、
いずれも地図に記しております」
秀吉は記録を受け取り、
地図と照らし合わせながら目を通した。
指で街道をなぞり、
丘陵の影を確認し、
退路を押さえた位置を確かめた。
「うむ……
よう動いたな。
敵の退きを読んで回り込み、
包囲を締めたか。
見事よ」
秀吉は扇を軽く打ち鳴らし、
周囲の将たちへ声をかけた。
「見よ。
これが蒲生氏郷の働きじゃ。
若いが、戦場の動きをよく見ておる。
先鋒として不足なし」
諸将がうなずき、
氏郷の名が静かに広がった。
秀吉は再び氏郷へ向き直った。
「明日も動くぞ。
犬山方面の押さえ、
あるいは長久手の追撃、
いずれにも備えておけ。
そなたの隊は、
わしの“目”として働いてもらう」
氏郷は深く頭を下げた。
「はっ。
明日の進軍に備え、
隊を整えておきます」
秀吉がうなずき、
次の将を呼んだ。
氏郷と左馬允は本陣を下がり、
自隊の陣へ戻った。
陣に戻ると、
兵たちが水を汲み、
火縄を乾かし、
槍の穂先を布で拭いていた。
荷駄隊は荷車の縄を締め直し、
馬の脚を確認していた。
氏郷は隊の前に立ち、
短く告げた。
「明日も動く。
武具を整えよ。
兵糧を配れ。
夜のうちに休め」
左馬允が兵数と武具の確認を始め、
記録帳に数字を書き込んでいく。
兵たちは水を飲み、
握り飯を受け取り、
鎧の紐を締め直した。
夜風が陣幕を揺らし、
遠くで焚き火の煙が上がっていた。
秀吉本陣の灯りが、
丘陵の向こうで揺れていた。
氏郷隊は翌日の進軍に備え、
静かに準備を整えていった。




