武将 蒲生氏郷 第107話捕虜・戦利品の処理
(1584年・尾張国/長久手周辺)
敵の退路を断ち、包囲を締めたあと、
街道には倒れた槍、落ちた草鞋、
散らばった旗指物が残っていた。
氏郷は馬を止め、
左馬允へ短く指示した。
「捕虜を後方へ送れ。
武具をまとめる」
左馬允がうなずき、
兵たちへ合図を送った。
縄を持った兵が前へ出て、
膝をついた敵兵の腕を縛り、
列を作って後方へ歩かせた。
捕虜は八名。
槍を捨てたまま、
うつむいて街道を進んだ。
荷駄隊が前へ出て、
荷車を街道の中央に寄せた。
兵たちが散らばった武具を拾い集め、
槍を束ね、
刀を鞘ごと並べ、
旗指物を一本ずつ確認した。
「槍、十五。
刀、八。
旗指物、三。
馬、五頭」
左馬允が記録帳を開き、
戦利品の数量を一つずつ書き込んだ。
墨が紙に吸い込まれ、
数字が並んでいく。
馬は手綱をつけ直され、
荷駄隊の馬と一緒に列へ加えられた。
汗で濡れた毛並みが光り、
鼻息が白く揺れた。
氏郷は街道の先を確認し、
隊へ向き直った。
「列を整える。
槍隊、前へ。
鉄砲隊、右。
弓隊、後方。
荷駄は中央を保て」
伝令が走り、
兵たちが静かに動き始めた。
槍隊が前へ進み、
鉄砲隊が火縄を整え、
弓隊が矢束を背に掛けた。
荷駄隊は荷車を押し、
馬の位置を調整した。
その間、
兵たちは水と兵糧を補給した。
水桶が回され、
兵がひと口ずつ飲み、
口元を袖で拭った。
握り飯が配られ、
兵たちが短く噛みしめて飲み込んだ。
鉄砲隊は火薬袋を確認し、
弓隊は矢羽の曲がりを直した。
左馬允が再び地図を広げ、
氏郷のそばへ馬を寄せた。
「殿。
この先、街道が二つに分かれます。
右は長久手の丘陵へ。
左は湿地を回り込む道。
敵の本隊は右へ向かっている様子」
氏郷は地図を覗き込み、
進路を確認した。
丘陵の影、
街道の幅、
林の位置。
兵が動ける道を一つずつ見ていく。
「右へ進む。
長久手へ向かう」
左馬允がうなずき、
伝令が再び走った。
兵たちが列を締め直し、
槍の穂先が揃って前を向いた。
鉄砲隊が火縄を布で包み、
弓隊が矢束を握り直した。
荷駄隊が荷車を押し、
馬がゆっくりと歩き始めた。
捕虜はすでに後方へ送られ、
戦利品は荷車に積まれ、
街道は再び静かになった。
氏郷隊は整った列のまま、
長久手の丘陵へ向けて進んでいった。
前方の空気がわずかに張りつめ、
次の戦いが近いことだけが
街道の風に混じっていた。




