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106/126

武将 蒲生氏郷 第106話敵の退路を断つ動き

(1584年・尾張国/長久手周辺の丘陵地帯)

伏兵を退けて街道を進んでいたとき、

前方へ出していた斥候が戻ってきた。

馬の腹が大きく上下し、

鞍の袋が揺れていた。

「報告!

 家康方、南へ退き始めています!

 列が長い。

 退路はこの丘の向こうです!」

左馬允がすぐに地図を広げ、

斥候が指した方向を地図上に置き換えた。

丘陵の角度、

街道の曲がり、

湿地の位置を確認していく。

「殿。

 敵の退路はここ。

 丘を越えれば横から回り込めます。

 この角度なら包囲できます」

氏郷は地図を覗き込み、

追撃隊の進路を決めた。

「槍隊、前へ。

 鉄砲隊、右の林沿い。

 荷駄は後方に下げよ。

 丘を越えて退路へ回り込む」

伝令が走り、

兵たちが列を組み直した。

槍隊が前へ進み、

鉄砲隊が火縄を布で包み、

弓隊が側面を固めた。

丘陵の斜面は急で、

土が崩れやすかった。

兵たちが足元を確かめながら登り、

槍の穂先が揺れた。

鉄砲隊は火縄を湿らせぬよう、

布をさらに巻き付けた。

左馬允が斜面の途中で立ち止まり、

地形を確認した。

「殿。

 この尾根を越えれば、

 敵の退路が見えます。

 包囲の角度はこのままでよい」

氏郷はうなずき、

兵たちへ合図した。

「登り切る。

 退路を押さえる」

丘の上に出ると、

南へ伸びる細い街道が見えた。

その上を、

家康方の兵が列を作って退いていた。

槍の穂先が揺れ、

荷駄の馬が重い足取りで進んでいた。

氏郷は短く命じた。

「回り込む。

 敵の列の前へ出る」

槍隊が丘の影を使って南へ回り込み、

鉄砲隊がその後を続いた。

弓隊は側面を固め、

荷駄隊は丘の上で待機した。

丘陵の影を抜けると、

街道の前方へ出られる位置に出た。

敵の列が近づいてくるのが見えた。

左馬允が馬を寄せ、

包囲の角度を調整した。

「殿。

 槍隊はここで横へ広がります。

 鉄砲隊は右の林へ。

 弓隊は左の斜面から射せます」

氏郷は槍隊へ合図した。

「構えよ。

 敵の先頭を止める」

槍隊が横へ広がり、

槍の穂先が一斉に前を向いた。

鉄砲隊が林の影へ入り、

火縄を構えた。

弓隊が斜面に散り、

矢を番えた。

敵の先頭が街道の曲がりを越えた瞬間、

氏郷が声を上げた。

「押し出せ!」

槍隊が前へ進み、

敵の先頭を押し止めた。

鉄砲隊が火縄を落とし、

乾いた破裂音が続いた。

弓隊が矢を放ち、

敵の列が乱れた。

家康方の兵が後退し、

街道の中央に倒れた。

後続が混乱し、

列が崩れた。

氏郷は槍隊へ合図した。

「包囲を締める。

 逃がすな」

槍隊が左右から回り込み、

敵の一部を囲んだ。

鉄砲隊が射撃を続け、

弓隊が側面を固めた。

やがて敵兵が武具を捨て、

街道に膝をついた。

左馬允が馬を進め、

武具の回収を指示した。

「槍、十数本。

 旗指物、三。

 馬、五頭。

 捕虜、八名」

荷駄隊が前へ出て、

武具を荷車へ積み込んだ。

捕虜は縄で縛られ、

後方へ送られた。

氏郷は街道を確認し、

隊へ告げた。

「退路、確保。

 列を整えよ。

 次へ進む」

丘陵の影が長く伸び、

長久手の戦場が近づいていた。


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