武将 蒲生氏郷 第105話伏兵・奇襲への対応
(1584年・尾張国/長久手手前の林道)
長久手へ向かう街道を進んでいたときだった。
前方の林がわずかに揺れ、
斥候が手を挙げて合図した。
「止まれ!」
槍隊が足を止め、
鉄砲隊が火縄を押さえ、
荷駄隊が列を締めた。
林の奥で、
枝が折れる乾いた音が続いた。
次の瞬間、
家康方の伏兵が林の影から飛び出した。
槍を構えた十数名が、
街道へ向けて一気に駆け下りてきた。
氏郷はすぐに声を上げた。
「槍隊、前へ!
押し返せ!」
槍隊が前に出て、
槍の穂先を揃えた。
林から出てきた敵兵とぶつかり、
槍の柄がぶつかる音が響いた。
左馬允が馬を寄せ、
側面の林を指さした。
「殿、右側も動きます!
側面、警戒を強めます!」
弓隊が右側へ散り、
矢を番えた。
鉄砲隊は左側の開けた場所へ移動し、
射撃位置を確保した。
「鉄砲、構え!」
左馬允の声で、
鉄砲隊が火縄を火皿に近づけた。
火縄の煙が細く立ち上がり、
兵たちが前方を見据えた。
林の奥から、
さらに敵兵が現れた。
槍を振り上げ、
街道へ向かって走ってくる。
氏郷が短く命じた。
「撃て!」
火縄が火皿に落ち、
乾いた破裂音が連続して響いた。
白い煙が林へ流れ、
敵兵が足を止めた。
前に出ていた数名が倒れ、
後続が混乱した。
槍隊がその隙に前へ出て、
敵を押し返した。
槍の穂先が林の影へ押し込まれ、
敵兵が後退した。
左馬允が側面を確認し、
弓隊へ指示を飛ばした。
「右側、射て!」
弓隊が矢を放ち、
林の影へ矢が吸い込まれた。
枝が揺れ、
敵兵の動きが止まった。
街道の中央では、
荷駄隊が荷車を寄せて防壁を作り、
馬を後方へ下げていた。
兵たちが荷車の間に入り、
槍を構えて警戒した。
氏郷は前方を確認し、
槍隊へ合図した。
「押し出せ!
街道を確保する!」
槍隊が一斉に前へ進み、
敵兵を林の奥へ押し返した。
鉄砲隊が再び火縄を構え、
弓隊が側面を固めた。
林の中で枝が折れる音が続き、
やがて敵兵の姿が消えた。
伏兵は完全に退いた。
左馬允が馬を進め、
林の奥を確認した。
「殿。
伏兵は小勢。
街道を塞ぐ意図だけのようです。
このまま進めます」
氏郷はうなずき、
隊列へ向き直った。
「列を整えよ。
遅れるな。
長久手へ向かう」
槍隊が前へ戻り、
鉄砲隊が火縄を整え、
弓隊が矢束を確認した。
荷駄隊が荷車を押し出し、
街道の中央へ戻った。
伏兵を退けた氏郷隊は、
再び街道を進み始めた。
林の影が後ろへ流れ、
前方には長久手の丘陵が近づいていた。




