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103/128

武将 蒲生氏郷 第103話家康方の動きを察知

(1584年・尾張国/小牧山周辺)

丘陵の影に陣を張って間もなく、

斥候が三人、ほぼ同時に戻ってきた。

馬の蹄が土を蹴り、

乾いた音が陣の前で止まった。

一人が氏郷の前に進み出て、

短く報告した。

「家康方、砦の南口で兵を動かしています。

 列が長い。

 街道へ出る準備と思われます」

続いて別の斥候が、

腰の袋から小石を取り出し、

地面に並べて敵の位置を示した。

「こちらにも動きあり。

 砦の西側で馬が集まっています。

 数は二百ほど」

左馬允がすぐに地図を広げた。

紙の端を押さえ、

斥候の示した位置を地図上に置き換えていく。

「殿。

 砦の南口から街道へ出る形。

 この道を使えば、

 犬山にも、長久手にも向かえます」

氏郷は地図を覗き込み、

丘陵の角度、

湿地の広がり、

街道の曲がりを確認した。

兵が動ける幅を一つずつ見ていく。

氏郷が手を挙げ、

隊列へ合図を送った。

「向きを変える。

 槍隊、右へ。

 鉄砲隊、前へ。

 弓隊は側面を固めよ。

 荷駄は中央を保て」

伝令が走り、

各隊へ指示を伝えた。

槍隊が列を組み直し、

鉄砲隊が火皿を確認し、

弓隊が矢束を肩に掛けた。

荷駄隊は荷車の縄を締め、

馬の脚を確かめた。

左馬允が馬を寄せ、

地図を指し示した。

「殿。

 敵が街道へ出るなら、

 この丘の影を押さえるのが最適です。

 ここを越えれば、

 敵の進路を横から見られます」

氏郷は馬の腹を軽く蹴り、

隊列の先頭へ進んだ。

兵たちが静かに続き、

丘陵の影へ向かった。

斥候が再び戻ってきた。

息を整えながら報告する。

「敵、街道へ出ました。

 列が長い。

 先頭は南へ向かっています。

 旗指物は松平のものが多い」

左馬允が地図に指を置いた。

「殿。

 長久手方面へ向かう可能性が高い。

 ここで進路を押さえれば、

 敵の動きを見切れます」

氏郷は丘陵の斜面を見上げた。

木々の間から、

街道の一部がかすかに見えた。

「登る。

 敵の列を確認する」

兵たちが斜面を登り始めた。

土が崩れ、

草が足元で揺れた。

鉄砲隊が慎重に火縄を守りながら進み、

槍隊がその後に続いた。

丘の上に出ると、

街道が一本、

南へ向かって伸びていた。

その上を、

家康方の兵が列を作って進んでいた。

槍の穂先が揺れ、

馬の背に積まれた荷が光った。

氏郷は左馬允に短く告げた。

「追う準備をする。

 隊を整えよ」

左馬允がうなずき、

伝令が走った。

兵たちは再び武具を整え、

列を締め直した。

槍の柄を握り直し、

火縄を湿らせぬよう布で覆い、

弓の弦を張り直した。

丘陵の上を風が通り、

陣幕が揺れた。

家康方の列は、

南へ向かってゆっくりと進んでいた。

氏郷隊は丘の影に身を置き、

次の命令を待った。

長久手への転進が、

いよいよ現実味を帯びていた。


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