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102/122

武将 蒲生氏郷 第102話 小牧山周辺への進軍

(1584年・尾張国/小牧山周辺)

秀吉軍が大坂を発って数日、

尾張へ向かう街道には、

荷駄隊と諸将の列が途切れず続いていた。

氏郷隊は先鋒の一角として、

街道の前方を進んだ。

春の風が吹き、

道端の草が揺れていた。

宿場に入ると、

兵たちが兵糧を受け取った。

米俵が荷車から降ろされ、

味噌樽が並べられ、

水桶が井戸のそばに置かれた。

左馬允が兵糧の量を確認し、

隊ごとに分配していく。

「殿。

 兵糧、三日分は確保できます」

氏郷はうなずき、

馬を進めた。

宿場を出ると、

小牧山が遠くに見え始めた。

独立した丘陵で、

周囲の田畑より一段高く盛り上がっている。

その麓には、

家康方が築いた砦の影が見えた。

左馬允が馬上で地図を広げた。

紙の端が風に揺れ、

彼は指で押さえながら説明した。

「殿。

 小牧山の北側に湿地がございます。

 ここは迂回が必要です。

 街道は西側を回り込む形になります」

氏郷は地図を覗き込み、

丘陵の角度と街道の曲がりを確認した。

前方の斥候が戻り、

周辺の様子を報告する。

「敵影なし。

 砦の動きも静かです」

氏郷は隊列の向きを調整した。

槍隊が前へ、

鉄砲隊がその後ろへ、

弓隊が側面に散った。

荷駄隊は街道の中央に置き、

左右に護衛をつけた。

小牧山の麓に近づくと、

地面がわずかに湿り始めた。

足元に小さな水たまりが点在し、

馬の蹄が柔らかい土を踏んだ。

左馬允が湿地の広がりを確認し、

迂回路を指示した。

「殿。

 この先、右へ。

 丘陵の影を回り込む道が使えます」

氏郷は手を挙げ、

隊列に合図を送った。

兵たちが静かに方向を変え、

丘陵の影へと進んでいく。

丘陵の斜面には、

低い松がまばらに生えていた。

その間を縫うように道が続き、

小牧山の砦が遠くに見え隠れした。

やがて、

布陣に適した平地が現れた。

街道から少し外れた場所で、

丘陵の陰になっている。

敵から見えにくく、

兵を休めるには十分な広さがあった。

氏郷は馬を止め、

左馬允に指示した。

「ここに陣を張る。

 槍隊は前。

 鉄砲隊は右の林沿い。

 荷駄は中央に置け」

左馬允が兵たちへ伝令を飛ばし、

陣幕が張られ、

槍が地面に突き立てられた。

鉄砲隊が火薬と弾を並べ、

弓隊が矢束を整えた。

荷駄隊は荷車を円形に並べ、

馬をつなぎ、

水桶を中央に置いた。

小牧山の砦からは、

煙が細く上がっていた。

敵の動きは見えないが、

砦の中では何かが準備されている気配だけがあった。

氏郷は丘陵の上を見上げ、

左馬允に声をかけた。

「斥候を出せ。

 砦の周囲を一巡させる」

左馬允がうなずき、

斥候が林の中へ消えていった。

陣が整うと、

兵たちは静かに腰を下ろし、

槍をそばに置いた。

風が丘陵を越え、

陣幕を揺らした。

小牧山の影の下で、

氏郷隊は次の命令を待った。

家康方の動きが、

いつ始まってもおかしくない状況だった。


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