寝坊
2013年
6月12日
08:11
USA アイオワ州
「うるせぇ!」
威勢良く朝を知らせていた目覚し時計が、繰り出されたチョップに砕け散る。
「………あっ」
眠たい目に、左手に握り締められた金属片と部品が映った。
ちっくしょう…
「今月三個目か…」
前髪の寝癖を掻きながら、思った。
リビングの小さな窓から、遅刻に追われるビジネスマンか、中型犬を散歩させる優雅な婦人が見えたが、正直どうでもいい。
安いイスに寝巻のまま座って、目が覚めるまでのんびりすることにした。
「メシ食いてぇな…」
十分くらいの抜け殻状態を終え、冷蔵庫にふらふら近付く。
適当に卵を二個フライパンにぶち込み、コンロに火を着けた。
ついでにパンを二切れ取り、テーブルに投げる。
「美味しくならないと殺すぞお前らー」
火で焼かれる卵に美食の魔法を掛けて、ぐちゃぐちゃ混ぜた。
「そういやもう死んでんだっけ?」
焼けたらパンに掛けて、その上にもう一切れを載せる。
後はもう食うだけ。
「?」
ポケットに入れているiPhoneがブルブル震えていた。
「もしもーし、切っていいですかー」
「良いわけねぇだろ!」
カールの声が耳元で騒ぎ立てる。
「うーん、ナイスツッコミ」
「うるせぇな! 今何してんだ?」
「なにそのカップルみたいなセリフは」
「そんなんはどうでもいい」
「今はメシ」
スクランブルしただけエッグとただのパンを挟んだ物を、歯で噛み千切る。
「お前今日非番か?」
「そうよ。 今日はのんびりする気だから」
テレビを付けると朝の情報番組をやっていた。
「残念なお知らせだ」
CNNのニュースキャスターが最近人気の俳優について語っている。
「なによ?」
「ジョナサンの呼び出しだ」
「もうヤダ! あの男は労働者の権利を知らないの!?」
能天気なテレビを消し、朝食を一気に飲み込んだ。
クローゼットに飛んで騒々しく戸を開け、寝巻を脱ぎ捨てて社の制服に身を包む。
「あー、良い子だ…」
その奥に立て掛けられたM14のベルトを肩に掛けて、再びiPhoneを手にする。
「今お前の家の前にいる!」
「用意が良いねぇ。 サンキュー」
玄関に走り、家を出た。
アパートのドアを閉めて施錠すると、目の前にSUVが停まっていた。
「よっ」
「おっす」
助手席に滑り込むと、SUVが住宅街の小さな道を走り出す。
「状況は?」
「なんかお前が必要らしいぞ」
「じゃなんであたしに連絡しないのよ… あっ…」
iPhoneにメールが、起きる一時間前から届いていた。
「いやー あたしったらー」
「限り無く棒読みだぞ」
オフィスまでは十分とかからない。
なにしろ社宅だから。
「俺は停めとくから先行ってろ」
「ん、サンキュー」
やや車高が高めなSUVから急いで出て、オフィスに入った。
「あら、おはようディアナちゃん」
「あ、エルナさんおはようです!」
カールの姉ちゃんのエルナさんが受付で微笑んでいる。
「今日非番じゃなかったの?」
「はい、そうだったんすけど。 ジョナサンの呼び出しです」
「あら残念。 ウチのバカな弟も?」
「違うらしいです。 でも送り迎えしてもらいました」
「バカでも役には立つでしょ?」
ロッカーの鍵を貰いながら頭を下げて、「はい」と答える。
「じゃ、頑張ってね」
励ましの言葉に押されてロッカールームに向かった。
「ジョナサンいるー?」
ブリーフィングルームに入り、呼び掛けてみる。
「十分遅れだ」
「寝坊ですすいません」
モニターの前にジョナサンは佇んでいた。
ジョナサンはこっちをジッーと眺めていたが、やがて握っているリモコンに視線を落とす。
「座れ、お前にはこれを見てもらう」
リモコンを操作すると、モニターの電源が付き何かの映像を読み込み始めた。
手近なパイプイスに腰を下ろし、再生を待つ。
「このオフィスにいる者では、確かロシア語がわかるのはお前だけだったな」
「だからあたしが呼ばれたと?」
まずエレベーターの映像が再生された。
五人のいかつい男が入ってきて、早口のロシア語を喋る。
「良いか? 英語は使うなよ」
真ん中にいたリーダーらしき者がそう言った。
「次だ」
操作パネルの前にいた男が簡潔に報告。
「降りるぞ。 見つかるな」
映像が途切れ、ジョナサンが停止ボタンを押す。
「次の映像だ」
旅客機の機内の映像に変わった。
「お客様、お飲み物は?」
CAが客の間を巡回している。
もちろん英語だ。
「手を上げろ!」
「伏せろ!」
先程の五人がロシア語でハイジャックの決まり文句を叫ぶ。
その手にはAKS-74Uがあった。
「うーん、いい銃だねぇ」
独りごち、ハイジャックの経過を冷たく見守る。
「死にたくなければ逆らうな!」
スラヴ人がロシア語をまくし立てて乗員を威嚇した。
暗い記憶を思い出し、それを頭に仕舞い込む。
「お前達はこいつらを見てろ! 俺はコントロールを変える!」
リーダーの男が機首に向かった。
「映像はここまでだ」
突然、再生が尻切れに終わる。
「この監督の編集センスを疑うね」
「残念だが編集された物ではない。 ハイジャック犯によりカメラが破壊されたか、撮影を止められたようだ」
「…冗談だよ」
To Be Continued…




