戦士の進軍
2013年
6月6~8日
パレスチナ
銃身の下部にナイフを括り付け、ハンドガードのフォアグリップを開く。
マルチカムの野戦服が汚れるのも構わず、砂に身体を横たえて150m先の鉄製の的を狙った。
「見てな…」
アイアンサイトから的の頭を覗き込み、引き金を素早く二度引く。
大口径の確かな反動が伝わり、躍り上がって的に駆け出した。
「命中… ありゃ…」
「アアアァァー!!!!」
奇声に驚き、なんだなんだと周りに野次馬が集まる。
槍のように構えたM14を、眼前の的の心臓に突き出した。
キイーンと、高い金属音が砂漠に響く。
「はい、ディアナ・オールグレンによる銃剣突撃講座でした」
「おぉー。 ブラボーブラボー」
「カール、あんたにゃあたしの持つ奥義はわからんよ」
何が不満なのかしら?
「ってかなんでそんな笑ってんの?」
「お前は… 何十年前の人間だよ…」
ん………
「お前、確かサイドアームは」
「安心と信頼のコルトM1911ですけど?」
「…」
なんなのよ… 駄目か?
「年齢…」
「レディには聞いちゃいけない質問よ?」
「お前はビッチだろ」
「その腹を暴いてやろうか?」
「イヤーヤメテー」
野次馬の前で恥晒させやがって…
安い民宿一棟が、ムサい連中で溢れ返ることになった。
その被害者たる民宿は、これまでに無い大所帯の来客にてんてこ舞いしている。
私は女子なので一人部屋… なんて展開はなかった。
それでもジョナサンの温情で同室者はカールだけだ。
「言っとくけどあんたに抱かれる気は無いよ?」
「誰が筋肉の塊と取っ組み合いなどするものか… 俺が死ぬ…」
「わかってんじゃん… 夜あたしに触ろうものなら、触れたとこから骨を折るぞ」
愛しのM14を恭しく板間の床に置き、その他の装備など入ったリュックを雑に投げる。
「さあ、腹減ったな」
「食事は自前だろ? 食堂行こうぜ」
「まったくとんだ社員旅行だよ…」
古い宿を出て街をふらつくと早速、現地民向けらしき食堂があった。
「さて、お前の言う通り不味いのかどうか…」
「ここらの市では米軍の糧食も売ってるんだけどね」
「買ってまで食いたかねえ」
世間一般のカップルがデートでどんな店に入るかは知らないが、私達は小汚い食堂に入っていった。
「ま、外国人がいないのは折り込み済みだよ」
「ま、郷土料理とやらを食わしてもらおうじゃないか。 アメリカドルでな…」
翌日、ゲリラ兵の基地に社員どもがぞろぞろ集まる。
昨晩は襲いかかってくるラリーを蹴っ飛ばすのに余念がなかったが、他の同僚達はちゃんと寝ていたようだ。
「ディアナ、昨日はどうなったんだ?」
「ラリーのこと? まぁサイコパス仲間として手加減して顔面腫れ上がってる程度かな」
「お前にしてはかなり優しいな」
「眠かったから…」
あいつのせいでかなりの寝不足だ…
ゲリラ達は朝っぱらからもう的射をやっている。
まぁ昨日よりは命中率もいい… 気がする。
昨日の二人に勝手にやってろと指令し、他の奴の状況を見に行った。
「どうしたディアナ。 助けが必要か?」
「や、そういうことじゃないのよジョナサン」
ジョナサンは二人のゲリラに、高さ50cmくらいに張った網の下を匍匐させている。
「あんたはやっぱり真面目だね…」
ジャクソンの所に行くと、二人に組み手をさせていた。
「別に突入作戦なんかしないんじゃない?」
「あらゆる状況に対応させるんです。 まずはサバイバルかと」
ゴリラ… は無視…
「もしかして真面目にやってないのあたしだけかな」
いや、でも射撃も重要だからね。
「何してんだ? こっち来いよ…」
「ラリー…」
彼は襲いかかる二人のパンチを軽く流し、片方の頬に振りかぶって殴りを浴びせる。
もうひとりが蹴りを出すが、サイドステップで避けて右足を横腹に食い込ませた。
「お前らそんなことじゃユダヤ人に殺されるぞ!」
「今まで見たなかで一番効果的な訓練かな」
疲れるからやりたかねぇけど。
「ディアナ、今日の夜お前のとこに行くぞ」
「顔面ミミズ腫れどころか肋骨を六本折ってやるよ」
「エルサレムの仲間が進軍しているイスラエル軍を発見したそうです」
「ついに来る時が来たか」
数日後、ゲリラ一個小隊が整列していた。
「ヤセルさん、我々社員は偵察に行きます。 ゲリラ達はいつでも対応がとれる態勢で待機を」
「了解、指揮権は私にありますが、あなたの指示を仰ぎます」
どっちが雇い主でどっちが労働者だか…
ジョナサンがAK-74を手にハイエースに乗り込む。
「聞いてたな? 自治区とイスラエルの境界に行くぞ。 おそらく小競り合いすることになるだろう」
M14をしっかりと握り締め、軽トラの荷台に乗った。
「カールあんたMP7で戦る気?」
「ああ、良いだろ?」
「ふぅん」
最新の銃器なんてねぇ…
パレスチナのゲリラはイスラエルでテロを実行すると、緩衝地帯を越えてパレスチナ自治領域に入る。
イスラエルはそれを追って自治を侵し、報復を行なう。
「このトラック、オンボロのくせに飛ばすね」
「急ぎだからな」
カールは緊張してるのか、やけに口数が少ない。
「新兵かよ…」
「おま、俺はお前ほど歳食ってないから…」
「このまま地獄に着払いで送ってやろうか?」
「すいませんもう不始末は致しません」
「…」
荷台がガタガタ揺れて被っていた帽子が落ちた。
「ったく…」
「ディアナこちらジョナサン、お前のトラックに誰が乗ってる?」
「あいディアナ、えーとカールとロビンとジャクソンとサムでぇす」
「お前らはコールネームはラインリバーだ。 エルサレム市内にてイスラエル軍を探れ」
車内がいつの間にか静かになっている。
聞き耳を立てているのだ。
「あたしライン河なんて見たことないけど了解。 無線一個しかないけど誰が持てばいい?」
「お前が持ってろ。 市内では派手な事はするな」
「了解…」
トラックが停止し、荷台から飛び降りる。
市街地の外、中東の荒野に身一つで立っているのだ。
「ロビン、市街地に着いてないけど?」
「市街地に砂まみれのトラックと外人がいたら怪しまれるだろ」
「なるほど、さすがロビン」
さすが先輩だよ。
「じゃ歩きで行きますか」
いやーダルいねぇ。
1kmは砂上を彷徨うことになる。
「おいディアナ、俺達はちっこい武器だけど、お前はデカいやつだから隠せねぇぞ」
「ありゃ、本当だ…」
M14は長いし、体で隠すこともできない。
ロビンはUZIを使ってるようだし。
「イスラエルの銃でイスラエルと戦うってのも、えげつないねぇ」
「黙っとけ、私物のサブマシンガンはこれしかないんだよ」
「ってかお前どうすんだ?」
うーん…
「もうお前トラックで留守してろよ」
「カール、あんた大事な足をか弱い私一人で守れると思ってんの? お前も残れ!」
「いやいやいやお前ウルヴァリンくらい強いから問題ないって」
「貴様八つ裂きにしてくれようか… ってかアメコミ読んでねぇからわかんね」
「しゃあねえ、車に置いとけ」
「ッ…!」
「なんでそんな反応!?」
「お前ガバメントあるんだろ?」
そん…な…
いつの間にか隊長ポジションに立った(一番年長だから当然だが)ロビンが、「サム、留守番しとけ」と命じていた。
To Be Continued…




