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Dead or Alive  作者: 煤路山楽天
ガザ
36/38

ガザの声

2013年

7月17日

14:04

ガザ


「あなたたちは何故ここに?」


 ヤッファから南に走り出してから数十分して、ビアズリーは突然口を開いた。


「どうして… ですか?」


 急な質問で思うような返答できず、曖昧な意味を成さない声だけが漏れる。


「どうして… 仕事、としか言えません」


「何故そんな仕事を?」


 頬杖をついて大きい態度の女史は、意地の悪そうな声で、追及する調子で質問を続けた。


「流れに流れた… と言いましょうか」


 そうとしか答えようが無い。


「除隊して、やることも無くて… 職も金も手元になかったので、元上官に招かれてこの仕事に」


「あなた達みたいなのが、戦争ってのを引き起こしてるわけね?」


「なんだと?」


 明らかな軽蔑の色が見える声に、単純に怒りを感じて無線を繋いだ。


「ジョナサン、VIPについてだが…」


「どうした」


「大した奴だな」




 軍人や、それに関わる人間を卑しむ考えの人物がいるのは、確かなことだ。


 特に報道者や、議会の政治家に多かったりするので、自分たちPMCとしては始末におけない。


「レイモンドはどうだ? ジョナサン」


 ゴリラが愉快そうな声で、銃座からハッチの中に叫ぶ。


 隣の名誉教授は怖いやら迷惑やらで、微妙な顔付きで黙っている。


 この名誉教授のように、怖いから批判する部分もあるのだろう。


「ゴリラ、お前の声はうるさい。 少し黙れ」


「俺はゴリラじゃなくて人間だ! いつからお前まで人をゴリラ扱いし始めた!」


「ディアナが初対面のお前に「ゴリラは園におかえり」と言った時からだ」


「クソッタレ! ディアナめ!」


 ゴリラが悪態をつきながらも、マシンガンをビルの間に覗かせる。


 それまで全員、目の前では言ったやつはいなかったが、ディアナの後は素直に名前で呼ぶ者はいなくなった。


 みんな陰ではそう呼んでいたから、もう仕方のないことなのだろう。


「レイモンド、任務はVIPの護衛だ。 手は出すな」


「わかってる…」


 レイモンドはいかにも不服そうだが黙り、元の運転に戻った。


 無線をこっちから切り、どうせ向こうで起こるであろう口論から耳を逸らすことにする。


「切っていいのか?」


「問題があればすぐに繋ぎ直す」


 まだテルアビブ市内からほど近いので、ここで騒ぎがあればイスラエルの警察、軍がすぐ動く。


 テロリストもそのくらいはわかっているはずだ。


「油断もどうかと思うが…」


 ゴリラが一人呟いて道の先に双眼鏡を向け、暫くしてそれを降ろし、ポーチに戻す。


 五分ほど無言でハンヴィーを走らせ続けると、別の無線が呼び出し音を響かせた。


「チーム1、こちらチーム8、チーム10」


 日本語訛りがあるものの、整った英語が無線から流れる。


「こちらチーム1。 何かあったか」


「いえ、ガザ北のキャンプを制圧しました。 もう少し南下します」


「了解した。 我々は三時間以内に到着する見通しだ」


 ブレーキを少し掛けながらハンドルを左に切り、無線の先の新人に具体的な情報を伝えた。


「それまでには任務地帯を制圧できると思います」


 向こうから銃声が聞こえ始め、ヤナミの声が途切れて交信が中断される。


「チーム8、チーム10、応答せよ。 無事か」


「カールさっさと隠れろ!」


 ディアナの叫び声が放置された無線に漏れ聞こえ、暫くして新人の声が戻ってくる。


「問題ありません。 敵の攻撃を受けましたが、直ちに制圧します」


「無理であれば一時撤退して、チーム9を待ってもいい。 怪我人が出ては困るぞ」


「ヤナミ! ぼさっとしてないで!」


 またも騒音を残して通信が途切れたのを聞き、ゴリラがハッチ上で大笑いした。


「無駄な心配じゃないか? ディアナがいるしラリーが向かってる!」


 仕方なく無線をダッシュボードに置き、目の前のビルの角を回る。




 M1911のマグを抜いて装弾数を確認、グリップの内側に戻してスライドを引きセイフティを外す。


「cover reloading!」


 カールが叫びながら石塀の影に飛び込んできて、G53のマグを地面に落とした。


「イェア!」


 道路にガバメントと共に頭を持ち上げ、AK-74のフラッシュハイダーをこちらに突き出しているテロリストの、顔や胸辺りにニ、三発をぶち込む。


 倒れる男に戸惑いの目線を向ける、もう一人の敵に狙いを付け直してさらに引き金を引いた。


「ジャクソン代わって」


「イェア」


 M16のナイツ製レイルハンドガードが石塀を叩く音に従って、カールがいるのみの安全地帯に頭を下げる。


「ヤナミ! 俺が代わる」


「お願いします!」


 道の真ん中でHK416を撃ちまくっているヤナミが、後ろの石塀をチラ見しながら後退りする。


「カバーする!」


 地面に転がされたM14を掴んで頭を出し、ヤナミを追ってコンクリート住宅の陰から走り出した敵に、7.62mの銃弾を浴びせた。


 カールが塀を越えてG53を撃ち、HK416のマグを叩き落としたヤナミの肩を叩いて前に出る。


「ディアナさん… どうします?」


 緊張か動いたせいか石塀に潜り込んだヤナミは、肩で息をしてマグを装填する。


「どうもこうも、撃って殺すだけだよ」


 地面に転がっている無線機を拾い上げ、石塀にもたれて休憩中の彼女に投げた。


「あんたが持ってな」


「はい…?」


 道路に射撃するジャクソンの背中を叩いてから、遮蔽物から飛び出して民家の陰に射撃。


 ジャクソンがM16を下げて安全地帯に下がったのを見届け、道の半ばでG53を撃ちまくっているカールに叫ぶ。


「グレネード!」


「イェア!」


 M67グレネードのピンを歯で抜き、上投げで住宅街に投げ込んだ。


「!خطير」


 よくわからないアラビア語の叫ぶ声が聞こえ、破片手榴弾が金属片をばら撒いて炸裂する。


「ヤナミほら起きな! 攻撃攻撃!」


「ふぇ?」


 間抜けた声を出す後輩の腕を掴み上げ、HK416を握らせてジャクソンも促す。


 敵が散り散りばらばらに顔を上げて射撃を始め、カールは地面に突っ伏してマグチェンジする。


「そのまんまだ! クソッタレ!」


 寝っ転がった相棒にFALで狙いをつけようとしている、不届きな敵を指切り撃ちで始末し、ヤナミの背中を引っ張って道に出た。


 が、目の前の道の向こうで、十数人の敵が一斉に立ち上がり、砂と埃で汚れたAKを構える。


「おお…」


 ホログラフィックサイトを覗こうとするヤナミを押しとどめ、凍り付いたカールを一瞥して腰に引っかかったグレネードに手を掛けたとき、


「死にたくなきゃ母なる地球にしがみ付くんだな!」


 という聞き覚えのありすぎる叫びが聞こえた。


 ヤナミの胸倉を掴んで叩きつけ、急いで大地に倒れる。




 AKの引き金に指を掛けたテロリスト達が、RPKの弾幕によって粉々に吹き飛ばされ始め、頭を腕で庇っているとやがて弾幕が切れた。


「大丈夫か? 怪我は?」


 すっかり銃声が消えた住宅街に、今度は聞き覚えのない男の声が聞こえた。


「………誰?」


 腕を外して見上げると、オフィスでたまに見たことがあるかもしれない顔が現れる。


「俺はクラーク、気違(マッド)野郎(ラリー)の相棒だ」


 痛そうに顔を歪めているヤナミの肩を叩いてやり、立ち上がって敵がいた場所を見ると、硝煙と砂煙が浮かんでいた。


 クラークの丸顔に顔を合わせると、彼はRPKのマグを叩き落としているラリーに顎をしゃくる。


「どうだったディアナ! 抜け駆けしやがって、楽しい戦いだったか!?」


「怪我の一つでもあればアドレナリンが楽しいくらい湧いてきて脳内麻薬パーティーが開けたかもね」


 何が面白いのか大笑いしているラリーを無視して、行き倒れているカールの元に赴く。


「立てる?」


「クソッタレ… 右腕に一発貰ったぞ…」


「マジか」


 相棒は憎たらしげな声を漏らして寝返りを打つ。


 二の腕の真ん中辺りに弾丸が食い込み、血液をダラダラ零している。


「ヤナミ! ジャクソン! クリアリングお願い!」


「「イェア」」


 二人が銃を構えて死骸の山に走って行き、話し相手を無くしたクラークがAK-102をいじり始めた。


「7.62mmの大便が体内に残留してるね」


「エグい言い方はやめろ…」


「意識問題なし」


 わかりきっていることを呟いて確かめ、腹のホルスターに収まったナイフを抜く。


「待て、お前もしかして…」


「モルヒネは出国通らなくてね」


 なんの躊躇いもなく嘘を吐き、銃創に輝くナイフの刀身を突っ込む。


「お前…」


「我慢しろ!」


 腕の中から7.62mmの大便をほじくり出し、血で真っ赤の刀身をホルスターに納める。


「クソッタレが…!」


「その恨みはあたしでなくクソッタレな敵に向けることね」


 消毒液をぶちまけて止血ガーゼを当て、真新しい包帯を巻き付けた。


 ふと顔を見てみると、服の袖を噛んで目を泳がせている。


「終わったよ」


「…あ?」


「どうよ、手動く?」


「わからん…」


 と言いながら、両手を着いて体を起こして立ち上がると、山のようなテロリストの死体を眺めた。


「クソッタレが…!」


 唾の混じった痰を吐き出し、地面に叩きつける。





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