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Dead or Alive  作者: 煤路山楽天
ガザ
37/38

シナイへ

2013年

7月17日

14:41

ガザ


「フョードル!」


 車体上のマシンガンが鋭く叫び、田園の隙間から現れる、汚れたAKを構えたゲリラを薙ぎ倒す。


「なんなのよ!?」


 要人が金切り声を車中に響かせて、何の意味もないのに顔を覆い隠そうと、じたばたもがいている。


 俗に言うパニックだろう。


「静かに!」


 舌打ちして、片手をハンドルから離し、嫌味な要人の首を掴んでダッシュボードの下に押し付ける。


「ちょっ、やめて…」


「死にたいなら離します」


 一般人が評するところの冷徹というの態度で、それだけ言い切り黙らせる。


 腹の底に響くような、迫力があると言われた低い声で、女史は鬼の前の泣き虫のように黙り込んだ。


「チーム1チーム1、戦闘状態に入る。 針路はガザのまま」


「了解した、針路ガザのまま。 そろそろチーム5、チーム6が加勢に入るはずだ。 オーバー」


 マシンガンの空薬莢が、ハッチから滝のように流れ込み、全速力で走る反動で車内の後部に掻き集められ、ガラガラと音を立てる。


 もう黙っているだろうと判断し、小刻みに痙攣している女史を離して、ハンドルを握る。


 左手にヤブネの街が見え、そこから道に乗り入れくる車の運転手は、こちらを一瞥して少なからず動揺する。


 隣車線をテクニカルがぴったり張り付き、マシンガンの射撃をしてくるが、フョードルとゴリラが応戦する。


 そのうち運転席が赤く染まり、推力を失って後ろに消えた。


「良いぞフョードル」


「……」


 ハッチ上のフョードルは、いつもの通りの沈黙を、固く保ったまま辺りの警戒にシフトして銃座を回す。


 さすがに、フルスロットルで走り続けているので、テクニカルという足がなければ追いつけないらしく、敵の姿は無くなった。


「クリア」


 一言だけ口ずさんで、小さくなって震えている要人の肩を叩き無事を伝えたが、ますます体を上下に振動させ始めたので、肩を持ってシートまで引き上げる。


「もう安全です」


「そ、そう…」


 ラリーかディアナがいたら、吹き出しながらなにがしかの冷やかしを口にし、変な嫌悪感を買うのであろうが、そんな暇はない。


「チーム1、敵を撃退したようだ。 通常の速度に戻る」


「いや、ここは速度を保て。 敵を引き離して同時に時間を早められる」


「了解、速度を保つ。 針路はガザ。 オーバー」


 ヤブネの街が流れて行き、中東には珍しい豊かな田園が再び現れ、女史がやっと気を取り直したのか、窓の外に顔を向けた。


「フョードル、少し休んだらどうだ?」


 時速80kmの風を受けているフョードルに、ちょっとゆっくりしろと声を掛け、膝を叩いてやる。


「問題ない。 少し涼しいくらいだ」


 珍しく不慣れなジョークを口にし、瞬きもせず首を回して車外を見張る。


「さっきの敵は?」


 暫く黙っていた要人が、田園を眺めながら、さっきと同じく突然口を開いて、答えづらい質問を浴びせてきた。


「撃退したようです。 しばらくは追ってこないでしょう」


「そういうことじゃありません。 なぜ攻撃してきたのでしょう?」


 めんどくさいことを言うな…


「大方、人質に取ろうという輩でしょう。 アメリカの大学の中東に関する学者なら、それ相応の身構えが必要になります」


 ドナルド・バイヨール教授は、イスラエル寄りの発言、論文、書籍が多く、それもゲリラ達に目をつけられた理由だろう。


「でも私は…」


「関係ありますよ」


 どうせ、私は関係ないとでも言おうとしたのだろうが、そんなことを相手が構うわけがない。


 どうやって、三人のパッケージが入るか知り得たかは知らないが、少なくとも、そのうち一人はいながらにして自分達を貶めるとすれば、そいつを処刑するなり、捕えようとするなりするだろう。


「あなたみたいな人は、ここに来るべきじゃなかった」


「だけど、私は難民の状況を世界に…」


「それこそ、彼らには関係ない」


 なぜなら彼らは、そんなこと知らないからだ。


 前方のグレープフルーツの畑から、二台のハンヴィーが現れて、路肩に止まり窓が開く。


「チーム5、チーム6だ」


 無線から、ジョナサンの声が流れ、止まらなくていいという内容が伝えられる。


 窓から顔を出したサムが、悪戯っぽい笑みを浮かべて手を振っているも、気にせず通り過ぎ、無線に耳を傾ける。


「第一車両と第二車両の間にチーム5が入る。 第二と第三の間にチーム6だ」


 チーム5がサムとロビン、6がクリスとリュウだったはずだ。


「斥候をしてたんじゃないのか?」


「ああ、失敗だったかな?」


 サムがのんびりと無責任な声で呟き、無線に微かな音で伝わる。


「徹底してもらわねば困るぞ」


「ああ、気をつけるよジョナサン」


 しばらく走って、ハンヴィーはジャンクションに差し掛かり、右手にアシュドットの市街が現れると、ビアズリー女史はそちらに顔を向ける。


 田園風景に見飽きていたらしく、登っているジャンクションの橋梁と交互に遠景を眺めていた。


「ヘイジョナサン! チーム8とチーム10!」


「こちらチーム1、どうした」


 軍用水筒に口を付けて水を飲んでいると、聞き慣れたような会話が聞こえてくる。


「宇宙一荘厳にして敬意に値し、揺るぎ無き鋼鉄の意思を持った学者様方のお通りになられ給う、クソッタレな視察予定ルートを制圧したよ」


 飲んでいた水を少し噴き出したと同時に、利口そうにアシュドットの街を見ていた女史も、前のめりになって体を震わせた。


「ちょ、ちょっとディアナさん!? なに言ってるんですか!?」


「なにって… 状況報告」


「…………ディアナ、頼むから出来のいい新人と代わってくれないか?」


 ジョナサンが明らかに呆れ、困惑した声でディアナに話しかける。


「えー……」


「代わって下さい! ほら! カールさんがM14持ってますよ!」


「カール! あんた!…」


 お騒がせ女の声が遠ざかり、出来のいい新人、ヤナミが咳払いを一つして無線を手にした。


「えっと、こちらチーム8、チーム10、チーム9、視察予定ルートを制圧し、先ほど瀕死のテロリストを数名捕らえました。 どうしますか?」


「こちらチーム1、イスラエル政府との協定では、捕虜は手当ての上当局に連れて行く事になっている。 ディアナに手当てさせて、ゲートの管理に当たったいるイスラエル警備兵に引き渡すように」


「了解、手当てを…」


「だが、捕虜は要らない」


 咄嗟に無線に手を伸ばし、電源を落とした。




「え…… どういう事です?」


「捕虜は要らない、捕まえた捕虜数名は、戦闘により死亡した」


「それって!」


「ディアナと代わってくれ」


 隣席の名誉教授が、驚いた表情でこちらを見つめ、路面から伝わる振動でずり下がる眼鏡を、神経質そうに掛け直す。


「ジョナサン、ジャクソンと新人には辛いんじゃないか?」


「慣れてもらうしかないな、我が社はそういう手段が多い」


 本社のイカれた連中が、ブラックウォーター社に憧れているせいかは知らないが、この間の旅客機の時と言い、そういった仕事(ウェットワーク)がやたらと多い。


 イスラエル側もそういった事は知っているはずで、協定は釘を刺す程度の物なのであろう。


「はいディアナ」


「何をすべきかわかるな?」


「イエッサ、最低(クズ)野郎」


「ああ……」


 我ながら、微妙な表情をしていると気付きながら、それを治そうとは思っていない。


「サムもリュウも、レイモンドもジョンも賢明な奴らだ。 無線を切ってくれてるだろう」


 気の砕けた顔のまま、無線の状態を確認するとやはり全て、接続はオフになっていた。


 車列はアシュドットを過ぎ、また、長い田園風景の中にその身を投じた。

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