ガザの風
2013年
7月17日
12:06
ガザ
「ディアナさん、マズいかもです」
「ん? もしかして?」
「そうです…」
ジャクソンの情けない声に押されて、野次馬が集まり始めた道路に降り、ボンネットを開ける。
「あははは」
「どうしたディアナ、棒読みはやめろ…」
次に地面に伏せて車体の下を覗く。
「おーし、ヤナミ、ジャクソン降りな」
エンジンはしっかりと五、六発の弾丸が入り、完全に息が絶えていた。
オイルもだらだら地面に流れており、走らすのはちょっと危険かもしれない。
「歩きですか…?」
「その通り。 武装長距離に比べればなんてことはないっしょ」
任務は予定されている学者一行の道路の制圧であり、足が無くなったのは非常に痛い。
ひとまず再びヤナミに無線を投げ、荷台に置いておいたバッグやれポーチを回収した。
なんというか、彼女はあたしより伝え方がちゃんとしてるし、良い通信役になってくれそうだ。
「おい、道路どうなってんだ…」
案の定、道路のコンクリートは爆発で吹っ飛び、体の前面をめちゃくちゃにされたテロリストの死骸が転がっている。
彼らが使っていたであろう真っ二つのAK-74は、野次馬の難民も手を付けない。
「…戦闘で怪我人はいませんが、トラックはもう走れません。 ここに置いておきます…」
「クソ… 予備靴下が…」
持ってきてるのいま履いてるやつだけじゃん…
焼き焦げた布の破片を拾い、どうしようもないので捨てた。
「ディアナ、行くぜ」
カールが戦闘態勢のG53を携えて汗を拭い、元の道に顎をしゃくる。
「クソッタレ、さっきはちっとも戦ってなかったんだから、あんたがポイントマンね」
「おい、なんだそれ」
「そうですね」
「え!?」
ヤナミはどうやらあたしと全くの同意見らしく、よく見たらジャクソンも頷いていた。
笑顔を浮かべてカールの肩を掴み、大通りの方を向かせる。
「おいおい! ちょおい!」
「いいから早く! 後始末はユダヤ人がしてくれるから!」
M14のグリップを確かに握り直し、渋々走り始めたカールを追って道路脇を走る。
周りはコンクリートの住居が建ち並び、その中には未だに崩れっぱなしの廃墟もあった。
どうせイスラエルの空爆を受け、エジプトに逃げたパレスチナ人が住んでいて、家財も何も無くなったから顧みもしないんだろう。
あたしだったら二、三人は恨めしい奴を殺してから逃げるね。
「ディアナさん… 怖いです…」
「ん?」
「ディアナさんは一番後ろについてください」
走る速度を落として、ヤナミとジャクソンを前にやり、ジャクソンの後ろ5mくらいで元の速度に戻る。
「カール、右の道に」
「イェア」
トラックが逃げ込んだ難民キャンプに道に辿り着き、左右にM14を突きつけてクリアリングしてからジャクソンの背を追う。
戦闘騒ぎの後に現れた四人の武装集団を、市民はじっと見ていた。
難民キャンプに遠慮無く踏み込み、通る人の顔をいちいち見ていく。
殺気じみたものを感じたら、難民だろうとすぐに射殺するつもりだ。
「腹減ったな… クソッタレ…」
「ディアナ、少しは我慢しろや」
「愚痴の一つくらいいいじゃない」
M14を腰に構えてテントに睨みをきかせ、アホらしい会話を交わす。
「腹が減ってはなんとやら、って言うし」
「お前は腹が減っても戦えんだろ?」
「無理ではないけど…」
背が高いアラヴ人の男が、砂利の道を歩いて目の前を通り過ぎ、テントの布を開いて中に入った。
どうでもいい、気にすべきことで無くても、注意深くそういう行動を観察して脅威を探す。
さっきは突然襲われたのだ、いつ敵が来てもおかしくないはず…
「全員下がれ!」
カールが退避した道の中央に、AKMを構えた男が現れ、真っ直ぐにこっちを狙ってきた。
「What a fack!」
ジャクソンを思いっきり蹴って影に飛ばし、その反動を利用して自分もテントの中に突入。
中には眠たげな顔をしたアラヴ人の母子がいて、突然入ってきた兵士もどきに驚いて後退りする。
「縮こまってないと命は保証できないよ」
テントの真ん中にしゃがんで、流れ出した汗を拭い取り、頭に巻いていた布を剥ぎ取って母子に投げつけた。
銃声が鳴り響いては現地民の叫びが混じり、事態を悟った母親が子を抱いて隅に隠れる。
「生きてるなら答えて!」
「全員無事だ!」
確認を取ると、カールの声が返した。
「!الأميركيون عني」
銃剣を装着したAKMを構えたテロリストが踏み込んできて、叫びながら銃身を振り上げる。
「!يموت」
「うるせぇ!」
ガラ空きの胴を銃床で叩きつけ、怯んだところで左胸に弾をぶち込むと、血を噴き出してテントの外に消えた。
「いま死んだ奴に祈りでも捧げといて」
表情を凍りつかせた女性にヘブライ語で伝え(通じるかは知らないが)、テントの外に躍り出る。
「ディアナこっちだ!」
通路の先にはテロリストが数人いて、向こう側のテントの陰に三人が固まっていた。
「cover me!」
ヤナミのHK416とカールのG53が通路に出て援護射撃を始め、その隙に6mくらいの幅の道を横断する。
銃撃戦に恐れをなしたのか、さっきまで難民の声で賑やかだったキャンプは、銃声がはっきり聞こえるまで静かだ。
「敵は?」
「玄人ではなさそうです。 数は多いですが」
「なんでそんな奴らがユダヤ人から生き残ってるんだか…」
「言ってやんなよ、ディアナ」
さっきの弾丸グレネードを出し、ヤナミにも使えと命じる。
「え? ここはキャンプですよ?」
「だからなに?」
躊躇い無く安全ピンを抜き、あたし達を探す敵の群れに靴下に包まれた何かを投げる。
「ちょ、民間人に被害が出たら!」
「ジョナサンがなんとかしてくれるよ」
ヤナミを黙らせるとアラヴ人の疑問符が付いた声が聞こえ、そして炸裂音がそれをかき消した。
「GOGO!」
カールを通路に押し出して自分も続き、まだ死にきっていないテロリストを射殺。
指切り射撃を続け、テントの陰から突っ込んできた敵の腹に風穴を貫通させる。
「reloading!」
「イェア!」
テントの後ろに引っ込み、マグを外して使用可能マガジンのポーチに仕舞った。
新しいマグを装填してコッキングし、ヤナミの肩を叩いて代わらせる。
「いい子はさっさと寝んねしな!」
AKの喧しい銃声の元に7.62m弾を送り込んだ。
悲鳴の後にテロリストが地面に転げ回って、久しぶりに辺りは静まった。
「クリア!」
「クリア!」
通路に出て入念に死体を覗き、全滅を確認する。
「多分このキャンプはこれで終わりだ…」
「さて、頭でっかち御一行は今どうしてるだろうね?」
「レイモンド、お前は第一車両の運転だ。 ビアズリー女史が乗っている、 ヒョードルお前もだ」
ジョナサンの指示に従い、イスラエルの国旗が描かれたハンヴィーの運転席に入る。
「ヒョードル、マシンガンを使ってくれ」
ヒョードルは無言で頷き、AK105を後部座席の足元に置いて車体上部のハッチを押し開いた。
助手席にやや年増な印象を持たせる女性が乗り込み、軽く会釈を送ってくる。
「私はレイモンドという者です。 後ろの奴はヒョードルです。 よろしく」
「こちらこそ…」
ハンドルから離して右手を差し出すも、VIPに俯いて黙殺される。
それならそれで構わんさ…
「こちらチーム1、チーム2、発進可能か」
「こちらチーム2、問題ない。 これより出発する」
軍用の強力なエンジンに火を灯し、アクセルを軽く踏み込むと問題無く力が車輪に伝わり、TANカラーの車体はテルアビブの街を走り出した。
「チーム1、これより出発する。 …クソッ… 狭いな…」
滅多に聞けないジョナサンの愚痴を聞き、密かに肩を揺らして常にオンの無線に声を聞かれないように、それなりに努力する。




