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Dead or Alive  作者: 煤路山楽天
ガザ
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ガザの太陽

2013年

7月17日

11:29

ガザ


 下士官の血がついた腕をしつこく布で拭き、膝が入っていまだに痛覚に訴える腹をさする。


「ジョナサン、こちらディアナ。 いま検問通ったよ」


「了解した。 ガザに向かえ」


 はじめっから許可を得た人間であると告げていれば普通に通れたはずだった。


 無線をポーチに突っ込んで、運転席のジャクソンに命令を反芻した。


「あの下士官くんには悪い事したかな」


「最初は負けてましたよね? なんで」


「アキレス腱は弱点だよ。 日本軍だと教えてもらえない?」


「軍じゃなくて自衛隊です…」


 通り過ぎた検問に振り返ると、下士官がイスに座って手当てを受けていた。


 本当は腹のプレートに衝突した膝はもの凄い激痛に襲われているはず。


 気遣う気は全く無いが、素直になかなかの奴と思った。


「あとどのくらいで着きますかねジャクソン大元帥?」


「十分で着きますよディアナ二等兵」


 いくらなんでもそこまで下げる必要無くね?


「ふふっ…」


「笑うんじゃない文民ヤナミ」


「お前らが二等兵とか文民なら俺は何なんだ?」


 カールも階級ゲームに参加する意志を明らかにしたので、少し考えて、


「スラムの住人だね」


 と答える。


「お前…」


「どう思います? ヤナミ大佐」


「妥当だと思いますディアナ中将」


「後輩まで酷くね!?」


 顔真っ赤のカールが憎々しげに叫ぶが、それ以外の三人の笑いがそれをガン無視した。


 ひとしきり笑いと怒号の後、そういえば、とカールがブリーフィングの説明を求める。


「俺はこの筋肉女のせいで話が聞けなかった」


「降りたらジャーマンスープレックスだカール脱獄囚」


「だからお前は筋肉女なんだよ…」


 カールは素早く荷台と車内の窓ガラスを閉め、腕が侵入するのは罷りならなかった。


「まあここで騒ぐのは止めましょうディアナさん」


「ん? そう?」


 ヤナミが慌てて仲裁に入り、元の話になんとか戻る。


「なんでガザくんだりまで来たんだ?」


「えっと、欧米の学者の方々が、中東紛争による歴史的建造物の被害などを調べに来るんです」


「コロンビア大学の頭でっかちどもが瓦礫を拾いにくるってこと」


 いやに遠慮がちな言い方なので、カールにもわかりやすい注釈を加えた。


「そ、それで、ガザ地区からへブロン、エルサレムを辿ります。 日程が合えばシリアにも行くようです」


「学者の葬式が手早ければってこと」


 ヤナミが困惑した表情を向けてくるが、カールにわかりやすく伝えているだけだ。


「なるほど、学者は何人だ?」


「ドナルド・バイヨール名誉教授、ジェマ・ビアズリー助教授、コンラッド・カートリッジ助教授の三名です」


「雑用人とかは?」


「えーっと… どうでしたっけ?」


「こっちで雇うっぽい。 特定は出来ないね」




 三人の学者がテルアビブの空港ロビーに降りると、2mはあろう巨漢とそれほど高くはないが、筋骨隆々の男に迎えられた。


「ようこそ、我々があなた方のエスコートチームの指揮官と副指揮官のジョナサンとジェームズと申します」


 ジョナサンは三人の代表者、ドナルド名誉教授に無表情で握手を求める。


「よろしくお願いします… 我々三人、より良い研究の為に心血を注ぐつもりです」


 ドナルド名誉教授は、国際紛争に関する研究で著書を持っている者であり、アメリカ人がシナイ、アラヴをふらつくことの危険さは知っていた。


「我々の部隊が研究チームの道中を確保するべく、既に先発しています。 直接あなた方の護衛をするのは私とジェームズのチーム1、他にチーム2、チーム3が付きます」


「バイヨール教授、機材はどうしましょう?」


 唯一女性のビアズリー助教授が荷物ターミナルを見やって、名誉教授に問う。


「雑役を雇うんだろう? 私が行ってきます」


「残念ですが、もう我々が用意しておきました。 テロリストが混じっていては困りますので」


 カートリッジ助教授が提案するが、にべも無くジョナサンが制した。


「それはそれは、ありがたく存じます。 自分達で用意しますとこを…」


「違います。 我々が見ていないうちに死んでもらっては困りますので」


 学者三人は、一様に顔を見合わせる。




「ヤナミ」


「はい?」


 のんびり周りを眺めているヤナミを呼び、M14にマグを装填する。


「そろそろ用意しといて」


「? はい…」


 カールは忙しそうに、自分の装備とジャクソンの装備の準備をしていた。


 トラックは申し訳程度の舗装道路を走り、その外は難民キャンプのテントが群がって、痩せた人間がふらついている。


「敵がいるんですか? 私には見えないんですが」


「もう来てもおかしくないって事」


 難民の多くは排煙を撒き散らして走る軽トラを見つめて、食糧でなく武装した人間が乗っていると確認すると、自分の中に戻って行った。


 彼らは飢えているのだろうが、彼らに慈善を施すのはあたし達の仕事じゃない。


「私、少し余分に食べ物あるんですけど…」


「アメリカに帰ったら食いな」


 道の先に砂が立ち上り、それがこっちに押し寄せてくるのが見えたので、布を頭に巻いて目を瞑り、顔を僅かに伏せて風に乗った砂を耐えた。


「ディアナさんあれはー」


 ヤナミの首を掴んで床に押し付け、すぐに自分も頭を下げる。


「ちょ… ディアナさん…」


 トラックの薄い天板を5.45mの弾丸が叩き、赤い火花を散らした。


「ジャクソン! フルスロットル!」


「援護頼みます!」


「任せな!」


 無線をヤナミに投げ、頭を上げて火線源と思われる場所を適当に撃つ。


「チーム1! チーム1! 応答願います! えー、こちらチーム8とチーム10!」


 車輪が右に回り、トラックは低層ビルの陰に入った。


「場所はガザの北エリア! 敵の攻撃を受けました! 数は不明!」


「ジャクソン止まらないで! 走れ走れ!」


 トラックが減速を始めたので注意を促し、後ろに振り返って追いかけて来たアラヴ人に弾丸をお見舞いする。


「ヤナミ代わって! マグチェンジ!」.


 うつ伏せで状況を叫ぶヤナミから無線をひったくり、片手で通話、片手でマグチェンジした。


「ディアナ、状況はどうだ」


「猫を盾にしたい気分よ。 それなりに現地人に迷惑を掛けてもいいならなんとかなるけど」


 サイレンサーの掠れた銃声が響き、高い悲鳴が続く。


「何を考えている」


「ヤバイもん持ち込んでるのはアジア人だけじゃない…」


 背負っていたバッグを覗き、強装弾の入った弾薬箱を拾った。


 くくくっ…


 コッキングレバーを引いて無線を切り、バッグから予備用の靴下を出して、その中に十発くらい弾丸を突っ込みグレネードをそれで覆った。


「カール、靴下頂戴」


「は?」


 ヤナミの弾幕が続く中、弾丸グレネードを四つ作り、二つをヤナミに渡す。


「なんです? これ」


「いいからいいから!」


 M14とグレネードを手に、疾走する軽トラの荷台を起き上がる。


 五人くらいのアラヴ人が走っていて、ひどい構えでAK-74を撃ちまくっていた。


「son of a bitch!」


 グレネードの安全ピンを抜き、三秒の間をおいて投擲。


 火薬と鉄片、そして弾丸がテロリストどもの目の前で弾けた。

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