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Dead or Alive  作者: 煤路山楽天
ガザ
33/38

ガザの砂漠

2013年

7月17日

10:17

イスラエル ガザ近辺


「また中東ね…」


「そうだな…」


 風塵の中に砂の荒野があり、M14を持ってトラックの席を飛び降りた。


 頭を掻くと、纏わり付いた砂が風に乗って外れ、気持ちの悪い感覚が走る。


「俺ブリーフィング聞けなかったんだが…」


「なんとかなるでしょ」


 ちょうどアラヴ人のターバンのように、布を頭に巻き付けた。


 これで風防が務まるといいけど…


 運転席から降りたカールに無線機を渡し、後続の軽トラに向き直る。


「ディアナさん! どうして止まるんですか?」


 銃が入っているらしき袋を小脇に抱えたヤナミが、トラックを降りて駆け寄ってきた。


「エンコエンコ。 ボロ車め…」


 デカい荷物を重そうに抱え直す後輩に見せつけるように、動かなくなったタイヤに蹴りを入れる。


「どうしましょう…」


「クソッタレ、そっち乗せろ」


 カールがジョナサンに話を伺っている廃車を離れ、その真後ろに停止したトラックの荷台に乗り込んだ。


「久しぶり、ジャクソン」


 車内の後方ガラスを叩き、そこにいるジャクソンに呼び掛ける。


「どうもです。 忘れられたと思ってましたよ」


「んなわけないじゃない… あたしもみんなも忘れてないよ」


「みんなって誰です?」


「いや、こっちの話…」


 トラックの荷台に仰向けに転がり、M14を体の中心に据えた。


 荷台の床は砂とか埃とかが溜まってて気持ち悪いし、しかも硬くて寝心地も悪い。


 デザートのブラッシュアップ迷彩の視認性低下を狙ってる訳じゃなく、トラックでガタゴト揺らされた体を癒す為だ。


 広い床のお陰で足もはみ出したりはしない。


「カールさん、どうします? 乗りますか?」


「ああ乗る乗る…」


 腕枕をしてくつろぐ態勢を整え、出発の時を寝て待つことにする。


「おま、なに寝てんだよ」


「ん?」


 マグが抜かれたG53を持ったカールも荷台に乗り込み、隣に腰を下ろした。


「あ、私が後ろ乗りましょうか?」


 ヤナミが廃車からまた走ってきて、助手席ドアの前で立ち止まる。


「マジか。 じゃあ俺前に乗る」


「カールふざけたこと言わないで。 あたしが前に…」


 困惑の色を浮かべ始めた新人を尻目に、カールが耳元まで寄って、


「いいじゃねぇか。 こっちは野郎二人でのんびりと、お前は同性の後輩と楽しくやってろ」


 と、小声で言った。


「わかったわかった… さっさと行った!」


 カール如きに気遣いが出来るようになったとは…


 カールが荷台を飛び降り、代わってヤナミがよじ登ってくる。


「さあ、出してよジャクソン」


「はい。 揺れに注意」


 運転手がいたずらっぽく呟き、背中から小石による振動が伝わる。




「うちの会社も、いよいよ国際的になった…」


「はい?」


 トラックの車体は相変わらず震え、背中からこの上ない不快感が伝わる。


 ヤナミも同じらしく、何度も座り直したりして丁度いい態勢を探っていた。


「中国人、ロシア人、お次はまさかの日本人ね…」


「そうなんですか?」


「日本人の兵士っていうと、自衛隊?」


「そうです。 陸上自衛隊… こっちで言うところの陸軍に」


 何やらいろいろ入っているバッグを、ヤナミは重そうに床に下ろして銃をその上に安置する。


「自衛隊っていうと… 今でもバンザイアタックとかすんの?」


「はい!? 万歳突撃ですか?」


「あの、集団で銃剣突撃するやつ。 間違ってない?」


「いや、あってますけど… もうそんなことしません!」


「しないんだ?」


 銃のセレクターを弄り、ハンドガード下のフォアグリップを指で撫でる。


「今の日本ではそんな野蛮な事しません」


 彼女はきっぱりと言い切り、 M14に視線を移した。


「…その銃ってM1ガーランドですか?」


「それはよくある間違い… これはM14」


「M14って… ああ… 海外派遣された時に使ってる米兵が…」


 M14のベルトを肩から外して、荷台の縁を掴んで振動を耐えているヤナミに渡す。


 あたしが片手で持っていたので、軽いと勘違いしたヤナミは銃の方に一瞬ぐらつく。


「ちょっ、これ片手で!?」


「くくくっ…」


 彼女は物珍しげにライフルストックを触ったりバレルを覗いたりして、やがて遠ざかるテルアビブにM14を構えた。


「あんたはなに使ってんの?」


「これですか?」


 ヤナミはM14を置いて茶色い布の袋を開き、その中からHK416のレイルを掴んで引っ張り出す。


「ここにもう一人、H&Kから感謝状を受けるべき人間が…」


「なんですかそれ」


  HK416はトリジコン社のACOGスコープ、銃身上部にフラッシュライトを装備していて、下部のレイルを排除してハンドガードを着けている。


 そしてヤナミは袋を逆さにして、暗い色の長い円筒を取り出した。


「おーう、クレイジーな女だな…」


「どうも、サイレンサーです。 脱法ですが」


 クレイジーなんて人に言えた人間ではないが、目の前にいる女はなかなかいい根性してる奴だと気付いた。


「ディアナ、検問だ」


 M14を拾ってターバンを解いてトラックの先、分離壁の中の検問に目を向ける。


 F.Mの刻印が入った帽子を深く被った。


「どうも大天才のユダヤ人皆さん! あんた達の雇い主に買われた哀れな傭兵を通しな!」


 M14を天に向けてから直立して大声を発し、一斉にイスラエル兵がこちらにタボールライフルを構える。


「馬鹿ディアナ!」


 新人二人はびっくりして放心状態、カールが座れと叫んでいた。


「トラックを降りるんだ! 地面に伏せろ!」


 リーダーらしき下士官が、GTAR-21をあたしの頭に向けたまま、小股で軽トラににじり寄る。


 ヘブライ語は苦手だが、言わんとすることはなんとなーくわかる。


 でも面倒なのでわからないふりをしておいた。


「ディアナ! ヘブライ語わかんだろ!?」


「うるさいうるさい。 あたしがわからないと言ったらわからない」


「子供か!」


 だが、パレスチナの政治家と同じ刑務所に入るのも嫌なので、とりあえずM14を荷台に放った。


「荷台を降りろ! 拳銃も捨てろ! 地面に伏せるんだ!」


「へぇ?」


 トラックのすぐそばまで来た下士官が、次々と命令を叫んだ。


 自分でふざけた結果だからなんとも思わないが…


 海に向かう風が砂を巻き上げ、下士官は迂闊にも目を細める。


「甘い甘い!」


 砂が隠している間に荷台を飛び降り、M203グレネードランチャーを掴んで、ユダヤ人の手から銃をもぎ取った。


 奪われた男は銃口を抑えて発砲を防ごうとするが、そもそも撃つ気が無いのでどこか後ろに投げ捨てる。


 鳩尾に拳を突き出し、それは男の腕に阻まれた。


 右手を捕らえられ、体を下士官の方に引きつけられる。


 そして下士官の膝が腹に食い込む。


「クソ… 殺してやる…」


 声も出せずに倒れこむと、男の憎々しげな呟きが聞こえ、拳銃が抜かれる音が聞こえた。


「ディアナ! 戻れ!」


 不審者に銃を奪われたというのは、下士官の彼の経歴に残るかもしれない。


 腕をぐっと伸ばして、男の足首、アキレス腱に掴んで握り潰す。


「なっ!」


 実際は握り潰してなんかいないが、男は前のめりに態勢を崩した。


 これで同じ土俵だ… クソッタレ…


 這いずって男の腹に馬乗りし、よーく拳を握って頬に振り下ろす。


 だがその程度でこの優秀な下士官は抵抗を止めない。


 だからもう一度、もう一度拳を食らわせる。




「地面に伏せろ! 貴様を逮捕する!」


 CTAR-21を構えた四人の兵士が周りを囲み、やっと我に返った。


 兵士は下士官の部下らしく、それぞれ自らの隊長を慕っているらしい。


 明らかな恐怖と憎悪が顔に滲み出ている。


 下士官は自分の股下で気絶していて、鼻血が流れて白目を剥いていた。


「ディアナ、やっと正気に戻ったか…」


 トラックの脇で三人の同僚が飽きれ顔で座っている。


 さぞかし見物していたんだろう…


 ガバメントをホルスターから抜いてスライドを引き、セイフティを外して首を回す。


「抵抗するな。 抵抗すれば射殺する…」


 バラクラバを被った男が恐怖を含んだ声で警告した。


「さて…」


 バラクラバにガバメントを突きつけ、相手を緊張させてから銃口でなくグリップを向ける。


「あたしの負けかね」


 ガバメントを取ろうとしないバラクラバに笑みを浴びせ、下士官の顔を軽くはたく。


「起きろクソッタレ… いや、戦友よ」


 黒目が戻った下士官の腹から立ち上がり、腕を掴んで助け起こした。


「おいディアナ…」


 隊長に無事を問おうと崩れる囲みを抜け、三人の仲間の元に戻る。


「なに?」


「お前は本当にクレイジーだな…」


「そうですよディアナさん」


 カールと、便乗したヤナミは心配の意味で言っているのだろう。


「なぁに… コミュニケーションだよ」

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