小手調べといこうか
2013年
7月6日
10:05
USA アイオワ州
ブローニングハイパワーのグリップを握り、カートリッジを叩いてスライドを引いた。
「弾薬は全部入ってるよ。 あの的に射撃しながら接近して」
「サンキューリン。 わかってるよ」
20m先に素っ気無い的があり、中心に当てれば二点、外側なら一点となる。
カールとマリーは四人くらい同時に出来るのに後ろで見守っていた。
地面は砂利でそうそう転ぶ事はない。
「タイミングは任せるよ、ダイ」
「イェア」
リンはカールのすぐ隣りで、射撃場と通路を隔てる柵に寄っ掛かっている。
アイソセレススタンスに構え、まずは一発撃った。
足を踏み出してさらに一発。
「二発命中、二点ね」
歩く速度を早めて続け様に撃ちまくる。
やっぱりこの反動がいい。
「相変わらずダイは外さないね」
「本格的に化物女だな…」
カール、あいつ後で殺しとくか…
早歩きから走りにシフトチェンジし、逆に連射速度を下げた。
そうでもしないと当たらなくなる。
「今は十点ね!」
「全弾命中で良いよ!」
銃口から吐かれる硝煙がやや視界を隠して、的へ狙いが少し付け辛い。
真っ直ぐに前進しているので、集弾性は良くなるはずなのだが、狙いの精度はがたがた落ちてしまうのが走り撃ち。
経験上の話だが。
的からほんの数mまで近付いた。
蜂の巣になっている的の中心を示す点を、情けもへったくれも無く撃ちまくる。
やがてスライドが戻らなくなり、引き金に手応えが消えた。
「二十三点! さすがダイ!」
「俺たちに出来ない事を平然と…」
「それ以上言ったら駄目よ!」
暴走しかけるカールを走って戻りながら突っ込む。
「腕上がった?」
「当然でしょ…」
我が事のように喜ぶリンにハイパワーを投げ、流れる汗を腕で拭った
「外れ無しっていうのが…」
「ディアナさん凄いね!」
「マリー、あんたやる?」
まだ称えようとしているリンを抑え、マリーの顔を見つめる。
「マリーちゃん? ならこんなデカブツより、小さいのが良いんじゃない?」
「ま、最初はそうか?」
「うん? そうする?」
マリーはよくわかってなさそうだが、リンに取ってこいと指令した。
「マリーいい?」
「な、なに?」
「まず、絶対に銃口を自分に向けない。 次、絶対に指先を銃口の前に出さない」
「え、うん…」
マリーの後ろにいるカールが呆れるくらい、くどくどと注意を垂れ、最後に、
「絶対に銃を手放さない」
と結んだ。
「それ戦場の話だろ…」
「うるっさい」
呆れ顔から半笑いに変わった、カールの呟きにカウンターを打ち、小屋から出てきたリンに視線を移す。
「S&W M36チーフ… 五発装填のリボルバーね」
「カール使い方教えてやって」
「俺?」
さっきまで持っていたオートマチックより、かなりちっちゃい銃をカールにパス。
「よし、マリーちゃんこっち来い…」
「はーい」
マグを二つカールに投げ、袖をたくし上げてリンの隣りに立つ。
「二年ぶりだっけ?」
「そうね… あんたはどうよ?」
リンは、あたしがいたハイスクールの同じクラスメイトで、あたしと同じく米軍に入った。
あたしが二年前に除隊して以来、一切やり取りしていなかった。
「私はまだ軍にいるよ」
撃鉄の起こし方を実演するカールを見ながら、目に掛かる髪を振り払う。
「今ダイはどうしてんの?」
「さぁて何でしょう? 鉄道の車掌? バスガール? 電話交換手?」
「古いよ… 相変わらず言う事が古いよ…」
「親父の教育が悪かったの。 さぁなんだと思う?」
「どうせまだ戦場にいるんでしょ?」
ありゃ…
「やっぱりね」
「えー、なんでバレてんの?」
「あのダイが真面目にスーツ着て通勤してるとは思えなくてね」
つまりあたしは社会不適合者って事か…
「そうじゃないわよ、バイタリティがあるってこと」
親友は快活に笑い、さっきあたしがいた位置に向かうマリーに目を向けた。
「さぁてマリーちゃん。 目印の所に立ってね」
緊張気味でヘッドホンを付けたマリーが立ち止まり、スタンスもへったくれも無いそれっぽい形でM36を構えた。
まぁそんなもんか…
「ダイ… ディアナは調子に乗って走ってたけど、あなたは歩きでいいから」
「ねぇリン、それどういう事?」
マリーはさっきから黙り込んで、的を見つめて身体を固めている。
大丈夫かね、自分を撃ったりしなきゃ良いけど…
溜息のような深い深呼吸の声がして、M36が躍り上がった。
「大幅に外れ! 狙いは正確に!」
リンが人の耳元に関わらず叫び、あたしとマリーを同時に竦ませる。
ややあってから、マリーが一歩を踏み出して次弾を発射した。
今度は的の端っこを叩いて弾痕を作り、弾丸はエネルギーを失って、軽い音を立てて砂利に落ちる。
「良いよ良いよ! 一点!」
リボルバーの鋭い銃声はさらに続き、再び的に当たる金属音が響いた。
なかなか筋がいい気が…
だが四発目は的を避けて後ろの土嚢に飛び込む。
「ありゃ残念…」
「お前じゃないんだから外れ無しはないだろ」
「カールちょっと黙って」
うるさい奴黙らせて我が娘の次の行動を待つ。
もうマリーと的の距離は半分くらいで、そのせいもあって命中率は上がるだろう。
弾倉の最後の弾丸が発射され、三点のポイントに着弾した。
「良いよ! マグチェンジ!」
親友の叫びがまたも耳を支配し、たまらず人差し指を詰める。
昔から大声なのがちっとも変わっていない。
カールの教えが良かったと見えて、排莢の動作が素早く装填も確実だ。
「さすが私の娘よね」
「娘か?」
「黙れクソッタレ」
失礼な相棒の髪を引っ掴んで引っ張り、音を上げようがぜんぜん気にしない。
リロードが完了し、射撃が再開する。
「十七点! お疲れさん!」
「うー、ありがとうございました!」
緊張からの解放による呻きを上げながら、ヘッドホンを外してこっちに走ってくる。
M36はまだ銃身から陽炎と硝煙を吐いていた。
「ディアナさん! どうだった?」
「良かったよ。 カール良くやった」
「じゃあそろそろ髪を離してもらっていいか?」
カールの嘆願を無視しておいて、M36を受け取りのんびりしているリンに渡す。
「言ってなかったけど今日はライフル撃てないからね。 担当者が夏風邪引いてるから」
「どうせマリーはまだライフル撃てないでしょ。 ねぇ?」
「え? わかんない?」
「うん。 だろうね」
もう昼になっていた。
腹減ったな…
「もう帰るわ。 ライフル撃てないし…」
「俺…」
知るかボケ。
「じゃあまた来なよ! 生きてたらね」
「なかなか縁起の悪い事言ってくれるね」
いつも通りの親友に呆れ声を浴びせた。




