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Dead or Alive  作者: 煤路山楽天
サンクトペテルブルク
28/38

ペテルブルクの休日

2013年

7月3日

23:02

ロシア サンクトペテルブルク


「おいクソビッチ」


「ビッチって! あなた誰よアバズレ!」


「知るか売女! さっさと帰って中洗ってお寝んねしてな!」


 M14を向けて脅し、娼婦を追い出した。


 要人様はもう着替え終わり、青ざめて苦しむ刺客を蒼白な面で見つめている。


「おい何があったディアナ!?」


「カール、あんたは大事な時にいないね」


 部屋は、乱闘の惨禍でぐちゃぐちゃのベッド、茫然と突っ立っている男、死にかけの男と血で描かれた這いずった跡、それを踏み付ける女という構図だ。


 精神が崩壊した画家でもこんな光景は描かないだろう。


「あんた窓から来たんでしょ? どうやってここまで登った?」


 血の気の無い暗殺者の背中に蹴りを入れ、世間話風に聞く。


 殴り蹴りの尋問と、貫通した弾丸による痛みが意識を混濁させているようで、人間語による返答は無かった。


「ま、期待してないよ。 大丈夫、殺しやしないから」


 少なくとも今の内はね。


「ジョナサンは呼んだか?」


「もうそろそろ来るよ」


 エレベーターの到着を知らせる音声が聞こえて、ドアが開く騒音が続く。


「ディアナ、VIPは無事か!」


「全く問題無いよ。 あそこで石になってる」


 ジョナサンが開口一番に叫び、澱みなくそれに応じた。


「それか?」


「そう、生きてるよ」


 踏み付けられている暗殺者は物扱いで呼ばれる。


 それはアレをやるという事だ。


 ジョナサンは無線を使って話を始める。


「レイモンド、フョードル、クリスをVIPの部屋に呼べ。 至急」


 不意にカールと目が合い、ははは… と笑いあった。


「ディアナ、付いてこい。 カールはそれを持ってこい」




 路地裏で起きる事で、その外に漏れるのは死体が見つかった時くらいだ。


 恐らくそれは全世界共通だろう。


「ディアナ、喋れるようにしてやれ」


「死ぬなよ兄ちゃん」


 汲んどいた水をぶっかけて、哀れな物体の意識を明瞭にさせる。


「カール、人が寄らないようにしろ」


「イエスサージ」


「残念だが大佐だったのだ。 行ってこい一等軍曹」


「なんで知ってるんだ…」


 カールはMP5を携えて来た道を戻って行った。


「さて、始めますかぁ」


 一つ伸びをして、期待感が胸を満たすのを感じる。


 どのくらい耐えるかな? 死ぬかな? いや最後は殺すんだろうけど。


「お前はどこの者だ?」


 ジョナサンの太く低い声がロシア語になり吐き出された。


 ロシア人は驚きを覚えたようだが、そっぽを向いて唾を吐く。


「おいイワン、喋れる? ええ?」


 ナイフを抜いて傷口を抉り、再び流れ出した血を青い目に塗り込んだ。


 万人共通の悲鳴を上げ、暴れ狂うがばっちりと手足は縛られている。


「ディアナ、ちょっと待てそれは失礼じゃないか。 ぬるすぎるぞ」


「ちょっとずつステップアップしてくのよ。 ゆっくり遊びを挟みながらね」


「しかし彼も我々も急ぎだ。 もうちょっとハードルを上げよう」


 と言ってジョナサンは厨房からかっぱらったらしき塩胡椒の瓶を出した。


 青ざめて逃げようとする男を捕まえ、ジョナサンは調味料をたっぷりと傷口に突っ込む。


 悶絶がビルの間を駆け巡った。


「やだなぁ、鉄板ネタじゃない」


「そういう物ほどやりやすさと効力を兼ね備えているんだ」


 ジョナサンは珍しく顔を歪めた笑顔を見せる。


 所詮ウチの会社の連中はみんな同類なのだ。


 彼は瓶に入っている残りを全て元刺客に飲み込ませる。


「体に悪いよ。 水をどうぞ患者様」


 バケツに残っていた水を流し込み、しっかりと口を閉めさせた。


 男は体の中で窒息するのを防ぐ為、否応なく全てを飲み込む。


 すぐに退避して、胃の内容物が地面にぶちまけられるのを眺めた。


「喋る気にはなったかね?」


「い、あ…言う… か、たしけ! 助け」


「わかったから言ってよ。 ほら1、2!」


 愉快に手を叩いて重要な部分を待つ。


「お、俺は… 社会、社会主義って奴が… 憎いんだ…」


「そうそう… あんなクソッタレども許しちゃいけないよね。で?」


「だ、から… あんな奴は、殺してやるって…」


「落ち着いてきたな。 明瞭に的確に話してもらえると助かる」


「いくらなんでもそれは無理だよ。 勘弁してやんな」


 願望ならそうだけど、そんな上手く行く事なんて無いからさ。


「で、重要な所が無いね。 誰かしらに命令されたんでしょ?」


「は、は?」


「惚けんなクソッタレ!」


 ナイフを男の爪に突っ込み、小綺麗な形のそれを剥ぎ取った。


 悲鳴が音楽のように響き、耳に指を突っ込んでそれを防ぐ。


「ジョナサンあんたもやんなよ。 楽しいからさ」


「ほう」


 わざとロシア語で言って、血みどろの生爪を踏み潰した。


 男の憎悪と恐怖の目は、人外を見るに適した畏怖に変わる。


「悪魔でも見たような顔しちゃってさぁ、ほらナイフ貸したげる」


 ジョナサンに血が滴るナイフを手渡し、手をバケツに突っ込んで洗った。


「ま、待ってくれ! は、話す!」


「遅い、遅過ぎた」


 もう一つ親指の爪が宙に舞い、肉片が洗ったばかりの手に引っ付く。


「ちょっとジョナサン!」


「ああ、すまん」


 あたしもジョナサンもお楽しみモードだ。


 どちらがどれだけ残酷で残虐に嬲れるか、これはちょっとした競争だ。


「さて、話してもらおうか」


「俺達は、俺達はプーチンから国を取り戻したいんだ!」


「そうか。 好きにするといい」


「奴は国を再び、俺の祖父を殺した社会主義に戻す気なんだ!」


「ねぇジョナサン、こいつ見事に騙されてるっぽいけど」


「それは誰かに教わったのか?」


「あ、ああ、ロシア反共戦線の仲間に聞いた!」


「聞いた事がないな。 お前知ってるか?」


「あたしも知らない…」


 ジョナサンが知らないのに、あたしが知ってる訳ないじゃん。


「俺達は、地下組織、あの大戦の頃からあった! ソ連が崩壊して解散されたが、プーチンの規制強化に再び立ち上がった!」


 演説に興奮して痛みを忘れているらしい。


 適当に相槌をうって話を続けさせよう。


「お、俺達が政権に立ち向かうのは無理があるが、テロ活動で国内を混乱させて、奴を引き摺り下ろすと決めた! 旅行に来た外交官を殺してやれば、政府の面目は丸潰れだ…」


「クズだね。 生きる価値が無い」


「それだけか。 よしわかった」


 ジョナサンがこっちに頷き、彼の拘束を解き始めた。


「か、帰してくれるのか?」


「ああ、気をつけて帰れ」


 もう二人の悪魔から一歩でも離れたいのか、一目散に駆け出す。


「ディアナ、殺れ」


「待ってました」


 目にも止まらぬ速さでガバメントを抜き、逃げる男の足を撃った。


「うぁぁ! 約束が違う!」


「誰か約束した? さぁ、地獄へお帰り。 神に祈る時間はあげるよ」


 やや遠い。


 ガバメントを仕舞い、ナイフを握ってゆっくり歩き出す。


「やめろ! 来るな!」


「『おお、安堵した魂よ、主のみもとへ帰れ、喜び、喜ばれて、わが僕たちの列に加われ、わが楽園に入れ』」


 かじったことのあるコーランの一節を呟き、安堵していない魂へ向かった。


「止めろぉぉ!!!」


「ははは、冗談は止してよ」


 必死に這いずり、逃げを図る男。


 その背を掴み、引っ張り、現れた喉元にナイフを突き立てた。

To Be Continued…

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