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Dead or Alive  作者: 煤路山楽天
サンクトペテルブルク
26/38

旅行気分で

2013年

7月3日

7:32

ロシア サンクトペテルブルク


「いやぁ、涼しいね」


 国際線の入るやや大きい空港の前で一人呟いた。


 最近の仕事では珍しく文明のある場所で、旅客機が今まさに着陸してくる。


「様子はどうだ? ディアナ」


「どうもこうも、コートは要らなかったかもしんない」


 涼しいとは言えど、この土地で最も暖かい季節だけに、上着だけで充分だった。


 iPhoneがジョナサンの社用電話からの着信を知らせ、仕方なくそれに反応する。


「アイアイ、ジョナサン」


「軍隊用語は止めろ。 あくまで民間人で通せ。 騎士像前に集合しろ」


「イェア、ジェントルメン」


 唾を吐き捨てて首を鳴らし、後ろに振り返ると十人くらいの同僚達がいて、生欠伸を噛み殺していたりした。


「ジョナサン大総統閣下のお達しだよ。 ロシア皇帝の騎士像前に集合だって」


 ロシア語で呼び掛け、通行人から珍しい物を見る目で見られた。


 カールに先行けと指示して、後列で歩き始めたレイモンドの側に近寄る。


「おっすレイモンド」


「あぁ、何だ?」


「無愛想な相方はどうよ?」


「今は様子見だな」


 外国人の一団がぞろぞろと街を歩いている光景は、傍からはツアー連中に見えるかもしれない。


 テロリストにも見られかねないが。


「何でロシア人がアイオワくんだり来たんだか?」


「何かを企んでいる気がする…」


「イワンどもにはそんな印象があるよね」


 前の方に黙ってカールを追い歩くフョードルがいた。


 歩勢を早めてフョードルの隣りに行き着き、無表情で前を見る顔を見上げる。


「Hey Ivan!」


 亀の首が縮むより遅く、ゆっくりとこっちに顔を向けた。


「俺はイワンじゃない、フョードルだ」


「はいはいフョードル様、調子はどう?」


「…国を出てすぐ、また国に帰るとは思わなかった」


「へぇ、嫌い?」


「…悪くは無い」


 あたしなら、こいつが五分で喋る量を一分で喋れるな…


「ねぇ起きてる? 喋りが遅いから勘当されたとか?」


「違う、この国では稼ぎ難いのだ」


「ふぅんあぁそう」


「…」


「悪かったよ…」


 まだわからないな、この会社はロシアに嫌われたりとかしてないかな?


 新聞を売る商店を曲がり街の大通りが目の前に現れる。


 横目でノーヴァヤ・ガゼータを流し見て、カールの所まで行った。


「どうした?」


「ロシアねぇ… 面倒くさくなりそう」


 ドイツ語で喋る。


 カールにドイツ語は通じない。




「お待たせー、ジョナサン」


「行くか」


 凛々しい男が馬に跨がっている銅像があった。


 後ろにいない同僚達が銅像の前に陣取っている。


 その中にいたジョナサンは、腕時計を見ながら一言した。


「どこ行くんだっけ? カール?」


「お前はいつも通りすっとぼけてるな…」


「そうでもないと困る奴がいるのよ」


「誰だ? まぁいいか」


 三十人に及ぶ外人の行列は目を引き、写真を撮っている通行人がちらほらいる。


 だが一人も気にする者はおらず、泰然とどこかに向かう。


「要人護衛だ。 ロンドンの外交官様がレニングラード、スターリングラード、モスクワを巡礼だと」


「ははは、バカたれだね。 スターリントゥヴァリシュウーラーって?」


「いや、知らんが」


 前にいたフョードルが突然首を傾いで、すぐ元に戻った。


「で、その共産主義者はどういうやつ?」


「サイラス・ギルマーティン、不用心な男だ。 これまでに一度、テロリストに拉致られ交渉の末に解放された」


「なんか妙な頭文字のような… C・Gね…」


「何の事だ? この間テロリストに批判的なコメントをしていたらしい。 嫌われてるだろう」


「テロリスト気質のくせに…」


「お前はさっきから何を言ってるんだ?」


 これ以上はマズいか…


「で、そいつの尻尾を追っかけて回るのね」


「そうだな。 後はジョナサンにでも聞け」


 大通りは車が排気ガスを撒き散らして走り回っている。


 正直そいつがどんな奴かなんてのはどうでもいい。


 死のうが生きようが勝手にやってろと言いたい。


 ジョナサンが振り返って道沿いの高い建物を指差し言った。


「あのホテルだ。 ロビーで配置を決める」


「共産主義のクソッタレの隣りじゃなけりゃ良いけど…」


「言ってやんなよ…」




 サイラスは不機嫌だった。


 今回のロシア周遊は個人的な旅行で、護衛など必要を感じない。


 自分とてイギリス軍の兵士だった男で、この間のように寝込みを襲われたりしなければ、問題なく自衛できたのだ。


 今もその自信がある。


「ギルマーティン様、護衛が到着しました…」


「ああ、わかった…」


 歳を食った側近が腰を曲げて目の前に出てきた。


 旅行なのに、何故護衛を引き連れていなければならないのか。


 自分とて部隊では徒手格闘で頂点に立った男だ。


 PMCだか傭兵だかは知らないが、自分より強い奴にしか守られたくはないな。


「よし、会いに行く。 そいつらはどこだ?」


「下のロビーにいらしますが…」


 スイートルームを出て、目の前のエレベーターを呼び出し、どんな奴が来たのかを予想してみた。


 軍隊を辞めて、それでもまた戦場に戻るような連中だ。


 死んでも勲章など貰えないと聞く。


 きっと人を殺したくて堪らない、気違いみたいな奴等だろう。


 電力を消耗して上がってきたエレベーターに乗り込みまた降りろと指令を下した。


「護衛なぞ要らん… 一人か二人のして突っ返してやる…」



「サムとロビン、レイモンドとフョードルはロビーだ。 ディアナ、カールは」


「監視カメラ監視カメラ…」


 ロビーで迷惑顔の受付を尻目に配置が発表される。


 狙い目は一度も共産主義者と会わずに済む監視カメラ要員。


「配置は要人の部屋だ」


「suck my dick!」


 一番顔つき会わせる所じゃねぇか!


「ジョナサン! 理由はなに!?」


「強いからだ」


 ふざけんなクソッタレ!


 恨みがましく目を伏せていると、ロビーの奥のエレベーターが到着し、騒音喧しく開く。


「どうもこんにちは、私がサイラスです」


 およそ外交官らしくない筋骨の男が坊主頭の巨人と握手を交わした。


「ディアナ、カール、ちょっと来い」


「…」


 ジョナサンめ… クソッタレ…


 二人の巨漢の前に進み出て、無表情でスーツだけが外交官らしい、要人サイラスを眺める。


 カールもまた同様だ。


「ギルマーティンさん、この二人が貴方の部屋で待機します」


「女性… ですか?」


 どうやらこいつを守りながら、こいつから身を守る必要があるかもしれない。


「あー… 私は格闘術の心得がありまして、最低限身を守れるつもりです」


「といいますと?」


 あたし達をいない物と考えているかは知らないが、勝手に話は進む。


「余った人員を回すくらいなら要りません」


 決心したらしく、露骨に言った。


「よく言ってくれますね? ええ?」


 流石に頭に来たぞ…


 カールが止めとけという目線を送ってくるが、向こうが本音を晒すならこっちも出さねば。


「要らない者は要りませんよ」


「上着脱げ、クソッタレ」


 ちょうど体が鈍ってきた所だし、運動しよう運動…


 羽織っていた社の制服を投げて、来いよと促す。


 ジョナサンが一歩下がり、無表情で場を開ける。


 カールも諦めて、同僚達と共に後ろに下がっていった。


 よく見ると、今しがた上着を受付に預けたサイラスに、哀れむような目を向けている。


 地面は絨毯、投げても問題無いだろう。


 あの馬鹿デカい野郎との戦いを、脳内で何回かシュミレーションしてみたが、一つも負けはなかった。


「私は護衛など必要有りませんのでね、私が勝ったらアメリカに帰ってもらいますよ」


 調子に乗っちゃってまぁ…


 サイラスは拳を作ってガードを固める。


 ステップで前進し拳を振り上げてフェイクを見せ足を払った。


「なん…?」


 僅かに体勢を崩し、出来たガードの隙間に拳をめり込ませた。


 鼻面に拳骨が命中し、大きく体をのけ反った所に金的蹴りを食らわせる。


「えげつないな」


「うるさいカール」


 外交官は悶絶して絨毯に倒れ、泡を噴いて気絶した。

To Be Continued…

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