不審者
2013年
6月18日
17:13
USA アイオワ州
「…で、セミオートっていうのは、トリガーを引いたら一発だけ弾が出るの」
引き続きなだらかな山を登り、登りながらマリーにレクチャーする。
「なんで一発なの?」
「そういう構造になってるからだね。 難しい事は知らない」
立ち止まって静かに膝を突き、枝に止まっている鳥を撃った。
しかし狙いを違えたのか、弾丸は鳥の足元の枝を砕いて飛び過ぎる。
「畜生、今日はここまでかな」
日も赤くなり東に没し始めたので、そろそろ帰るべき時間だろう。
「もう暗くなってきたね…」
マリーにしてみたらまだまだ遊び足りないようだ。
まぁ山歩いて銃の話を聞いて楽しいかは知らないが。
「今日からは我が家に帰るよ。 あんたにとってどっちが家かわからんけど…」
「ジャックおじさんちは広くて楽しいけど、ちょっと落ち着かないんだ」
「そうそう、あのクソッタレの親父も持て余してるからね」
無駄に馬鹿デカい屋敷だから、使ってる部屋は全ての半分くらいで他は物置になっている。
あいつは嫁も取らないから、必要が出ないのだ。
「娘として心配なんだけどなぁ… まだ40なんだし、頑張れば結婚できるんじゃ」
「ディアナさんがいるからお嫁さんも要らないって言ってたよ?」
「そういう事か…」
傾斜が無くなり、屋敷の広い背中が木陰から現れる。
西の方に回り、カールの黒いSUVがあるのを確認して、鍵の掛かってないガレージに入った。
「不用心不用心」
「おじさん、ただいま…」
ガレージの端にある簡易的な銃器庫にAR15を戻し、南京錠を二つ付ける。
「家に入るよか開け辛いだろうね」
「これからどうするの?」
「ヘイ! カール!」
答える代わりに叫び、野太い声が返してくるのを待った。
「ディアナ? 帰ってきたのか?」
屋敷とガレージの間のドアから、眠そうなカールが現れて生欠伸を付く。
「マリー、荷物を五分… じゃない纏めておいで、ジャックに挨拶してきな」
「うん!」
カールの来た道を走って辿り、ドアを律義に閉めて行った。
「五分て…」
「うるさい。 あんた明日は?」
「ジョナサンの呼び出し食らってる。 面接でもするんじゃねぇか?」
面接。
二人が死に、あたし含め三人が重傷を負った為、バディが休職中の人間が応募者の面接をする。
「頑張れー」
「黙れ、お前が戻るくらいには新しい奴が入るだろ」
ほう、楽しみだねぇ。
「着いたぞ…」
外は夕闇で暗くなり、それに似た色のSUVが家の前に止まる。
「サンキューカール、明日も頑張んなよ」
「なんだ? 怪しいな、お前が素直に人を労るわけがない」
「それはどういう意味? クソッタレ」
SUVをマリーを引いて降り、罵倒しあってからドアを閉じた。
「仲悪いの? 良くないよ」
「親しき仲に礼儀は要らないのよ」
痛む腿に手をやって擦り、鍵を使って安い石のドアを開ける。
「…」
「ただいま!」
誰もいないのに、言う必要あるのかしら?
「ディアナさんのお家でしょ? なら言うべきだよ」
「さんは要らないって…」
ジャックの屋敷からしたらずっと短く、何もない廊下を抜けるとリビングだ。
蛍光灯の明かりを付けてイスに倒れ込み、ふっーと一息つく。
「あぁ畜生、シャワー浴びてくるから遊んでな」
「うん?」
上着だけクローゼットに仕舞い、テレビのリモコンを投げてバスルームに行った。
面倒くさいので全部脱いで洗濯機に投げ、バスタオルだけ用意してバスルームに入る。
「マリー! 服汚れたんなら洗濯機に入れといて!」
「大丈夫だと思う!」
ノズルから冷たい水が噴き出し、鍛えられた体を打って流れた。
筋肉女だのなんだの言われるが、ボディビルダーみたくアホなぐらい纏わりついてはおらず、必要な場所に必要な量あるだけだ。
ブクブク太っているよりずっと綺麗な体だと思う。
腿と肩の包帯を外すと赤い血が染みたガーゼが空気に触れた。
「畜生が…」
この傷に救いがあるとすれば、あたしに傷付けた奴は生きていないということ。
「冷てぇ…」
水が温まるのを待つのも面倒で、そのままショートの髪を流した。
明日から二週間休み… 考えてみたら暇かも知れない。
どうするかな…
病院行っとくべきか、マリーも心配してるし。
シャワーを止め浴室を出て、バスタオルをのんびりと掴んだ。
「マリー、シャワー浴びな」
「ちょっと待ってて!」
リビングからコメディアンのジョークと、それに釣られたマリーの笑いが聞こえる。
「ジョークは用法と用量を守って服用下さい」
誰にともなく呟いて、タオルで水滴を拭き取り続けた。
「さぁて…」
クローゼットにまだあった普段着を着て、湿っている髪にドライヤーを掛けて撫で付ける。
「早く入りな!」
「うん!」
マリーが名残惜しそうに歩いて来て、よくわからないが笑い掛けてきた。
「なに? どうしたの?」
「何でもない!」
? 子供の考えることはわかんないな…
テレビが付きっぱなしの狭いリビングに入り、ちょっと考える。
でもやっぱりわからない。
「クローゼットの一番下にあんたの服が入ってるよ!」
「ありがとう!」
ニュースにチャンネルを合わせ、イスに座り込んだ。
インターホンが鳴りだし、テレビから首を回して玄関を見た。
「誰かな?」
時計は既に九時を回り、大変失礼な来客者と言える。
「あんたは待ってな」
インターホンを通話状態にすると、もっとも話したくない同僚の声が聞こえた。
「ようディアナ、どうだ?」
「ラリー… 明日に出直して」
「残念だが俺は暇じゃないんだよ。 調子はどうだ?」
「あんたさえ居なけりゃ最高よ」
「そりゃ良い… 酒持って来たぞ、入れてくれ」
「アルコールなら足りてるよ。 あんたを酔い潰せるくらいは」
「嫌われたもんだな」
マリーに部屋に行ってろと目配せし、ドアに消えたのを見て冷蔵庫に隠してあるガバメントを忍ばせ、鍵を開ける。
「恐縮だ、レディ」
玄関で音がして、頬骨の張った筋肉質の野郎が現れた。
「礼は不要よ、クソッタレ」
「酒飲むか」
当たり前のようにイスに座り、瓶の安酒を懐からテーブルに叩き付ける。
「何しに来たの?」
「慰めに来た… か?」
「お断り」
ガバメントを突き付けて、目の前で安全装置を切った。
「お前も飲めよ」
「良いの?」
拳銃を構えたままキャビネットからグラスを二つ持ってきて、ラリーの前に置く。
彼は栓を開けてその二つに注ぎ、一つを手にしてもう一つを押した。
「不味いアルコールだ。 銃が有ってもな…」
「そいつは期待出来ないわね」
銃口を眉間から動かさず、グラスを呷った。
「何これ? 密造酒?」
もっと味があってもいいのに…
「もっと飲めよ」
グラスを差し出すと勝手に注ぎ、戻してくれる。
依然ガバメントを向けたまま不味い酒をもう一度飲み込んだ。
「病院行ったのか?」
「行ってないよ。 面倒くさくてさ」
「お前は衛生兵だろ。 行ってこい」
ラリーは瓶にコルク栓を戻して、玄関に戻って行った。
To Be Continued…




