第百四十二話
<大工のあんちゃん最終章 そして、それから。。。 完結編!!>
カヤパは地面から素早く石を取り、十字架で磔にされたあんちゃんへ石を投げつけようとしました。その時!カヤパの目には、十字架で磔にされたあんちゃんの上に、長い翼を広げたハデスの姿が映ったのです。
「な?!あれは一体、何ザマスか?!!」
何も見えない他の民衆は、カヤパの言っている意味が分かりません。
「なんだなんだ?」
「カヤパ様は何が見えているのだ?」
「我々には見えないぞ!」
優雅に黒い翼を広げながら、冥府の神ハデスは不敵な笑みを浮かべ、あんちゃんの十字架の上からカヤパを睨みつけていたのです。
「ひーーー!悪魔ザマス!」
そのハデスの恐ろしい形相に、カヤパは堪らず石を投げようとしたのです。しかしその時でした!
ガシッ!
「カヤパ大司祭、もうその辺でいいじゃろう」
「お、お前は、ニコデモにアリマタヤのヨセフ!?」
そうです。カヤパの投石を止めたのは、ユダヤ最高評議会であるサンヘンドリンで、唯一あんちゃんの死刑に反対したファリサイ派の長老ニコデモと、善人でアリマタヤのヨセフでした。
「カヤパさん。あっしは属州総督ピラトゥス様から、この大工の遺体を引き取る許可をもらった。これ以上、死者の冒涜は止めてもらおうか」
「アリマタヤのヨセフ!」
「彼の言う通りじゃ、カヤパ大司祭。もう処刑は終わったのだ」
しかしカヤパはハデスの姿を見ているので動揺を隠せません。
「ニコデモ!アリマタヤのヨセフ!お前達にはあの悪魔の姿が見えないザマスか!?この男は神を冒涜したから、あの悪魔が、この反逆者の魂を奪いに来たザマス!!」
パッシーン!!
なんとニコデモはカヤパの頬を叩きました。頬を叩かれたカヤパは茫然としております。
「例えそうだったとしても、死を軽視する者や死者を冒涜する者は、きっと人々から蔑まされる!そうなれば、お前の子供や子孫達も、ずっと後世に至るまで汚名を着せられる!それでも良いのじゃな!?」
「ニ、ニコデモ」
するとアリマタヤのヨセフも口を挟みます。
「ローマ帝国は今回の一件で事を荒立てたくない。だが、エルサレム神殿には彼の信奉者達が押し寄せて、今にも反乱が起きそうな勢いだ。ここであっしらが手厚く葬ってやらなければ、再びローマ帝国とユダヤは戦争になる」
カヤパはようやく自分の立場を理解しました。そしてニコデモやアリマタヤのヨセフは、事態の鎮静化をするためにやって来たのです。
「カヤパ、お前は未来ある若者の命を奪い、そして、ナザレの大工さんは十分すぎるほど罪を購った。もしこれ以上、この人に汚名を着せたいのなら、我々は全力を持っておぬしを磔刑にさせるぞ!」
ニコデモの瞳は本気でした。再び十字架を見ると、そこにはさっきまでいたハデスの姿が見えません。カヤパは握りしめた石を床に捨て、そしてロバに乗ってこの丘から去って行きます。カヤパから姿を消していたハデスは、長く大きな黒い翼をはばたかせ、その場から去っていきました。あんちゃんを罵倒していた民衆も、ポロポロと家路に帰ります。残されたのはローマ兵士であるロンギヌスとカッシウス、それとマリア母ちゃんにマグダラのマリヤ、そしてフィリポにニコデモとアリマタヤのヨセフでした。
「ロンギヌス様。どうかお願いがあります」
「何だ?」
「この者は既に息絶えております。これ以上磔刑にする必要はないかと思います」
「そうだな」
「アリマタヤのヨセフが先ほど申し上げたように、既にピラトゥス総督からも、彼の遺体を引き取る許可を得ております。お手数ですが、磔にされた彼の遺体を、一緒に下ろしてくださらんか?」
「うむ。分かった」
ロンギヌスとカッシウスは縄を使って、あんちゃんの遺体をゆっくりと下ろしました。全身血だらけ傷だらけのあんちゃんの遺体に駆けつけたのは、あんちゃんのマリア母ちゃんでした。
「あああ!私の可愛い坊や」
マリア母ちゃんは大粒の涙を流しながら、両腕であんちゃんを抱きかかえます。マグダラのマリヤとフィリポも、哀れな姿になったあんちゃんに涙しながら、丁寧に両手両足に刺さった鉄釘を抜き、ゆっくりと荊の冠を取りました。アリマタヤのヨセフは既に用意した亜麻布であんちゃんの遺体を全身に巻きます。マリア母ちゃんはニコデモとヨセフに感謝しました。
「ニコデモ様、それにヨセフ様。ううう、この度は本当に、うちの馬鹿息子の為に、うう、わざわざありがとうございます」
「いいってことですじゃ」
「あっしも、この大工のあんちゃんには助けてもらったからね」
愛おしく抱き続けるマリア母ちゃん。その横でフィリポとマグダラのマリヤも涙を流しています。
「さぁ、マリアさん。彼の遺体を天国へ届けてやろうじゃないか」
こうしてあんちゃんの遺体は心優しい者達に見送られながら、洞窟におかれ、香料と共に葬られたのでした。
そして三日後……。
「ううう!ブラザー!すまねぇー!俺の為に!」
あんちゃんの死に様に回心したユダが、ベロンベロンに酔っぱらいながら、あんちゃんが葬られた洞窟にやってきてたのです。
「畜生!なんで死んじまったんだよー!ブラザー!」
男泣きのユダは、亜麻布で全身を巻かれたあんちゃんに抱きついて、後悔と悔悛を繰り返していました。鼻水もべろべろに垂らし、ユダの心の叫びが洞窟に木霊しています。
「ちくしょ!俺はブラザーみたいに素直に生きたかったし、ブラザーみたいになりたかったんだよ!!」
パシ!!
なんと!あんちゃんの遺体が、突然にユダの右手を握ってきたのでした!
「本当だな?ユダ!?」
続く




