第百三十一話
<大工のあんちゃん最終章 受難!ゴルゴタ丘ライブへの道編!!>
商人達を引き連れたカヤパとユダは、ピラトゥスのいる宮殿へ到着しました。
わーーー!わーーー!わーーー!
「ナザレの大工を処刑しろー!」
「商売を邪魔した犯罪者を、なぜローマ帝国は庇っているんだー!?」
「俺達商人は黙っちゃいないぞー!!!」
外の喧騒に気が付いたピラトゥスは、カヤパ達がやって来た事を知ります。忌々しい表情で、ひじ掛けを叩きました。
「くっそう!カヤパめ!くだらん事を考えおって!」
ピラトゥスの宮殿門では、多くの商人達による怒涛の叫びが発せられております。これには警備しているローマ兵も、驚きを隠す事ができません。さて、その民衆の喧騒は、くだらない四文字熟語バトルをしていた、留置所のあんちゃんへも伝わってきました。
「うん?何の騒ぎだ?」
「やい!大工!途中でヤメるのは、右顧左眄だぞ!」
右顧左眄
意 味: 右か左か決めかねて迷うように、人の思惑などまわりのことばかり気にして決断をためらうこと。
「ゲスタス兄さん、外でいっぱい商人が集まってるよ」
「ディスマス、何だと?!」
二人は牢屋から外を眺めます。バラバもあんちゃんも、外を覗きました。すると宮殿の門では、調子に乗ったユダが、ラッパー宜しくローマ帝国をディスり始めてやがります
「Yo!Yo!Yo!Yo!ローマとユダヤは、俺達友達いつでも仲良し!なのに大工に恩赦で怒りに嵐!どこに行った中立の立場?どこへやった正しき心は?見くびるな俺達ユダヤ人、侮るな属州人!Yo!Yo!Yo!Yo!」
しかし商人達は全く聞いておりません。はっきり言って馬鹿です。
「あのバカ!カヤパに言われて、また何かやりやがったな」
「バカ?」
「ああ。ユダの事さ」
「?!」
するとバラバは激しい怒りに全身を蝕まれ、雄たけびを上げながら暴れ出しました。
「ウガアアアアアアア!ユダめ!嘘つきで偽善者のユダめ!」
「どうしたんだ?!バラバ?!」
「ユダは自分を救世主と偽って!オラを騙して!リベカの村を食い物にしやがったんだ!」
「な、何だって?!そんな馬鹿な!」
「本当さ!そのせいでリベカの村はローマ兵に囲まれて、だからオラは、リベカを救う為に!」
「なんてこった!」
ここにもう一人、ユダの悪事で被害を被った人間がいました。あんちゃんは怒り狂うバラバを見つめ、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
「カッシウス!属州民の奴らを宮殿の中庭に入れ、黙らせるんだ!」
「はい!分かりました!」
ただちに中庭へ向かったカッシウス。ロンギヌスはピラトゥスの困り果てた表情を見つめます。するとピラトゥスは、ロンギヌスに助言を求めてきました。
「ロンギヌスよ」
「はい、ピラトゥス総督」
「大工を釈放すれば、ユダヤ商人達が反乱を起こし、ワシは総督の座をリコールされる。そうだな?」
「はい」
「しかしもし、大工を磔刑にすれば、奴の信奉者達が反乱を起こし、ワシはティベリウス皇帝から粛清されるかもしれない」
「。。。」
それに対して、ロンギヌスは敢えて答えませんでした。
「釈放と磔刑。ワシはどちらを選べばいいのだ?」
ロンギヌスの心は、あんちゃんを釈放すべきと思ってました。あの半端ないヤンキー根性が、男気が、ロンギヌスの憎しみを消し去り、ローマ市民として英雄シーザーの言葉を思い出させたからです。
「ピラトゥス様、では今度は民衆に選択させるのは如何ですか?」
「奴らにか?」
「はい。それも、ハードな選択肢を与えるのです」
もはや商人達の怒りは、頂点に達していました。門を抑えきれない状態です。
「属州総督なら決断しろー!」
「俺たちが生き証人だ!」
怒涛の叫びを発する商人達を眺めながら、悦に入るカヤパはほくそ笑んでおりました。
「ここまで抗議する人間が多ければ、いくらピラトゥスでも無視できないザマス!イッーーーーヒッヒッヒ!」
暫くするとカッシウスがやって来てきました。
ガラガラガラガラガラガラ!ガラガラガラガラガラガラ!
ついに!ピラトゥス宮殿の門を開かれ、抗議を繰り返す商人達を中庭へ入れました。
ざわざわざわざわ!ざわざわざわざわ!ざわざわざわざわ!
「よいか!ユダヤの商人達よ!これよりピラトゥス様がいらっしゃる。属州総督が発言する時には、静粛にする事!分かったな!?」
ざわざわざわざわ!ざわざわざわざわ!ざわざわざわざわ!
商人達はまるでカッシウスの話に耳を傾けず、まるで正月の初詣のように、ピラトゥスが現れるであろう舞台まで、ぎっしり詰め寄ってきました。
「バラバ、すまない。。。」
「大工のあんちゃん?何がオラにすまないんだ?」
するとあんちゃんは、涙ぐみながら、床に膝をつけて、バラバの足元にすがりました。
「ううう、あのバカは、あのユダは、俺の弟子の一人なんだ」
「そ、そんな?!嘘だろ?!大工のあんちゃんは、オラに嘘を付いているんだけなんだろ?」
「いいや、嘘じゃない。本当さ」
ドカ!!!
バラバはその豪腕で思いっきり、顔を埋めるあんちゃんのそばを殴りました。
「それだけは、それだけは!いくらアニキの後継者だとしても!オラは絶対に許さねぇ!!」
「すまない!許してくれ!バラバ!」
「ダメだ!絶対に許さねぇ!!あんた知ってるのか?!ユダって野郎は、リベカを崖から放り投げたんだ!それも自分の欲望の為に!」
「?!」
するとゲスタスが突然笑い出しました。
「わっはっはっはっは!ほーれ、やっぱりお前はエゴイストな政治犯じゃねぇーか!」
「?!」
「結局、人に迷惑を掛けて、結局他人を傷付けるだけだ!」
バラバはゲスタスの言葉を聞き、あんちゃんに背を向けて、絶縁の態度を示しました。
「ゲスタス兄さん、少し言い過ぎじゃない?」
「うるせーディスマス。あのナザレの大工はな、一知半解だったから、自分の師匠の友人も、そして自分の弟子にも傷を残したんだ!」
解 説: ひとつのことを知ってはいるが、半分しか理解していない意味。
「確かにそうかもしれない。俺はずっと自分の事しか考えてなくて、他人を振り回してばっかりなのかもな」
しかしバラバは背を向けたまま。ゲスタスも鼻で笑ってます。すると、あんちゃんの背面に、あのロボスが囁きました。
"どうするんだ?あんちゃんさん"
目を閉じたあんちゃんは、敢えてロボスの言葉に無視をしました。
"そうか、覚悟を決めたんだな?分かったよ、最後まで見届けてやるさ"
するとあんちゃんは、牢屋の鉄格子に素早い二段蹴りを入れます。すると、まるで刃物で切り裂いたように、鉄格子がコロンコロンと床に転がり落ちました。
「お、おい!ナザレの大工!ここまで来て、今度は敵前逃亡かよ?!」
「いいや、ゲスタス」
ニコっと陽気な笑顔を見せて、次のように呟いたのでした。
「へへへ、ちょっくら十字架担いでくるわ」
続く




