第十三話 スパダリ界の大エース
…………スパダリ界のエース。
そう言われても、私はまだ半信半疑だった。
その答えを確かめるように、私は所長の後について調整室へ入る。
中には連結された白い台座と、その上に横たわる巨大な『ガワ』。その横には黒い『コア』が浮かんでいた。
……おっきい。
今まで見てきたスパダリのコアよりかなり大きい。三倍くらいはある気がする。
これも、あの大きな体に合わせているんだろう。
私がコアを見上げていると、所長が無色透明の液体を手に取った。
洗浄液だ。
液体がコアへと落ちる。その瞬間――黒かったコアが、一瞬で淡い青色へと変化した。
所長は続いて、別の液体を手に取った。
こっちは定着液。人格情報をコアに固定するための基礎となる液体。
所長は巨大なコアをじっと見つめると、手にした定着液の量を慎重に測り始めた。
「コアがずいぶん大きいな。定着液もそれに合わせる。使用量二.二ミリリットル」
スポイトから、定着液が一滴ずつ落ちていく。
青い光の中に、金色の光が混ざった。それらはゆっくりと絡み合いながら、コアの中心へと集まっていく。淡い青と金色の光が渦を描き、その中心だけが、まるで小さな星のように強く輝いていた。
私は息をのんだ。何度見ても、この瞬間は目が奪われる。
これから、一人の人格が形作られていく。
そう思うと、いつも胸が高鳴る。
何が生まれるのだろう。どんな人物になるのだろう。
そして、そんなワクワクする気持ちをすぐに上回るものがある。緊張感だ。この先に生まれるのは、ただのキャラクターではない。これから、一人の「誰か」が生まれるのだから。
所長がタブレットを操作すると、目の前の空間に三次元モニターが浮かび上がった。
表示された文字を見て、私は目を瞬かせる。
【名前:ダザム・ベアハート・ストロガノフ】
……そうか。当たり前か。『ほぼタウロス』じゃなくて、ちゃんと名前くらいあるよね。
そんなことを考えている間にも、三次元モニターには次々と文字が浮かび上がっていく。
【基本属性:豪放磊落】
【知性:中】
【容姿:威圧感最高水準】
【財力:中】
【社会的地位:騎士団員】
【責任感:極めて高】
【包容力:最高水準】
【共感性:高】
【腕力:悪魔的】
【料理技術:壊滅的】
……ふふ。料理下手なんだ。でも、それ以外はかなり高い。さすがスパダリ界のエース。
さらに表示が続く。
【ヒロインを守るために必要な負傷――許容】
【ヒロインの代わりに危険を引き受ける傾向――高】
【自己犠牲傾向――高】
【痛覚耐性――高】
【精神的打撃への耐性――中】
【ヒロインに嫌われることへの耐性――低】
【子供人気:E~S】
【動物好感度:S+】
【ヒロインへの優先度:最優先】
【ヒロインの荷物を勝手に持つ確率:97%】
【困っている子供を放置できない度:SS】
【犬型魔獣との遭遇時テンション上昇率:高】
【甘いもの耐性:低】
……なんか、最後のほうになるにつれて、妙に具体的になってきた。特に――
【子供人気:E~S】
……幅、広くない?EからSって天と地ほど差があるのに。
私は改めて、白い台座に横たわる巨大なガワを見る。
険しい顔に分厚い胸板。そして、丸太のような腕。初対面の子供が泣き出してもおかしくない。
――でも、慣れた子供には大人気……とか? いや、むしろ逆に、子供と遊ぶときに全力を出しすぎて怖がられている可能性もありそう。……どっちなんだろう。
パラメーターを読み進めるたびに、私の中でダザムへの印象が少しずつ変わっていった。
最初は、ただ怖そうな人だと思っていた。けれど――どうやら、見た目だけで判断できる人物ではないらしい。どんな人なんだろう。
気がつけば、私は次の項目が表示されるのを楽しみにしていた。
そのときだった。
所長がタブレットを操作する。
空中に浮かんでいた三次元モニターの表示が切り替わった。
これまでのパラメーターが消えていく。代わりに、画面いっぱいに新しい文字が並び始めた。どうやら、ダザムが登場する物語の情報らしい。
そして――モニターに、第一期の物語のあらすじが映し出された。
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【第一期ストーリー概要】
王国最強の騎士、ダザム・ベアハート・ストロガノフ。
巨体に強面。魔物も盗賊も震え上がる英雄だが、ただ一つだけ致命的な欠点があった。
――恋愛に関して、とてつもなく鈍感なのである。
ダザムは幼い頃から仕えているリディア王女に密かな想いを寄せていた。しかし、当の本人はその気持ちを恋だと自覚していない。
さらに最悪なことに、リディア王女が想いを寄せている相手は、自分ではなく同僚騎士のカインだと思い込んでしまう。
「ならば俺が二人を応援せねば!」
王女の幸せのため、恋のキューピッドになることを決意するダザム。夜会の相手を用意し、二人きりになる機会を作り、時には後方保護者面まで披露する。
しかし、そのたびに状況はなぜか悪化。
王女が襲われれば真っ先に駆けつけ、崩れ落ちる瓦礫から庇い、命の危機には自ら盾となる。
体を張って守られるたびに、リディアの想いはますます募っていく。
一方のダザムは……
「リディア様が喜んでおられる。やはりカインを気に入っているのだな」
と盛大な勘違いを継続中。
想い人の恋を応援しているつもりの最強騎士と、そんな彼に恋をした王女。
すれ違い続ける両片想いの行方は――。
これは、誰よりも優しく、誰よりも鈍感な騎士ダザムと、一途な王女リディアが織りなす、もどかしくて少し甘い――恋物語。
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私はしばらく、モニターを見つめていた。
……これが、ダザム・ベアハート・ストロガノフという男の物語。
「……お、お、お」
口から、思わず声が漏れた。
「お?」
隣で所長が首を傾げる。
私はモニターを指差した。
「おもしろそぉぉーーー!」
思わず身を乗り出していた。
所長が一瞬、ぽかんとした顔になる。それから、ふっと口元を緩めた。
「……だろ?」
その顔は、どこか嬉しそうだった。




