救世の英雄
陽光を遮る黒雲が
空に広がる。
色彩を失った大地に
枯れた草木が横たわっていた。
骨となって久しい馬の頭に
烏が止まっている。
烏は三人の姿を認めると
煩わしそうに一声鳴いて
飛び去って行った。
誰ともすれ違わぬ街道を進む三人の前に
半ば崩れた石の門が姿を現す。
かつては賑わっていたであろう町が
骸のようにそこにあった。
三人は瓦礫を避けながら
門をくぐる。
町の中に人の姿はなく
無数の視線だけが彼らを出迎えた。
「誰か
いらっしゃいませんか?」
王子は通りの真ん中で
人々に呼びかける。
家々から感じる気配が
怯えるように身を縮める。
姫が言葉を継いだ。
「私たちは
悪魔を滅ぼすために
南から参りました。
悪魔についてご存じのことがあれば
教えていただきたいのです」
人々の気配が
戸惑いに揺れる。
戸を開けて
出てくる者はない。
魔女は小さく肩をすくめ、
「無駄のようね」
二人にそう言った。
不信と猜疑に満ちた人々の眼は
これが初めてではない。
姫は小さく息を吐く。
王子が二人を振り返り、
出発を告げようとしたとき、
――キィ
軋んだ音を立て
扉が開く音が聞こえる。
村の一番大きな家から
一人の老人が姿を現す。
皺の深く刻まれた顔は
深い苦しみに満ちていた。
恐らくは村の長であろう老人は
値踏みするような目で王子を見る。
「……お前さま方が
悪魔を滅ぼす『救世の英雄』か?」
村長が表に出たのを見たか、
家々の扉が開き、
村人が王子たちを囲む。
王子は村長に答えた。
「私たちがあなたの言う
『救世の英雄』かは分かりませんが、
悪魔を滅ぼすために旅をする者です」
村人たちが小さくざわめく。
村長はじっと王子を見つめた。
「……悪魔の
何が知りたい?」
「詳しい居場所が分かれば
お教えいただきたい」
王子の揺らがぬ瞳を
村長は見ている。
「本当に
悪魔を滅ぼせるとお思いか?」
「それが私の使命なれば」
村長は思案するように目を瞑った。
幾ばくか沈黙し、
村長は目を開ける。
「……今、この国は
悪魔の遣わした魔物に支配されている。
『救世の英雄』に手を貸したとなれば
この村は滅ぼされよう。
悪魔の居場所を教えるなら
まずは村を救ってもらわねばならん」
「承知した。
何をすればよろしいか?」
即答する王子に驚き、
村長はわずかに微笑む。
「なに、簡単なことじゃ」
村長は傍に寄るよう手招く。
王子は手が触れるほどに近付く。
村長は懐に手を入れ――
「――その命、置いて行け!」
抜き身の短刀を王子の心臓に向けた。




