太陽の試練
踏み込んだ闇の中は
天地の別さえ分からぬ
無明の闇。
限りなく落ちていくような
果てなく上昇するような
寄る辺ない感覚に
王子は戸惑う。
進むことも戻ることも叶わぬ
闇の中で
かすかに誰かの声が聞こえる。
『――王子が旅立ってから
もう何日が経っただろうか』
それは王子の国に住まう
臣下や民の声。
『悪魔は未だ討たれておらんと聞く』
『北のほうでは被害も甚大とか』
流れてくる会話は
徐々に鮮明になって王子の耳に届く。
『あれほど盛大に送り出したというのに
王子の噂は聞こえては来ぬ』
『さては死んだか、逃げ出したか』
声に失望と嘲りが混じった。
『せめて悪魔に殺されたなら
王国の体面も保たれように』
『無様な死に方だけは
しないでほしいものだ』
声が徐々に遠くなり、
無明の闇に静寂が戻る。
王子は無感情に闇を見つめた。
見つめたその先に
闇が凝集し、
人の形を作る。
周囲よりさらに濃いその闇は
やがて王子そっくりの姿となって
ニヤリと顔を歪ませた。
『お前の献身を称え
涙を流して見送った者たちの
それが今の声だ。
奴らにはお前の苦労も
想いも
何も届きはしない。
そんな者のために
戦ってどうする?
お前が悪魔を討ったところで
世界は何も変わらない』
王子はすらりと腰の剣を抜いた。
「名誉のために戦うのではない。
世界のために戦うのだ。
賞賛のために戦うのではない。
安寧をもたらすために戦うのだ。
私は私の意志で悪魔と戦い、
私の意志で世界を救うのだ」
太陽の痣が光を放ち
周囲の闇を照らし始める。
王子の顔をした闇は
その光に照らされ
溶けるように姿を消した。
光はいよいよ強まり
闇を払っていく。
世界が真白に染められ
闇が欠片も残らぬほどに
吹き散らされたとき、
哄笑のような声が
響き渡る。
『決意の光が闇を払う。
だが心せよ。
光もまた
永遠に世界を照らし続けることはできぬ。
光が闇を払うように
闇が光を覆いつくす時が来る。
悪魔を滅ぼして後こそが
光が終わる時と知れ』
その言葉の終わりと共に
王子の意識さえもが真白に飲まれ、
すべては全き光に包まれた。




