太陽は沈んだ
左手で顔を覆い
彼女が泣いている。
口を歪ませ
悪魔が嗤っている。
姫が血溜まりの中に
倒れている。
王子は呆然と
立ち尽くす。
「違う」
彼女が泣いている。
『何が違う?』
悪魔が嗤う。
「違う、
違う!」
『何も違わないさ。
これが
君の望んだ結果だ』
「違う!!」
彼女が泣く。
悪魔が嗤う。
『都合が悪くなれば
目を閉じるのかい?
とんだ卑怯者だ。
君のせいで
月の姫は死んだのに』
彼女は泣く。
悪魔は嗤う。
『月の姫は君を助けると言ったのに。
諦めないと言ったのに。
死なせないと言ったのに』
泣く。
嗤う。
『諦めればよかったのに。
望むことが過ちだった。
君は姫を殺したんだ。
君が殺したんだ』
泣く。
『君が、殺したんだ』
「わた、しは――」
彼女は顔を上げ、
王子を見つめる。
「もう、耐えられない――」
ハッと息を飲み、
王子は彼女を見つめ、
唇を噛み、
剣を構える。
悪魔は馬鹿にしたように
にやにやと笑った。
『殺せないさ。
殺せるはずがない。
君は何のために
ここに来たの?
僕を殺すことは
君の自己矛盾だ』
剣を水平に持ち、
狙いを定める。
炎剣の紅炎が
勢いを増す。
『見え透いてる。
彼女は確かに
ここにいるよ。
彼女を助けに来た君が
彼女を殺すの?
そんなバカな
話はないよね』
王子が強く床を踏み込む。
『冗談――』
突き出した炎剣が
悪魔の胸を貫いた。
悪魔が大きく目を見開く。
紅炎が悪魔を、
その身体を包む。
悪魔は憎らしげに口の端を上げ――
『――ごめんなさい。
二人を、守りたかったの――』
そう言って儚く微笑む。
流れた涙が紅炎に焼かれ
蒸発する。
王子は剣を突き出した姿勢のまま
硬直した。
紅炎が傷口から
身体を焼き尽くしていく。
やがて燃え朽ち
灰となって崩れた。
王子の手から
剣が落ちる。
王子は床に積もる
灰を見つめた。
「……悪魔を滅ぼし
世界に安寧を――」
呆然と
王子はつぶやく。
「……何のために?」
王子の目から
涙がこぼれる。
「私は、何のために――」
床に落ちた炎剣から
炎が溢れ、
床を這い
壁を伝い
天井を焦がす。
姫の亡骸も
王子の身体も
一切を飲み込んでいく。
王子は立ち尽くしている。
城が炎に包まれ
音を立てて崩れた。
太陽は沈んだ。
予言の言葉の通りに。




