世界は闇に包まれる
天を覆っていた黒雲が晴れ、
人々は悪魔の討滅が成ったと知る。
世界は歓喜に沸き、
輪になって踊る。
もはや
灰色の雨に怯える必要はない。
澄んだ空を見上げ
人々は笑った。
戻らぬ二人の若者を
案ずる声はない。
忘れてしまったように
最初からいなかったように
人々は晴れやかに
笑っている。
王は自ら
腕に赤子を抱き、
愛おしそうに
目を細める。
側室が穏やかに
微笑んでいる。
赤子はすやすやと
眠っている。
王は静かに語り掛ける。
「よぉく眠れ。
お前が大きくなるころには
この国はもっと豊かに
もっと素晴らしいものになる」
赤子が小さくあくびをする。
王は側室と顔を見合わせ
笑い合った。
城の塔の上から
宮廷魔術師は街を見下ろす。
祭りのような喧騒が
遠く聞こえている。
人々の様子を見つめ、
宮廷魔術師は小さくつぶやいた。
「良い英雄は
死んだ英雄、か」
宮廷魔術師は街に背を向け
城の中に消えた。
悪魔討滅を喜ぶ祝いの宴は
山村にも及ぶ。
都から訪れた
行商人や芸人が
景色を鮮やかに塗り替える。
娘たちが着飾り、
若者たちは落ち着かぬ様子で、
互いの様子を窺う。
村の広場に出店が立ち
威勢の良い呼び声が飛び交う。
父に手を引かれ
幼い兄弟が
広場を訪れていた。
「ほら、
せっかくのお祝いだ。
好きなものを選びなさい」
父が兄弟に言った。
兄は浮かぬ顔で
人々を見る。
「お父さん、
どうしてみんな、
王子様や
お姫様や
魔女様のことを
何も言わないの?」
父は顔を引きつらせ
しゃがみ込んで兄の口をふさぐ。
「そんなことを
人前で言うもんじゃない。
分かったね?」
怯える様な父の表情に
兄はうなずいて口をつぐむ。
父は微笑み、
立ち上がった。
「腹が減ったろう。
何か買ってくるから、
ここで待っていなさい」
父は兄弟を置いて
出店のほうに歩いていく。
父の背を見つめながら
兄は小さくつぶやいた。
「でも、
お父さん。
あの人たちは
僕と弟を
助けてくれたんだよ」
つぶやきは
祭りのざわめきに紛れ
消えた。
道化が語る物語は
これでお終い。
太陽と
月と
星を失い、
世界は闇に包まれる。
けれど
人々は気付かない。
世界は闇の中だって
誰も気付きはしないのさ。
太陽と
月と
星が
必死に払おうとした闇を
自ら招いて
何も見ぬまま踊るのさ。
その愚かな狂騒だけが
僕を慰める。
人という
壮大な喜劇が
僕はとても
愛おしいのさ。
さあ、
答えを聞かせてくれる?
彼らは
彼女らは
何を間違えた?
誰が悪くて
何が正しかった?
答えられる?
答えはあるかな?
答えられるといいね?
答えられないなら――
また、
僕と会うことになるかもね。
ふふふ
ははははははは――




