この世界に安寧を
王の前に膝を突き
王子は首を垂れる。
月の姫も同様に
王子の後ろに控えて傅く。
王は玉座から
二人を見下ろしている。
刺すような廷臣たちの視線が
二人に注がれている。
王は重々しく口を開いた。
「己の立場を
弁えていような?」
王子は一段深く頭を下げる。
王は下らぬと言わんばかりに
鼻を鳴らした。
「古来より
国家に刃を向けるは
命を以て贖うも足らぬ
重罪である。
なれど、
この世界の危機にあって
太陽と月を葬るわけにもいかぬ。
法理を曲げて
汝らをここに呼び立てた意味を
よくよく腑に刻むがよい」
王が軽く手を上げる。
傍に控えていた宮廷魔術師が
二人に近付き、
懐から何かを取り出す。
それは
水晶でできた小瓶。
宮廷魔術師は蓋を開けると、
王子と姫に
中身を振りかける。
小瓶からこぼれた光が
それぞれの身体に吸い込まれていく。
「その力を以て
世界を救いなさいませ。
くれぐれも
おかしな野心に呑まれ
身を滅ぼされませぬように」
月の姫が固く目を閉じる。
王子は顔を上げぬまま
従順に答えた。
「悪魔を滅ぼし
世界に安寧をもたらしましょう」
王は厳しい表情を崩さず。
冷酷な声音で言った。
「その言葉、
忘れるでないぞ。
使命を果たして初めて
汝は赦される機会を得よう」
廷臣たちの
憎悪にも似た視線が突き刺さる。
王子は無言で
床に着くほどに頭を下げた。
「どうして――」
玉座の間を辞し
二人は
あてがわれた物置部屋で
向かい合う。
「どうして、彼女は――」
姫は口惜しげにうつむく。
悪魔は再び北の地に降り立ち、
無人の城の玉座にあるという。
噂は伝える。
その姿は
星の魔女であったと。
王子は首を横に振った。
「わからない。
けれど、
彼女は己の欲で
悪魔の力に手を出すような
人間ではない」
王子は姫の肩に手を置き、
まっすぐに見つめた。
「力を取り戻し
旅する自由を得た。
これは
好機です。
世界など知らない。
悪魔などどうでもよい。
私たちは――」
肩に置く王子の手に
力がこもる。
「――彼女を取り戻します。
絶対に」
王子の手に自らの手を重ね、
姫は決意を宿した瞳で
うなずいた。
簡素な旅装に身を包み、
二人は都の門を出る。
彼らの背に
声援も
賞賛も
与えられることはない。
二人は
二人だけで
足を踏み出す。
最初に旅を始めたときと
同じように。




