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再会

 黒雲がもたらす

 灰色の雨が

 霧のように世界を覆っている。

 朧に霞む視界は見通しを遮り、

 すれ違う人の顔さえ

 定かではない。

 王子と姫は

 世の人々の悲痛な叫びを

 振り切って北へと向かった。

 霧の中に浮かぶ二つの人影が

 太陽の王子と月の姫であると

 気付くものは誰もなかった。


 はるか天を衝く山の麓に

 石造りの城が姿を現す。

 生きる者のない

 くすみ澱んだ灰色の城。

 かつて三人で訪れたその場所に

 二人は辿り着いた。

 あの時と同じように

 軋んだ音を立てて

 招くように門が開く。

 二人はためらいなく

 悪魔の城に足を踏み入れた。




『ようこそ、

 我が城へ』


 玉座に頬杖をついて

 悪魔が二人を歪んだ笑みで

 出迎える。

 その姿は紛れもなく

 星の魔女だった。

 姫が強く拳を握り、

 王子が奥歯を噛む。


『懐かしいね。

 それほど時間が経っているわけではないのに

 君たちと戦ったのが遠い昔のことのようだ』


 悪魔はゆっくりと立ち上がり

 友人に語り掛けるように言った。


『同じように

 問うてみようか。

 何のために

 ここに来た?』


 王子は悪魔をにらみ据える。


「彼女を返してもらう」

『いいね。

 以前よりもずっと

 純粋で迷いがない。

 でも、

 返して、は心外だな。

 まるで僕が無理に奪ったみたいだ』


 悪魔はやれやれと

 肩をすくめる。


『星の魔女は自分の意志で

 悪魔になったんだよ?

 悪魔にならない選択も

 充分にあった。

 彼女は

 悪魔になることを

 望んだんだ』

「嘘を吐くな!」


 姫が激しい憎悪を宿した瞳で

 悪魔を射抜く。


「彼女がそのようなことを

 望むものか!」


 うーん、と

 悪魔は困ったような表情を浮かべる。


『本当だってば。

 彼女は本当に

 自分の意志で悪魔になったんだよ。

 だって、

 そうしなければ

 君たちが死んでしまうから』


 姫が不可解そうに

 眉を寄せる。

 悪魔は満面の笑みで

 解説を始めた。


『今、

 君たちがここにいるのは

 誰のおかげだと思っているのさ。

 星の魔女が悪魔になって

 世界を脅かしたからこそ

 君たちは再び世界から求められ

 命を繋いだんだろう?』


 姫と王子が

 目を見開く。

 悪魔は得意げに

 話を続ける。


『彼女の望みは

 君たち二人が生きること。

 悪魔になったのは

 そのための手段に過ぎない。

 君たち二人を見捨てれば

 悪魔になる必要などなかった。

 でも、

 彼女は悪魔になることを選んだ。

 美しいだろう?

 とても美しくて、

 とても純粋で、

 そして――』


 悪魔は堪えきれないように

 吹き出した。


『――とても愚かな願いだ』

「貴様!」


 王子が憤怒を示し、

 腰の剣を抜く。

 刃が紅炎を宿し、

 陰鬱な空気を払った。

 悪魔は軽く手を上げて

 王子を制する。


『ごめんごめん。

 気を悪くさせたなら

 謝るよ』


 軽薄に笑った後、

 悪魔は表情を改めた。


『彼女を取り戻すと言ったね?

 君たちの願いもまた

 とても美しい。

 僕は好きだよ、

 この腐った世界で

 君たちは

 まぶしいほどに

 美しい』


 けれど、と

 悪魔は痛ましげにうつむく。


『どうやって?

 その手の炎剣で貫けば

 解決すると思うのかい?

 この身体は確かに

 星の魔女のものだ。

 太陽の力を宿したその剣で貫けば

 間違いなく僕は消滅するけれど、

 それは星の魔女が

 身体を失うことでもある。

 僕たちを分かつことはできないよ』


 姫は一度目を閉じ、

 再び目を開ける。

 その顔から憎悪が消え

 冷徹な無表情になった。


「お前の嘘に付き合う気はない」

『嘘、だって?』


 姫の身体を蒼い燐光が覆う。


「先の戦いで

 悪魔は次々に肉体を入れ替えた。

 悪魔とその依り代は

 不可分などでは決してない」


 姫の瞳が金色に輝く。


「可能な限り

 消耗を誘ってください。

 その間に

 私が悪魔と彼女の

 魂の境界を裂く」


 王子は悪魔を見据えたままうなずいた。

 悪魔が感嘆の声を上げる。


『さすが月の姫。

 いい線いってる。

 でもね』


 悪魔の周囲に

 七つの火球が浮かび上がった。


『それが君たちに

 できるかどうかだ』


 王子が剣を構え

 紅炎が勢いを増す。

 姫が悪魔に向かって手をかざし、

 悪魔が嘲りを浮かべ――




――王子が悪魔に向かって床を蹴った。


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