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悪魔を滅ぼせ

 都の大通りを

 パレードのように

 周囲を兵に囲まれ

 縄を打たれた王子が

 歩いている。

 沿道に人は溢れ

 多様な視線が

 王子に注がれている。

 戸惑い。

 冷笑。

 不信。

 盲信。

 背を伸ばし

 前を向いて歩く王子は

 否定も肯定もしない。


「これは

 何かの間違いだ!

 妾は何もしておらぬ!」


 王子の後ろには

 両脇を兵に抱えられ

 引きずられるように歩かされる

 王妃の姿がある。

 涙を流し

 喚き散らして

 不当な運命を呪っている。

 王妃の言葉に

 耳を貸す者はない。

 雲一つない空から

 中天に座す太陽が

 人間の罪を照らし

 影を作った。




 やがてパレードは中央広場に辿り着く。

 広場に設えられた断首台の黒い刃が

 鈍く光を反射していた。

 ためらいも見せず

 王子は木の階段を上る。

 王妃は気を失い、

 階段の下に倒れた。


「聞け!

 王国の民よ!」


 断首台の傍らに立ち、

 フードを目深に被った執行人が

 罪状を掲げる。


「この罪人は

 畏れ多くも国王陛下を弑し

 玉座を簒奪せんと企てた

 悪魔である!

 国を乱し

 民の安寧を乱す悪魔を

 今、

 神と正義の名の許に

 誅せん!」


 広場に詰めかけた人々から

 小さく悲鳴が上がる。

 王子に憐れみの視線が集まる。

 王子が断首台の前に立ち、

 膝を突こうとしたとき、


「皆、騙されるな!」


 人々の中から

 鋭い声が上がった。

 人々の視線が

 声の主に集まる。

 声を上げたのは

 一人の小柄な老人だった。


「騙されてはならん!

 太陽の王子は――」


 老人は周囲を見渡し、

 声を張った。


「――高潔の皮を被った

 ただの偽善者だ!

 悪魔討滅と称した旅で、

 そやつは我らを見捨て

 冷酷に去っていったのだ!」


 老人は

 かつて北の国で

 三人が訪れた村の長だった。


「そやつは世界を救ったのではない!

 悪魔を討ち、

 世界から称賛を得るために

 戦ったに過ぎぬのだ!

 そやつは英雄ではない!

 そやつは我らを救うことに

 微塵も興味を持っておらぬのだ!」


 しん、と広場に沈黙が降る。

 人々はゆっくりと

 王子を振り返った。

 王子はただ

 無表情に前を見据える。

 広場の空気が

 変わっていく。


――悪魔を許すな


 ぽつりと

 誰かが言った。

 言葉が染み入るように広がる。

 王子に注がれる視線が

 裏切りを詰る色を帯びる。


――悪魔を滅ぼせ


 誰かがつぶやく。

 騙していたのか。

 我々の信頼を

 踏みにじったのか。

 高潔なふりをして

 裏で利を貪っていたのか。

 情念が膨れ上がり

 熱を帯びる。


――悪魔を許すな!

――悪魔を滅ぼせ!


 広場を揺るがす轟音が

 響き渡る。

 憎悪が塊となって

 王子に放たれる。


――悪魔を許すな!

――悪魔を滅ぼせ!


――殺せ!!


 執行人が目配せをして

 村長はうなずきを返すと

 人々の間をすり抜け

 姿を消した。




 怒号の中、

 王子は自ら傅き、

 断首台に固定される。

 王国の民の総意として

 執行人は剣を掲げた。

 空は澄み渡り

 太陽は全てを平等に照らす。

 執行人は高らかに宣言する。


「見よ!

 正義が果たされ

 世に神の安寧を

 取り戻さん!」


 歓声が広場を包み、

 血に飢えた目が

 断首台に集まる。

 黒刃に繋がれた縄に

 執行人の剣が振り下ろされようとした

 その時――


 蒼天にわかに掻き曇り

 ぽたり

 雨が降る。


「……雨?」


 熱狂を冷ますように

 広場に雨が降る。

 雨はドロリと粘性を帯び

 灰色に濁っていた。

 人々は記憶を呼び覚ませる。

 これは

 かつて悪魔がもたらした

 麦を枯らす灰色の雨――


 頭上に厚く

 黒雲が垂れ込める。

 雷鳴が響き、

 直後、

 引き裂くような轟音と共に

 雷が執行人を打った。

 黒く炭化した

 執行人の身体が崩れ落ち、

 雨に溶けて流れる。

 落雷の余波は断首台を砕き、

 王子には傷の一つもなかった。


――悪魔が、蘇った?


 誰かが疑問を口にする。

 その声は人々を凍り付かせ、


――うわぁぁぁーーーーっ


 言葉にならぬ叫びを合図に

 人々は我先にと広場を逃げ出した。


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