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生贄

 私室で椅子に座し

 王は憂鬱そうにため息を吐く。

 蝋燭の灯が

 王の横顔を照らしている。

 市井では今、

 増税に反発する民衆が

 夜な夜な酒場に集まり、

 声高に不満を叫ぶという。

 酒を飲んで管を巻くだけなら

 捨て置いてもよかろうが、

 問題は

 彼らの不満の『中身』だ。


「どうやら

 毒虫が町を

 這いずり回っておるようですな」


 宮廷魔術師が

 冷めた様子で王を見る。

 自然発生と言うには

 あまりに時期が揃いすぎている。

 何より彼らが叫ぶ内容が

 笛吹きの存在を明確に示唆していた。


――太陽の王子は謀略によって地位を追われた


 立場も境遇も違う者たちが、

 その一点において主張を同じくしている。

 それが同時多発的に

 複数の場所で起きているとなれば

 何者かの意志を想定しないほうが不自然だろう。


「悪魔のような側室が

 己の子を王位に据えるために

 愚昧な王をたぶらかし

 太陽の王子を放逐した、か」


 王は乾いた笑みを浮かべる。

 実際には、

 側室は権力欲とは程遠い

 慎ましやかな女だ。

 彼女は王に

 何かを求めたことは一度もない。

 ただ話を聞くだけ。

 そして王は

 それゆえに彼女に惹かれたのだ。


「王妃はどうしている?」

「得意げな顔をなさって

 王子の還俗を進言しにいらっしゃいました」


 苦笑いする宮廷魔術師に、

 王は深くため息を吐いた。

 そのように得意げな顔をすれば

 民衆の扇動に加担していると

 宣言するようなものだ。

 実際に加担していようがしていまいが、

 そう疑わざるを得なくなる。

 そしらぬ顔をしてくれていれば

 何もしなくても済んだというのに。


「笛吹きの正体は?」

「一両日中には」


 王はうなずき、

 疲れたように首を振る。

 笛吹きが誰であろうと

 民衆が信じたのは

 太陽の王子だ。

 民衆が望む限り

 太陽の王子は

 英雄であり続ける。

 民衆が望む限り

 太陽の王子の虚像は

 無限に膨らんでいく。


「さぞ、

 迷惑なことであろうな」


 王は憐れみを込めてつぶやく。

 宮廷魔術師は悼むように目を瞑った。

 王は大きく息を吐く。

 蝋燭の灯が揺れる。

 天井を仰ぎ

 王は感情を吐き出すように

 つぶやいた。


「王子には

 役に立ってもらわねば

 なるまいな」


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