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決戦

 王子が距離を詰め、

 炎剣を斬り下ろす。

 悪魔は楽しげに嗤い

 大きく跳躍した。

 炎剣が紅い軌跡を描き、

 空間を灼く。

 悪魔は悪戯を仕掛けるように

 王子に問う。


「問題。

 本物はどれでしょう?」


 悪魔の身体が波打ち、

 何かが湧き出る。

 ぼたりと地面に落ちたそれは、

 うごめき、

 人を形作った。

 ぼたり、ぼたり。

 若者、

 老人、

 男、

 女、

 幼児、

 赤子。

 湧き出るヒトガタは

 虚ろな目で王子を見る。

 王子はためらいなく

 美しい少年の姿の悪魔に

 剣を突き立てた。

 貫かれ

 炎に包まれながら

 悪魔は嗤う。


「外れ。

 そんなに簡単なわけないでしょ?」


 王子の背後に回った幼児が

 その手の短剣を振りかぶる。

 刃が突き刺さる寸前、

 姫の手から放たれた光が

 王子を覆い、

 短剣は硬質な音を立てて

 弾かれた。


「私がお護りいたします。

 どうか

 憂いなく」


 悪魔は不満げに

 口を尖らせる。


「いいの?

 そんなことを言って。

 そんなことを言ったら――」


 姫の間近の空間が揺らぎ、

 ナイフを持った右手だけが

 突き出される。


「――月の姫を狙っちゃうよ?」


 魔女の瞳が妖しく輝き、

 烈風が姫を脅かす腕を切り裂いた。


「私がそれを

 許すと思うの?」


 幼児の姿の魔物が

 不快そうに鼻を鳴らす。

 王子が振り向きざまに

 悪魔を斬り伏せた。

 幼児の身体が炎に包まれ

 灰に変わる。


「うーん、

 残念。

 ちょっとだけ遅かった」


 若い娘が

 ケタケタと笑う。

 王子が悪魔を鋭く見据えた。




 若い娘の姿の悪魔が

 パチンと指を鳴らす。

 王子の周囲のヒトガタが

 一斉に襲い掛かる。

 王子が正面の一体を斬り伏せると

 炎に包まれたヒトガタは

 かすれた声でつぶやく。


――ドウシテワタシダケガ


 左から襲い来る老人の手を避け、

 右にいる男の胴を薙ぐ。


――ミンナハアンナニシアワセソウナノニ


 身体をくるりと回転させ、

 王子は背後の女と横の老人を

 まとめて切り捨てた。


――ドウシテダレモタスケテクレナイ

――クルシイ

――タスケテ


 断末魔のように

 炎の中でヒトガタはつぶやき

 灰となる。

 悪魔はクククと喉を鳴らした。


「本当はね、

 『本物』なんてないんだ。

 全部本物。

 絶望に優劣はない。

 そして絶望は

 無限に生まれる。

 だからね、

 君たちは絶対に勝てないんだ。

 君たちの生は

 有限だからね」


 魔女が悪魔をにらむ。

 姫は冷酷な声音で言った。


「それは

 嘘ですね」


 悪魔は気分を害したように

 鼻にシワを寄せる。


「何が嘘だって言うのさ?」

「あなたが世界の絶望の集積だとして、

 しかしあなたは絶望してはいない。

 あなたは世界の絶望の管理者であって、

 絶望そのものではない」


 へぇ、と悪魔は

 興味を惹かれたようにつぶやいた。

 姫は言葉を続ける。


「あなたは自らを装置と言った。

 ならば

 世界の絶望を集め、

 管理するための機能を持つ

 『核』が必ず存在する」


 悪魔は感嘆の口笛を吹き、

 姫に拍手を送った。


「すごいね。

 悪くない推理だ。

 その明晰な頭脳が

 貴女を故郷から追いやった原因だなんて

 皮肉なことだね」


 長めの拍手を終え、

 悪魔は意地悪く顔を歪める。


「でも、

 それが分かったところで

 何も変わりはしない。

 『核』はどこにあるんだろう?

 本当にあるのかな?

 あるとして、

 今ここにあるとは

 限らないよ?

 僕の『核』を求めて

 世界の果てまで。

 新しい冒険の

 始まりだ」


 姫は優雅な微笑を浮かべた。


「ご心配なく。

 全ては予言に示されている」


 魔女の周囲に、

 まるで夜空に浮かぶ星のように、

 無数の光が浮かぶ。


「太陽は月光を受けて輝きを増し、

 星に導かれて(・・・・・・)悪魔を滅ぼすだろう」


 姫が予言を口ずさむ。

 魔女の周囲の光が、

 一点に集まって輝いた。

 それは

 炎に包まれてなお朽ちず

 糸の切れた人形のように地面に座る

 美しい少年の身体の

 その心臓。

 悪魔の顔が初めて

 焦燥に歪んだ。


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