聖女パーティ
ダンジョンの内部は、キラキラと輝く柔らかい壁でできている。サクセスたちは慎重に奥まで進んで行った。
「なんだか、すごく綺麗ね。まるで豪華なお城みたい」
エリサベスははしゃいでいる。
「油断するなよ。何が出てくるかわからないんだからな」
サクセスがそういった途端、白いウネウネとした蛇のようなものが襲い掛かってきた。
「危ないの!『シェルシールド』」
アヤコが空間魔法を唱えると、透明な結界が張り巡らされて、サクセスたちを覆った。
「おい。モンスターはいないっていったろ?」
「あれはモンスターじゃない。お爺ちゃんの体内に生息して、侵入者を撃退するシェルゴカイという寄生虫」
アヤコが説明している間にも、白い蛇はどんどん集まってくる。
「ど、どうしよう。このままじゃ進めないよ。それに気持ち悪い」
エリザベスは蛇を見て、いやそうに顔をしかめている。
「仕方ない。準備しておいてよかったぜ」
サクセスはそうつぶやきながら、リュックを開ける。その中から、下部に引き金がついた筒のようなものと、先端が二股に分かれている杖が出てきた。二つとも真ん中に、魔力の元になる魔石がついている。
「それは何?」
「念のために作った武器だ。エレルさんの『風』とガラハットの『音』の魔法を付与してある」
そういいながら、引き金がついた筒をエレルに、二股の杖をガラハットに渡す。
「いいか、使い方はな……」
サクセスが説明すると、二人はよくわからないという顔をしながらも装備した。
「よし。いいぞ。結界を解け!」
サクセスの合図により、アヤコがシールドを解除する。
「なんだかわからねえが!おりゃ!」
ガラハットが「音」の魔力をこめて、二又の杖を地面に叩きつける。地面が触れた部分から広範囲に衝撃が伝わり、押し寄せようとしていた蛇を吹き飛ばした。
「坊ちゃん。これは?」
「俺がつくった『音叉杖』だ。音を衝撃波に変換して、敵の内部から破壊する武器だ」
音とは物体の振動であり、周囲に衝撃波をもたらす。それを応用した伝説の武器だった。
「ははは。こいつは面白れえや」
ガラハットは調子にのって杖を振るう。近くにいた蛇は、どんどん動かなくなっていった。
その時、離れていた蛇が体を縮ませる。
「危ない。やつらが来るぞ。エレルさん。蛇に向けて引き金を引け!」
「は、はい」
戸惑いながらも、引き金を引く。筒の中から極限まで圧縮された風により鉄の弾が噴出し、飛びかかってきた蛇を四散させた。
「こ、これは?」
「空気の力で弾を打ち出す『風気銃』だ。連射ができる」
サクセスが説明している間にも、エレルは蛇を次々に打ち落としていく。
二人の活躍により、シェルゴカイは逃げていった。
「サクセス、すごいです。風の魔法にこんな使い方があるなんて。風魔法は攻撃には向かないとされていたのに」
エレルは自分の魔法を最大限に生かす武器を手に入れて、喜んでいる。
「なんていうか……俺って『音』みたいな声を遠くに伝える魔法しか使えない役立たずって決め付けられて、片足になった後に軍を首になったんだよなぁ。でも、これさえあればまだ戦えるぜ」
ガラハットは片足が義足なのですばやい動きができず、剣を振るって戦うことはできないと諦めていた。しかし、この『音叉杖』なら範囲攻撃ができるので、機敏に動けなくても戦える。
喜ぶ二人に向けて、冷静な声が響いた。
「能力なんてのは使い方しだいだ。あらゆる知識を駆使して武器やアイテムを有効につかい、最大限の効果を引き出すのが、『商人』の仕事なのさ」
「ふふ。そのとおり。サクセスはすごいのよ。勇者なんかよりよっぽど役にたつんだから」
なぜか威張るエリサベスだった。
それからの探索は、順調に続いた。
「ヒャッハー!汚物は消毒だ!」
「どうしました?もっとかかって来なさい!」
ガラハットとエレルは、手に入れた武器を気に入ったのか、どんどん魔法を放ちまくっている。
「あ、あの、私も戦ったほうがいいかな?」
臣下二人が戦っているのに、後方で護られているばかりだったエリサベスが前に出ようとするが、サクセスにとめられた。
「やめろ。お前が前に出たら陣形が崩れる。お前の役目は二人が傷を負ったときに治療することだ。ひっこんでろ」
「は、はい……」
厳しい言葉に、エリザベスは意気消沈する。
それをみたアヤコが、ムッとして聞いてきた。
「だったら、あなたの役目はなんなの?二人に戦わせて見物しているだけなの?」
「すぐに分かる」
サクセスはアヤコの挑発に乗らず、前線で戦う二人をじっと観察していく。
すると、二人の武器の魔石の輝きがどんどん薄れていった。
「えいっ!」
調子にのって風の弾を撃ちまくるエレルに、冷静な声がかけられる。
「エレルさん。そろそろ弾切れだ。下がって魔石と弾倉を交換しろ。ガラハットは援護を頼む」
「わかったぜ!」
ガラハットが蛇を吹き飛ばしている隙に、エレルは風気銃の部品をはずして交換する。そのおかげで魔力切れを起こすことなく、戦い続けることができた。
エレルが前線に復帰すると、サクセスは次にガラハットを下がらせる。
「魔力のことは気にするな。大量に魔石を用意している」
「ほんと、坊ちゃんは頼りになるな。あんたが的確にバックアップしてくれるおかげで安心して戦えるぜ」
ガラハットは苦笑して、音叉杖の魔石を交換する。そして再び戦いに戻って行った。
「これが俺の役目だ」
「役目?」
「ああ。パーティが常に全力で戦える環境を整える役目。いわゆる『補給』担当だな。これも商人の役目だ」
前線で戦うのが勇者や戦士、後衛で傷を癒すのが聖女の役目なら、彼らに適切なアイテムを配給して戦える環境を整えるのが商人の役目である。それを軽視した冒険者パーティは、たいてい悲惨な末路を迎えていた。
「……わかったの。私も自分の役目を果たすの」
アヤコはシールドを張って、パーティの守備力をあげる。
「遠距離攻撃」「近距離攻撃」「防御」「治癒」として「補給」がそろった彼らは、完璧な連携でシェルゴカイを駆除していく。
いつの間にか、彼らの間には確かな絆が生まれていた。
深貝ダンジョン
サクセスたちは、壁が紫色に変色している最深部のエリアに到達していた。
「かわいそう。壁からひしひしと痛みのオーラが伝わってくるわ。エクスヒール!」
エリザベスは最高の治癒魔法をかける。その光があたった部分は元の真珠色の輝きを取り戻した。
「これで治ればいいんだけど……」
期待をもって壁を見つめるが、すぐに失望する。治癒魔法が途絶えると、すぐに内臓の壁は紫色に変色していった。
「こうなったら根競べね。エクスヒール……いたっ!」
「アホ。魔力を無駄にするな」
再び治癒魔法をかけようとしたエリザベスの脳天にチョップを食らわせると、サクセスは『鑑定のメガネ』を発動させる。
「なるほど。体内に入った異物が原因で苦しんでいるのか」
サクセスは、いきなり紫色の壁に腕を差し込んで、何かを引き抜く。
それは、ピンク色に輝く小さな玉だった。
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