商人の交渉
「うむ。見事ゴッドシェル様を治療した暁には、充分な報酬を約束しよう」
王がそういった時、今まで後ろに控えていたサクセスが前に出てくる。
「失礼ながらもお聞きします。その報酬とは?」
「なんじゃ?そなたは?」
「商人のサクセスと申します。報酬などの俗な話は、すべて私をお通しください」
欲深そうな顔をするサクセスに、王は舌打ちする。
「無粋なやつめ。我らが信じられぬか。よかろう。見せてやる」
王が合図すると、従者たちが大きな宝箱を持ってくる。
「みるがいい。王家の秘宝ドラゴンの骨じゃ」
自身満々に蓋があけられると、中型のトカゲの魔物の骨が出てきた。
それを見て、一行は微妙な顔になる。
(なあ、あれって走りトカゲの骨だよな。中級冒険者の飯の種になっているありふれた魔物の。ギルドの買い取り価格はいくらだっけ?)
(金貨一枚だな。まったく、先に交渉しておいて正解だったぜ。たしかにここじゃ貴重品なんだろうけど、あんなのもらっても何の意味もない)
ガラハットのささやきに、サクセスはそう返す。その間にも、王は自慢そうに骨を撫でていた。
「これは長年王家に伝わる秘宝。きっと聖女様もよろこんでくれよう。よし、この骨にまつわるエピソードを詳しく……」
「あいや。お待ちください。そのような貴重な宝をいただいたら、我々の身が危なくなります。多くの者たちから狙われて、休むこともできなくなるでしょう」
サクセスは、宝箱の前で平伏しながらそういった。
「ほう。サクセスとやら。身分低き商人の割には、身の程をしっておるな」
伝説の秘宝を持ち上げられて、王の機嫌がよくなる。
「では、何を望む?」
「宝などは何もいりません。その代わりに、わがヴァルハラ領との貿易をお許しください」
思いがけない提案に、王は首をかしげた。
「貿易とな……?」
「はっ。必要なものを交換することで、お互いにより利益を得られるでしょう」
サクセスの提案に、王は頷いた。
「よかろう。そなたたちに貿易の独占権を与え、これから月に一度は交易船を派遣しよう」
王はそう約束する。それを聞いて、サクセスはうまくいったとほくそえむのだった。
聖女パーティに与えられた部屋で、エリサベスたちがくつろいでいた。
「なんていうか、豪華な部屋だよね」
エリサベスは部屋を見渡してつぶやく。壁は貴重なサンゴでできており、部屋の中の日用品には金銀が潤沢に使われていた。
「サクセス、あなたはもっと欲が深いとおもっていました。何も宝を要求しないとは。ようやくわが領の騎士になる自覚がでてきたのですか?」
エレルはサクセスの頭をよしよしと撫でるが、次の言葉で手が止まる。
「中途半端なお宝をもらうより、毎月貿易するほうが儲かるだろ」
「あははっ。サクセスらしいわ」
それを聞いて、エリサベスが笑った。
「坊ちゃんは金とか銀を要求するのかと思ってましたけどねぇ」
ガラハットは手元の銀杯を見てつぶやく。キラキラと輝く銀は、いかにも高級そうだった。
「そんなもん、貿易でいくらでも手にいれられるだろう。しかし、考えたらおかしいな。海底でどうやって金や銀などの金属を採取しているんだ?」
その疑問には、アヤコが答えた。
「この近くに海底火山がある。そこから出る熱水に含まれる金属が、ゴッドシェル様の外殻にくっつくの」
貝の仲間には、すべての生物において唯一鉄の鱗を持つものがいる。ウロコフネタマガイとよばれるその貝は、海底火山の熱水の中で生息し、鉄を精製して鎧を形成するとして有名である。ゴッドシェルもそういう性質を持つのだろう。
「なるほどね。でも骨が通貨になっているってことは、金銀はそこまで貴重でもないってことか。これは儲かりそうだ」
欲深そうに笑うサクセスを見て、エレルがあきれる。
「まったく……それより、貝柱神の治療ってどうすればいいんですか?」
「ここより地下にある階層に潜っていくの」
アヤコの話によると、貝底国はいくつかの階層に分かれたダンジョンになっているらしい。
貝柱神ゴッドシェルは常に新しい殻を生み出しており、貝底人たちは新しい殻ができるたびに住居をそこに移す。その結果、重要な内蔵部分は最深部に位置しており、そこにたどり着かないと治療ができなかった。
「まさか、変なモンスターとかいないだろうな」
サクセスが聞くと、アヤコは憤慨した。
「お爺ちゃんを馬鹿にしないで。私たち貝の神様で、すごく器が大きいの。海の生き物なら誰でも受け入れてくれるの……まあ、悪いやつには容赦しないけど」
「容赦しないって?」
エリザベスは、ちょっと不安そうな顔になる。
「すごく怖い罰を与えるの」
アコヤは怖そうに身を震わせるのだった。
貝底国-深貝ダンジョン。
「なんだこれ」
ゴッドシェルの内臓部分に通じるダンジョンの入り口には、人型のヒトデみたいな石が積み上げられていた。それらは、白やピンク色をしていてキラキラと輝いている。
「人手鬼の死体。四百年前の勇者との戦いでお爺ちゃん体内に残っていたそれを、私たちが苦労して取り出したの」
アヤコが恐ろしそうに説明する。
「なんで石に?」
「人手鬼は不死身。体をばらばらにしても再生する。倒すには、勇者たちがやつらの動きをとめて、お爺ちゃんが体内で石化封印するしかなかったの」
たしかにヒトデの再生力は強い。手足をちぎっても、その手足から新しい頭が生えてきたりするのである。
「まさか、調子がわるいのってこれが原因じゃ?」
「たぶん違うの。勇者と鬼の戦いが終わった400年前の時点で、すべての死体を取り出しているはずなの」
アヤコはきっぱりと否定する。
「そうか。なら無駄になるかもな。濡れていて気持ち悪いんだが」
サクセスは不快そうに身じろぎをする。
「なにそれ」
「一応、ヒトデの化け物と戦ったという話を聞いて用意していたんだ。まあ、無駄になるならそれでもいい。行こう」
エリサベスたちをつれて、サクセスはダンジョンに入っていった。




