貝底国
数日後
準備を整え、エリサベス一行はアヤコの『宝貝船』に乗り込む
「うわぁ。綺麗な船ね。でも、狭くないかな?」
その船は見た目はただの大きな貝殻で、二人も乗れば身動きがとれなくなりそうだった。
「心配ないの。『拡張』」
アヤコが魔力をこめると、船の内部が外殻を無視して広がっていく。あっというまに巨大船並の容積になった。
「これはすごいな」
「当然なの。貝殻人は魔法に優れているの。伝説の勇者様や聖女様も、貝底国で魔法を学んだといわれているの。私は空間魔法の使い手なの」
胸を張っていばるアヤコを見て、サクセスは腹の中で考えていた。
(これは、美味しい話だったかもな。確かに貝殻人は今では地上では失われている魔法技術を持っていると伝説にある。直接的な利益が得られなくとも、技術や知識を教えてもらえば……)
そんなことを考えている間に、宝貝船は水中を進んでいく。
アトルチス海の沖、深い深い海の底にもぐっていくと、やがて小山のように巨大なシャコガイが見えてきた。
「あれは?」
「おじいちゃんの外殻。私たち貝底国なの」
その外殻は金属質な光をたたえ、底の部分からボコボコと黒い泡が発生している。
「あれが『石化霧』の発生源か」
「そう。触れないように気をつけるの」
宝貝船は泡をさけながら、シャコガイの裂け目に入っていった。
貝底国
巨大なシャコガイの内側に、その国はあった。
宝貝船が港に着くと、槍をもった兵士たちに囲まれる。彼らは全員変な兜のようなものを被っていた。
「アヤコ姫様。どこにいっていたんですか!陛下は心配されていたのですよ!」
「聖女様をつれてきたの」
何か弁解するアヤコを確保すると、兵士たちは槍を向けてきた。
「侵入者め。おとなしくしろ。我らは忠実なる槍貝兵」
「待って!」
アヤコは兵士を押しとどめ、一人ずつ紹介する。
「彼が勇者」
「へ?俺っちが?」
指差されたガラハツトは、目を白黒させていた。
「彼女が戦士」
「私はただの騎士なのですが……」
そういいながらも、エレルはちょっとうれしそうだった。
「荷物もち」
「俺は商人だ」
大きなリュックをかついだサクセスがむくれる。
「そして、彼女が聖女様」
「エリザベスと申します。よろしくお願いしますね」
エリザベスは聖なる美しい光を放って、にっこりと笑う。
彼らを胡散臭そうな目で見ていた兵士たちだったが、最後の少女を紹介されて態度を改めた。
「おお。なんと美しい光だ。われらが救世主様!」
エリザベスたちは兵士たちに連れられて、王宮に行くのだった。
ヤドカリ車の外から見る町の景色は、普通の中世ヨーロッパのような町並みが広がっていた。
道を歩く人々も、体の一部に貝殻がついているだけで、あまり人間とは変わらない。彼らは『貝殻人』という種族だった。
「イキのいい魚が手に入ったよ。早い者勝ちだ!」
「俺に売ってくれ!」
町には魚屋があり、漁師たちが釣ってきた魚が売られていた。
彼らが魚と引き換えに差し出しているのは、白い石である。
「あれは何だ?」
「骨貨という。私たちの国の通貨なの」
アヤコの説明によれば、たまに川に流されて溺れ死んだ魔物が沖にまで流される。貝底国ではその肉が大人気で、骨は貴重品として通貨になっているとのことだった。
「まさか骨が金になっているとはな。面白い」
ところ代われば貴重品の種類も変わる。サクセスは改めて異種族間の価値観の違いを感じるのだった。
家畜化されたヤドカリが引く車は、豪華なサンゴでできた王宮に着く。
エリサベスたちは勇者一行として歓迎され、すぐに王との謁見が開始された。
「聖女殿、勇者殿、戦士殿。よくぞこられた。ワシは貝底王ホタテ三世じゃ」
ホタテ貝のような兜を被った老人が、威厳たっぷりに豪華に玉座にすわる。珊瑚でできたその玉座は、キラキラと輝いていた。他にも職台や装飾品は金銀で飾られていて、豪華なイメージをかもしだしている。
エリザベス、ガラハット、エレルの三人は慌てて跪く。その少し後ろでサクセスも平伏しながら、冷静に貝底国を分析していた。
「事情はアヤコ姫からお聞きしました。私は先祖セーラ様の足元にも及ばぬ非才の身なれど、ゴッドシェル様の治療に全力をつくさせていただきます」
エリザベスが聖女のオーラをまとっていうと、王は満足そうに頷いた。




