世界の危機
「材料ってこれ?野菜とかリンゴはわかるけど、甲羅イノシシの肉なんて硬くてまずいよ」
エリザベスは、いかにも固そうなイノシシの肉を見て、顔をしかめる。甲羅イノシシの肉は固くて筋が多いので人気がなく、ギルドでも安値で引き取られていた。
「まあ、みていろ。油を引いた鍋に切り分けたイノシシの肉と野菜りんごを混ぜ合わせて、よく火を通す。そして酢をかけると、できた」
人数分用意して、テーブルに並べる。
「あれ?なんかいいにおい」
「ちょっと美味しそうですね」
やってきたエレルも、匂いをかいで頬をゆるめていた。
「そろそろいいかな?よし。いただきます」
「いただきます」
全員が席につき、イノシシ料理を口に入れる。すると、エリザベスが歓声を上げた。
「なにこれ?柔らかい」
「これは本当にイノシシ肉なんですか?まるで高級肉みたいです。すごくさっぱりしていて、食べやすいです」
エレルもうれしそうに食べていた。
「うまいうまい。また肉と野菜とリンゴの組み合わせが絶妙で……酒もすすむぜ」
ガラハットは、ワインとイノシシ料理を交互に味わっている。
「でも、どうしてあの固い肉がこんなに柔らかくなったの?」
エリサベスの疑問に、サクセスが答えた。
「それが『酢』の効果さ。『酢』には固い肉を柔らかくする効果があるんだ。さらに疲労回復や美容にもいい」
「美容にいい?」
その言葉に、エレルが食いつく。
「サクセス、ぜひこれを譲ってください!」
真剣な顔をして頼み込むエレルに、サクセスは戸惑ってしまった。
「あ、ああ」
「なんだ?エレルのお嬢さん。婚期にあせっているのか?」
それを見たガラハットがからかう。
「ほっといてください。23歳といえばもう適齢期なんです。いつ出会いがあるかもしれないので、綺麗にしておかないと」
「エレル姉さん。お嫁にいっちゃうの?」
エリザベスが悲しそうな顔をするので、エレルは慌ててしまった。
「い、いえ。私はエリサベス様が結婚するまでは、お側に仕えさせていただきます。お嬢様が幸せになったのを見届けてからじゃないと、安心して嫁にいけないというか……」
「だってさ。サクセス。私が早く結婚しないと、エレル姉さんが行き遅れるみたいだよ」
なぜかエリザベスは、サクセスを意味ありげに見つめる。
しかし、サクセスはそんな視線に気づかないように、独り言をつぶやいていた。
「エレルさんの結婚か……誰かいい人がいないかな。下手に嫁に出したらヴァルハラ家に家臣がいなくなってしまうからな。エリサベスの婿になるやつは優秀な部下もつれてきてくれる金持ちじゃないとな。ああ、また条件が厳しくなる……」
そんな彼らを見て、ガラハットはあきれる。
「まったく、貴族って大変なんだな。まあ、俺には関係ないか」
さまざまな思惑をもつ彼らを肴にして酒を飲むガラハットだった。
食後にお茶を飲んでいると、伝書鳩がやってくる。
「どれどれ?至急聖女様に申し上げますって。ロッテルダム漁村の網元からか……え?」
その手紙を読んだサクセスは、眉を曇らせる。
「何が書いてあったの?」
「どうやら、厄介な客人がやってきたみたいだ。すぐにいかなくては」
こうして、サクセスたちはアトルチス海に面したロッテルダム漁村に馬車を走らせるのだった。
ロッテルダム漁村。
一行は漁村につくなり、網元の屋敷に案内される。
そこでは、ピンク色の髪をした美少女が保護されていた。その頭には、貝殻がついている。
そしてその胸は、小さな体に反して立派にふくらんでいた。
「えっと……はじめまして。私はヴァルハラ領の領主、エリザベスと申します」
エリザベスが自己紹介すると、少女は喜びの表情を浮かべた。
「まちがいない。そのきれいな聖なる光は伝説の聖女さま。おねがい!お爺ちゃんを助けて!」
少女は涙を流して、エリザベスにすがりついた。
「ち、ちょっと落ち着いて。詳しい事情を聞かせてもらえるかな」
エリサベスが優しく聞くと、少女はしゃくりあげながら話し始めた。
「私の名前はアヤコ。海底の民、貝殻人の姫なの」
アヤコが語った内容は、驚くべきことだった。
「400年前、魔族の人手鬼がせめてきたの」
毒をもつ人型のヒトデに襲われ、貝底国は大混乱に陥る。ついには貝底国そのものであるゴッドシェルの体内にまで侵入し、内臓を食いあらそうとした。
困った貝殻人たちは、当時魔王と戦っていた勇者たちに討伐を依頼。仲間を連れた勇者は激しい戦いの末、ついに人手鬼たちを全滅させたという。
しかし、ゴッドシェルはその時負った傷のせいで殻を閉じて深い休憩に入り、貝殻人たちと地上人たちの交流も途絶えた。
そして今から50年前、突然ゴッドシェルが苦しみはじめ、「石化霧』を噴きだした。
貝殻人たちは協力してシールドを張る事で霧が世界に拡散することを防いだが、その威力は年々強力になり、もはや抑えることができなくなったという。
「ゴッドシェルのお爺ちゃんは、どんどん弱っていって、みんなが手をつくしたけど、今にも死にそうなの。そんな時、勇者様の従者である聖女様の話を読んで、藁にもすがる思いで会いにきたの。おねがい!私たちを助けて!」
涙をうるうるしながら頼み込んでくる少女に、エリザベスはすっかり同情してしまった。
「かわいそう。わかったわ!すぐに行って……いたっ!」
安請け合いするエリサベスの脳天に、サクセスのチョップが炸裂する。
「簡単に話を決めるな。仮にその話を受けたところで、俺たちに何のメリットがあるんだ」
サクセスは冷たい顔で、アヤコをにらむ。
「メリット?何それ?」
アヤコはよくわかってないみたいで、首をかしげた。
「だから、何らかの金や利益を提供しろ。エリザベスの治癒魔法を利用したいんなら、当然その対価を払うべきだろう」
欲深く要求するサクセスに、エリサベスが憤慨した。
「ち、ちょっとサクセス。こんな小さな子にそんなことを言っても」
「よく考えてみろ。こいつが言った「世界の危機」とは、ゴッドシェルが死んだら住む場所がなくなる貝殻人の世界のことだ。俺たち地上人には関係ない」
サクセスは、冷たく切って捨てる。
「むしろ、ゴッドシェルが死んだほうが『石化霧』が無くなって、また海上貿易ができるようになるかもしれないな。メリットとデメリットを考えたら、放置したほうが……」
利己主義に走って冷たく見捨てようとするサクセスだったが、次の言葉を聴いて考えを改めた。
「残念だけど、お爺ちゃんが死んでも『石化霧』は無くならない。むしろ魔力が暴走して『石化霧』が拡散され、全世界に広がっちゃうの」
「なんて迷惑な……」
自分たちに関係ない話だと思っていたが、そうではないことを知ってサクセスは顔をしかめる。
「わかったよ。だけど想定外の事態に備えて、準備だけはさせてもらうぞ」
しぶしぶゴッドシェルの治療を請け負うサクセスだった。




